第3話「拳をもって、現れよ」
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次の日。
朝ごはんを食べ終えた頃、玄関のチャイムが鳴った。
田舎の家で、朝っぱらからチャイムが鳴るなんて――めったにない。
「誰やろ……」
戸を開けると、スーツを着た男が立っちょった。
真っ直ぐな背筋に、無表情な顔。背後には黒塗りの車が停まってる。
「桂浜いろは様でお間違いないでしょうか」
「……え?」
「アルマ教会より、正式なご案内をお持ちしました」
胸元の内ポケットから、銀色の封筒が取り出される。
表には、見覚えのない刻印――翼のような紋章が刻まれていた。
「これは、“代表”になった者への最初の通達となります」
「ほんまに、うちに……?」
「はい。高知代表・桂浜いろは様として」
胸の奥が、ズンと重くなる。
現実が、また一つ動いた。
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封筒を開けると、中には1枚の厚紙が入っていた。
【拳をもって、現れよ】
土佐・代表殿
指定日時:五日後
指定場所:土佐山中・空崎錬場
裏には、小さくひとことだけ。
――初召集の儀。見極めは、拳にて行う。
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「これ、なんなが……」
「“代表”として、教会に認められるための“最初の関門”です」
「つまり、“継承”しただけじゃ足らんっちゅうこと?」
「ええ。正式な高知代表として認定されるには、“実力の証明”が必要です」
「どうやって証明するが?」
男は表情を変えず、静かに答えた。
「――決闘です」
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「いろは、今日は早いね」
夕方、学校から帰ってきた私に祖母が声をかける。
けんど、私の頭ん中は、今日のことでいっぱいやった。
“見極めは、拳にて行う。”
うちは――また、誰かと戦わなあかんのや。
「……大ばあ、代表って、“一人”やないがやね」
「うん?」
「うち、ただ継いだだけかと思いよった。
けんど、継いだら、すぐに“試される”がやと」
「そりゃそうやろう」
「うちの家でいえば、“味噌汁がちゃんと味噌汁かどうか”確かめるがと同じことや」
「大事なんは、“それらしさ”やない。“中身”やき」
「中身、か……」
拳で、証明する。
その言葉が、ずっと頭の中で回ってた。
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その夜、私は神社の裏にある広場で、シャドーを繰り返していた。
拳を構え、踏み込んで、突く。
間合い、呼吸、視線。全部が、源蔵さんとやったときとは違って感じる。
「誰が来るんやろう」
教会が“試す”ために送ってくる相手。
どんな拳で、どんな覚悟で――うちと向き合うがやろうか。
知らん誰かの存在が、もうすぐ目の前に現れる。
けんど、それが怖いわけやない。
うちはもう、ここで終わるつもりはないき。
拳を握り、目を閉じた。
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拳をもって、現れよ。
その言葉の意味を、私はまだ知らん。
けんど、それが“始まり”やいうことだけは――よう分かっちゅう。
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【To Be Continued】
ここまで読んでくれて、ありがとー!
ついに来たね、「見極めの儀」やって。
拳で証明せえっちゅうけんど、証明ってなんなん?
数学のテストじゃあるまいし、拳でどう答え出すがやろうね。
けんど、怖いってより――
ちょっと楽しみなんよ。
知らん誰かが、うちの前に来て、拳ぶつけて。
その先で、うちがどんな顔しちゅうか、ちょっと見てみたい。
とりあえず今は、シャドーばっかやりすぎて、肩がパンパン。
次回、いよいよバトル回!
どんな相手が出てくるか、楽しみにしちょって!
また来てよー。まちゆうき!
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