第1話「牙を継ぐ者」
全国47都道府県、それぞれに“代表”が存在する世界。
彼らは「郷土の魂」を継ぎ、
誇り・文化・伝統を背負って戦っている。
桂浜に暮らす、喧嘩っ早い女子高生・いろは。
偶然の出会いが、彼女の拳と運命を大きく揺り動かす。
「うちの拳で、全国ブッ飛ばしちゃるき!」
これは、土地を背負い、拳で道を切り拓く者たちの物語。
郷土を巡る熱いバトルファンタジー、ここに開幕!
「……またケンカやったがか、いろは」
祖母の声は呆れと心配が半分ずつ混ざっていて、
高知の潮風と一緒に、すぅっと胸に沁みる。
右目に貼った絆創膏、破れた制服、鉄の味の残る唇。
今日も私は“意味のないケンカ”をして帰ってきた。
けんど――この町には、何もないがよ。
海と山と、犬と、夕焼け。それだけがあれば、息ができる。
だから私は、ずっとここにいる。
……いや、ウソやね。ほんとは、
「大ばあを一人にして、どこも行けんがやき」
そう思っちゅう。
けんど、言うたら泣かすき、私は言わん。
⸻
「ほら、これ食べ」
祖母が差し出したのは、温かい味噌汁やった。
ちゃんと湯気が立っちゅう。
わかめと、いつもより大きめに切られた豆腐。
それを見ただけで、なんや胸の奥がぎゅうっとなった。
「ニュースつけちゃろかね」
テレビから流れるのは、全国の郷土代表たちの特集。
『現・高知代表、“土佐ノ源蔵”。継承を拒否したまま、10年が経過――』
「……あの人、まだ生きちゅうがやね」
祖母がぼそっと呟く。
「源蔵おんちゃんは、あんたのお父さんの師匠やった人ながよ」
私は味噌汁の箸を止めた。
「……ほんまに?」
「うん。お父さんは、あの人の下で学びよった。けんど……事故で」
「……」
静かに、箸を置いた。
父と母は、私がまだ小さい頃に交通事故で亡くなった。
正直、顔も声も覚えちょらん。
けんど、“強い人”やったって、祖母はずっと言うてくれゆう。
「源蔵さんも、たぶん、寂しゅうて誰にも渡せんがやろね。高知を」
「けんど、それじゃあいかんがやき……」
その言葉が、なんだか胸に刺さった。
寂しいなら、渡せばえい。誰かに。
でも――私は、何もできんがやろうか。
⸻
その夜。
気がついたら、私は神社の境内に立っちょった。
桂浜から少し離れた、古い古い小社。
足が勝手に動いちょったのかもしれん。
拝殿の奥に、人の気配があった。
「よう来たのぅ」
白髪、鋭い目。肩には、牙のような刺青。
沈黙が、潮騒に飲まれる。
「……あんた、誰?」
「名乗るほどのもんじゃない。けんど、昔は“土佐ノ源蔵”と呼ばれちょった」
心臓が跳ねた。
――ほんまもんや。
ニュースで観た、あの名前。
現・高知代表。十年以上も誰にも継承を許さん、“最後の無双”。
「さっきのケンカ、見ちょった」
「腰の入り。間合いの詰め方。未熟やけんど……芯はあった」
「“牙”を継げ。土佐を背負うがは、おまんじゃ」
「……は? なんでうちが?」
「お父さんの拳を知っちゅう者に、渡したかったがや」
「やめてや。そういうの、知らんき」
「うちはただ、喧嘩して……流されちゅうだけやき」
「なら、ワシを倒せ」
「“継がん”言うなら、“継がせん”力を見せてみい」
その瞬間。
源蔵が一歩踏み出した。
地面が“ドン”と鳴る。空気が震える。
拳が交差した。
骨が軋み、息が詰まる。
一発。それだけで、全身が悲鳴を上げた。
けんど――私は、下がらんかった。
「……大ばあを泣かすような強さやったら、いらんがよ!!」
「うちかて、守りたいもんくらいある!!」
喉が裂けるほど叫んで、拳をぶつけた。
視界が、光に染まった。
⸻
気づけば、私は倒れちょった。
「ええ拳じゃった……おまんで、えいろう」
源蔵が懐から、一本の牙のペンダントを取り出す。
「これが“土佐ノ牙”。高知代表の証や」
「これを手にした者だけが、アルマを継承できる」
「光れば、土佐は続く。光らなければ、ワシで終わりや」
私は、手に取った。
キィィィィン――――
ペンダントが、眩しい光を放つ。
目の前が、真っ白になる。
⸻
私は“見た”。
鎧武者。侠客。拳士。革命家。
全部、土佐を背負った歴代の“代表”たち。
『この子か?』『軽すぎる』『いや、面白い』
『拳は見えちょった』『魂も』
『この者に、牙を――!』
『問うぞ。おまん、継ぐ気か?』
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私は目を覚ました。
夜明けはまだ来てない。
けんど、胸の奥で、確かに――何かが吠えよった。
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【To Be Continued】
ここまで読んでくれて、ありがとーね!
うちは、高知県・桂浜に住みゆう普通の女子高生……やったはずなんやけど、
なんか昨日から急に「代表になれ」とか言われて、拳ぶつけて、牙もらって――
人生、どえらい方向に走り始めたみたいやき。
けんど、びびっちょったのは、“戦い”より“別れ”やったがよ。
大ばあの味噌汁とか、いつもの朝とか。
そういう“当たり前”がなくなることの方が、怖かった。
……でも、だからこそ、進むがやき。
拳で、胸張って、戻ってくるき。
次回は、「アルマ」っちゅう郷土の魂とやらと、ようやく会えるらしい。
どんなヤツか知らんけど、ま、うちらしくやったるきね!
また読みに来てよ。ほんで、また一緒に進もうや!
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いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
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