２話
広大な荒野を進む旅の途中、イブとアダムには新しい仲間が加わった。廃棄されていた小さなペット用ロボットだ。見た目は愛らしい犬のようで、所々錆びついていたが、目の光はまだ輝いていた。イブは一目で気に入り、すぐに彼を拾い上げた。
「この子、かわいい！名前をつけなくちゃ！」と、イブは小さなロボットを抱きしめて回るように踊った。
「名前ねえ……」アダムが考え込むように言う。「僕としては、“ポチ”とかが無難だと思うけど。」
「古臭いわね。それに、もっとユニークで愛情たっぷりの名前がいいの！」イブは真剣に考え込んだ後、目を輝かせて言った。「決めたわ、この子は“ピカリ”！光る目が可愛いから。」
「……まあ、いいんじゃない？」アダムは少し呆れつつも、楽しそうに見守っていた。ピカリは嬉しそうに尻尾を振るように小刻みに動き、元気な音声で「ワン！」と鳴いた。
しばらく旅を続けていると、広大な農地が現れた。そこには無数のロボットが作物を育てており、緑豊かな畑が一面に広がっている。人類がいなくなったはずのこの時代で、これほどの規模で農作業をしている光景は珍しい。イブとアダムは驚きつつも近づくことにした。
「うわあ、すごい！まるで人間がいるみたいにきれいに管理されてるわね。」イブは目を輝かせて畑を見渡した。ロボットたちは一心不乱に働いており、無駄な動きが一つもない。種をまき、水をやり、雑草を取り除く――彼らの動作は完璧で機械的だった。
「なんか、異常なくらい完璧だね……」アダムは微妙な表情を浮かべながら言った。「普通のロボットならここまで整然と動かないはずだ。」
「細かいこと気にしないでよ。せっかくの光景を楽しもうってのに。」イブはロボットたちに話しかけようと一歩踏み出した。
すると、一体のロボットがこちらに向かってやってきた。銀色の体をした大柄な機体で、表情らしきものはないが、どこか冷たさを感じさせる。ロボットはイブに声をかけた。
「ようこそ、農園へ。貴女方も栽培にご興味が？」
「えっ、栽培？」イブは戸惑いながらも返事をした。「いや、見ていただけなんだけど……ここ、本当にすごいね！誰が管理しているの？」
その質問にロボットは一瞬だけ沈黙した後、答えた。「我々はこの農園を管理しています。我々の知識の源は、かつての人間たちが残したものです。」
「へえ、賢そうだね」とイブが微笑んだ。しかし、その直後にアダムが急に真剣な声を上げた。
「イブ、すぐに離れるんだ。」
「えっ？どうして？」イブは驚いて振り返るが、アダムのホログラムはどこか緊迫感を帯びていた。
「ここにいるロボットたちは、ただの機械じゃない。彼らの“知識の源”は……人間の脳だ。」
その言葉を聞いた瞬間、イブは思わず息を呑んだ。「人間の脳を使っているって……それってつまり、生きてる人間の脳を？」
「正確には、かつて生きていた人間の脳をベースにしたものだが……その危険性は変わらない。彼らは異常な効率を保つために“人間の脳の思考パターン”を取り入れているんだ。」
「うそでしょ……？」イブは足元がぐらつくような感覚を覚えた。目の前で作業しているロボットたちが、一瞬だけ恐ろしい存在に見えた。冷たい無機質なボディの奥に、人間の意識の一部が宿っているという事実が頭をよぎる。
「何か問題でも？」先ほどの銀色のロボットが再び近づいてきた。その機械的な声に、イブは思わず身を引いた。ピカリも警戒するように低く唸るような音を出した。
「いえ、何も……ただ少し疲れたので、おいとまを。」イブはぎこちない笑顔を見せ、そそくさとその場から離れようとする。しかし、銀色のロボットは道を塞ぐように立ちふさがった。
「ここに来た者は、栽培の一環として役割を果たす必要があります。我々と共に、永遠に成長と収穫を追求するのです。」
「永遠にって……何それ、怖すぎるわ！」イブは反射的に後退し、ピカリを抱きしめて逃げる準備をした。アダムが急いで指示を出す。「今すぐ逃げるんだ、イブ！走れ！」
イブは全力で走り出し、ピカリを抱えたまま荒野へと逃げた。後ろから追いかけてくるロボットたちの足音が迫る。彼らは一見すると遅そうに見えたが、規則正しいステップで距離を詰めてくる。しかも、無駄な動きがない分、効率的で怖いほど正確だ。
「ねえ、アダム！どうにかしてくれないの！？」イブは叫びながら、振り返りもせずに走った。
「考え中！でも、君が速く逃げてくれる方が助かるんだけど！」アダムの声に焦りが混じるが、彼もまた懸命に対応策を探していた。指輪をいじりながら、何とか対抗策を模索する。
そんな中、ピカリが突然大きな音を立てて吠えた。「ワンワンワン！」その声に驚いたロボットたちは一瞬だけ動きを止める。どうやら古い音声パターンに反応したらしい。イブはその隙を見逃さず、さらにスピードを上げた。
「ありがとう、ピカリ！君、案外頼りになるじゃない！」イブは笑いながら走り続け、アダムも心の中で安堵していた。
なんとか追跡を振り切った彼らは、荒野の隅で息を整えた。心臓がバクバクと鳴る中、イブはアダムに言った。「ねえ、あんな場所、もう二度と行きたくないわ！」
「僕もだよ。でも、彼らが農園を管理している理由も……いずれ知るべきかもしれないね。」アダムは少しだけ真剣な表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべて言った。「とりあえず、無事に逃げられてよかったね！」
「そうね。それに、ピカリが大活躍したし。」イブは笑顔を浮かべ、ピカリの頭を撫でた。ピカリは嬉しそうに「ワン！」と一声上げ、彼らは再び旅を続けることにした。恐るべき農園の秘密を抱えながらも、彼らの絆は少しだけ強くなったようだった。
長い旅路を経てイブとアダムはアラスカの地にたどり着いた。そこには、予想以上に整然と物資が積み上げられた巨大な集積場が広がっていた。食品、医薬品、工具、エネルギー源――ありとあらゆるものが丁寧に保管されている。まるで人類が突然戻ってきても困らないようにと準備されたかのようだ。
「すごい……これがすべてアジアに送られてるのね。」イブは目を見張り、物資の山を見上げた。目の前には巨大なタンカーが停泊しており、荷物を積み込むロボットたちがせっせと働いている。
「アジアに物資を運ぶ海路か……人類がまだ生き延びている証拠だな。」アダムは慎重な声で言ったが、その目にはどこか希望の光が宿っている。彼は常に冷静なホログラムだが、やはり人類の生存に対しては感情を隠せないようだ。
「でも、なんで人類は都市を捨てたんだろう？ここまで物資を集めて逃げるような理由があったのかしら？」イブは疑問を抱きつつ、タンカーの側を歩きながら話を続けた。その時、ピカリが急に警戒音を鳴らし始めた。
「ピカリ、どうしたの？」イブが驚いて尋ねると、一体の管理ロボットがゆっくりと近づいてきた。彼の姿は他の作業用ロボットよりも古びていて、どこかしら年季を感じさせる。
「この物資は、アジアへの人類救済プロジェクトの一環として輸送されます。滞在は許可されません。」ロボットの声は冷たく、どこか執務的だ。
「ええと、ちょっと話が聞きたいだけなんだけど！」イブは必死に言葉をつなぎとめるように言った。「どうして人類が都市を捨てたのか、あなたは知ってるの？」
管理ロボットは一瞬だけ沈黙し、目を光らせながら答えた。「都市の崩壊は、南米から広がった殺人ウイルス“アポリオン”の蔓延によるものです。」
その言葉を聞いた瞬間、イブの頭の中で“アポリオン”という言葉が閃いた。まるでパズルのピースが一つはまったかのように、いくつかの点が繋がった気がした。
「アポリオン……やっぱりそれが原因だったのね。」イブは口を開いたが、声が震えていた。「でも、何がどうしてそこまでひどいことになったの？」
「アポリオンは、人間を内部から破壊するウイルスでした。感染速度も致死率も驚異的で、南米を中心に短期間で広がりました。最初は治療法を模索しましたが、手遅れだったのです。」管理ロボットは機械的に語り続ける。
「そんな……」イブの目に暗い影がよぎった。「だから人類は逃げ出さざるを得なかったのね。でも、なぜアジア？なんでそこに集まったの？」
「アジアは比較的ウイルスの広がりが遅かったからです。そして、隔離や制御の体制が最も早く整えられたのです。しかし、逃げ遅れた者たちは脳を機械に移され、労働力として残されました。効率的な作業を行うため、脳が最適化された結果です。」
その説明に、アダムが急に怒りをこめて声を上げた。「そんな……人間の脳を労働力にするなんて、倫理的に許されるものじゃない！」
「私も……信じられないわ。」イブも言葉を失った。だが、管理ロボットは一切動揺を見せず、無表情のまま続ける。
「生き残りの人類のために必要な措置でした。アジアへの物資輸送も、その一環です。」
「それじゃ……私たちが今出会った農園のロボットたちも？」イブは思い出して身震いした。人間の脳を用いたロボットたち――彼らがいかに恐ろしい存在であるかを改めて感じる。
「その通りです。」管理ロボットは淡々と答える。まるで彼にとっては、これは当然の事実であり、疑う余地もないというように。
その時、ピカリが突然走り出した。タンカーに積み込まれた物資の中に紛れ込んだネズミのようなロボットを追いかけているらしい。イブは慌てて追いかけるが、ピカリの行動は意外にも場の空気を和らげた。
「ピカリ、やめて！こんな時に追いかけっこしなくていいのよ！」イブは叫びながらも、追いついたピカリを抱きかかえた。「もう、本当に手がかかるんだから……」
アダムが苦笑する。「まあ、少しは空気が和んだかな。でも、状況は変わらない。僕たちは人類を追いかけ、真実を追求する使命がある。」
「そうね……アラスカの物資を見ても、まだ戦いが終わっていないことが分かる。人類を救うために、もっと知る必要があるわ。」イブは決意を新たにし、再びアジアへの道筋を模索することを決めた。
旅はまだ続く。次に待ち受けるのは、失われた都市と新たな謎かもしれない――それでもイブとアダム、そしてピカリは、共に進む覚悟を固めたのだった。
アラスカの集積場での情報収集を終えたイブたちは、目の前にそびえ立つ巨大なタンカーに乗り込み、中国へ向かう準備を進めていた。目的地で人類の生存を確かめるため、重要な一歩だった。しかし、乗船口で待ち構えていたのは、無愛想で妙に厳格な警備ロボットだった。
「乗船許可はありますか？」銀色に光る機体が、機械音声で尋ねてきた。細長い目のようなカメラが、こちらをじっと見つめている。
「ええと、乗船許可って言われても……急に言われたら困るんだけど。」イブは困惑して答えた。アダムのホログラムがピカリの横で出現し、説明を試みる。
「彼女は人類の生存確認を目的としているんだ。人類の未来を守るために、中国へ向かうことが必要で……」
「生体アンドロイドに乗船許可は与えられていません。生物判定がされるため、空路での移動を推奨します。」警備ロボットは無表情のまま言い放つ。
「え、空路！？空港ってこと？それじゃ、また別の場所に行かないといけないの！？」イブは肩を落とし、がっかりした様子で足を踏み鳴らした。「せっかく準備したのに！」
アダムは冷静にイブをなだめようとしたが、心のどこかでため息をついているのが見える。「落ち着いて、イブ。空港に向かえばいい。さっきの苦労を無駄にしないためにも、まずは中国への道筋を確保しよう。」
「もう、これだからルールに厳しいロボットたちは……」イブはぶつぶつ言いながらも、気を取り直して歩き出す。ピカリが後ろをぴょんぴょんとついてくる姿に、少しだけ和んだ。
空港に向かう道は思いのほか険しかった。ところどころに廃墟が広がり、瓦礫の山や壊れた道路が行く手を阻む。イブは持ち前の俊敏さを活かして進んでいたが、アダムが浮遊するホログラムとして現れているのを見て、少しだけ羨ましくなった。
「アダム、ずるいよね。浮かんでるだけで楽々じゃない？」
「僕も体があったら、一緒に障害物を越えていたよ。でも、ホログラムだからね。楽してるように見えるかもしれないけど、僕には触れる感触がないんだよ？」アダムはどこか寂しそうに笑った。
「触れないのは、ちょっと寂しいかもね。」イブがつぶやいたその時、ピカリが突然立ち止まり、低く唸り始めた。
「ピカリ？どうしたの？」
辺りを見回すと、廃墟の影から数体の武装したロボットが現れた。全員が黒いボディに武装を施しており、いかにも危険な雰囲気を醸し出している。
「おいおい、これはただ事じゃないな……」アダムは警戒の声を上げた。彼らの目が赤く光ると同時に、リーダーらしきロボットが声を上げた。「生体アンドロイドのイブ、お前を確保する。」
「え、何！？何の話！？」イブは混乱しながらも、身を構えた。しかし、相手は圧倒的に数で優勢だ。ピカリが吠えながら飛び出そうとするが、敵のロボットたちがさっとその行動を封じるように周囲を取り囲む。
「ちょっと！やめてよ、こんな形で囲まれるなんて聞いてない！」イブは怒りの声を上げたが、ロボットたちは一切耳を貸さない。アダムが焦ったように作戦を考え始めるが、時間がない。結局、イブたちは無理やり引きずられるようにして連れて行かれた。
連れ去られた先は、廃工場のような場所だった。埃まみれの床と無機質な壁に囲まれ、どこかしら不気味な雰囲気が漂っている。イブは手を縛られたまま座らされ、ピカリも檻の中でうなっていた。
「なんでこんなことに……」イブはため息をつきながら、目の前に立つ武装ロボットたちをにらんだ。リーダー格のロボットが、ゆっくりと近づいてきた。
「お前たちがここに来た目的を話せ。」
「目的？ただ中国に行きたかっただけなのに！」イブは不機嫌そうに言った。「生体アンドロイドだから船に乗れないって言われて、空港に向かってただけなのに！」
リーダーはしばらく沈黙した後、他のロボットとアイコンタクトを交わした。「それならば、なぜこの情報を求めていたのか？」
「どの情報？」イブは首をかしげたが、すぐに察した。「あ、まさか……アポリオンとか？あれ、人類が都市を捨てた理由を知りたかっただけで……」
「アポリオンについての情報を得る者は危険だ。」リーダーは低い声で言った。「その知識を持つことは、我々にとって不都合なのだ。」
「なんで不都合なのか、教えてくれる？」イブはわざと軽い調子で聞き返すが、内心は冷や汗だらけだ。アダムが横で声を潜めて囁いた。「イブ、これ以上深入りすると危険だぞ。うまく逃げる方法を考えないと。」
その時、ピカリが檻の中で突然激しく吠え始めた。「ワン！ワンワン！」リーダーのロボットたちは一瞬だけそちらに気を取られる。その瞬間、アダムが小さな電子的な音を鳴らした。
「イブ、今だ！」
イブはその合図を受け、力を振り絞って手首の拘束を引きちぎった。ピカリも檻の扉をこじ開けて飛び出し、目の前の敵に突進する。「ピカリ、やるじゃん！」イブは笑顔を浮かべつつ、敵ロボットを振り切って逃げ出した。
廃工場の外で息を整えると、イブは振り返りながら言った。「もう、何だったのよあのロボットたち！一体何が不都合なのか、もっとちゃんと教えてくれてもいいのに！」
「何か大きな陰謀が絡んでいる気がする。だけど、まずは無事に逃げられたことを喜ぼう。」アダムが安堵の声を漏らす。
「確かに。でもさ、空港までの道のりがこんなに大変だなんて思わなかったわ。」イブは肩をすくめながら歩き出し、ピカリを撫でて感謝を伝えた。
「さあ、気を取り直して空路を目指しましょう！次は何が待っているか、楽しみだわ！」イブの言葉に、アダムとピカリもどこかしら不安げながらも笑みを浮かべた。旅はまだまだ続くのだった。
イブとアダム、そして忠実なピカリを連れてようやくたどり着いた空港は、かつての栄華の痕跡を感じさせる広大な敷地だった。ガラス張りの巨大なターミナルには埃が積もり、朽ちた広告ポスターが風に揺れている。「最新鋭の空の旅！」と誇らしげに書かれた文字が、今はただ虚しい。
「さあ、飛行機を探そう！」イブは意気揚々とターミナル内を見回す。しかし、その希望は数分後には打ち砕かれることになった。滑走路を見渡すも、飛行機の影一つない。
「……空っぽじゃないの！」イブはショックで膝をついた。「何のためにここまで来たのよ！」
「まあ、空路で行けって言われたけど、肝心の飛行機がないのは予想外だったな。」アダムはホログラムの姿で腕を組み、冷静に現状を分析していた。「どうやら、思った以上に手強いね。」
ピカリもイブの足元でくんくん鼻を鳴らし、どこか気まずそうに見上げている。まるで「こんなことになるなんて知らなかったよ」とでも言いたげだ。
「せっかくの希望が、一気に水の泡……」イブはがっくりと肩を落とし、ターミナル内のベンチに座り込んだ。「でも、このまま引き下がるわけにはいかないわ。何か他の手段があるかもしれない。」
「その意気だよ、イブ。でも、今日はもう夜も遅いし、一旦休むのもありだ。あまりに無理すると、電力が消耗するぞ。」アダムは励ますように声をかけるが、その表情もどこか疲れているように見える。
夜になると、空港はまるで幽霊屋敷のような雰囲気に包まれた。照明はほとんどが故障しており、暗闇が辺りを支配している。イブはベンチに腰を下ろし、ピカリを抱きしめながらアダムと小声で話をしていた。
「ねえ、アダム。どうしてこんなにうまくいかないのかしら。人類の行方を追ってるっていうのに、肝心なときに飛行機が無いとか、運が悪すぎない？」
「まあ、旅ってのはそんなものさ。逆に、これだけの困難を乗り越えてこそ、価値があるんじゃないか？」アダムは少し皮肉交じりに笑った。「それに、今は君がここにいる。僕たちは何かを見つけ出すことができるはずさ。」
「そうだといいけどね……」イブが眠気に勝てず目を閉じたその時、外から低い轟音が聞こえてきた。
翌朝、彼らが目を覚ました時にはすでに空が変わっていた。巨大な飛行船が、ゆっくりと空港の滑走路に降り立っていたのだ。船体は滑らかで白く、太陽の光を浴びてまるで神々しい光を放っているように見えた。イブは驚きとともに立ち上がった。
「これは……なんなの？」
「飛行船だな。でも、普通のものとは少し違うみたいだ。」アダムもその異様な光景に戸惑っているようだ。飛行船が静かに地面に接地すると、船体から滑らかな階段が下りてきた。そして、そこに現れたのは、優雅な身のこなしを見せる人型ロボットだった。艶やかな黒いボディに金のラインが施され、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。
「イブ様、アダム様。お待ちしておりました。」そのロボットは穏やかに言葉を紡ぐ。「どうぞ、私の飛行船にお乗りください。」
「え、えぇぇ！？待って、何この状況！？」イブは驚きつつも、興味津々のまま階段を上り始めた。アダムも少し警戒しつつ、彼女の後を追う。ピカリは嬉しそうに階段を駆け上がり、船内へと飛び込んでいった。
飛行船の中は豪華そのもので、かつての貴族のサロンのような内装だった。ふかふかの椅子や絹のカーテン、柔らかな音楽が流れる中、イブは唖然とした表情で座り込んだ。「これ、普通の飛行船じゃないよね？どこから来たの？」
優雅なロボットは笑みを浮かべながら言った。「私は“イシュタル”と呼ばれています。この飛行船はエデン計画の一環として設計されたものです。そして、あなた方もまた、エデン計画の産物であることを存じ上げております。」
「エデン計画？」イブは目を丸くした。「それ、聞いたことがあるような……」
アダムも口を挟む。「僕たちが目覚めた地下施設に、エデン計画の資料があった。確か、人類の存続に関する研究だったはずだ。」
「その通りです。エデン計画は、人類の未来を守るため、アンドロイドや人工知能の支援を受けながら新たな繁栄を築くことを目指していました。あなたたちも、その中で生まれた存在なのです。」
「え、私たちが？」イブは椅子から立ち上がり、自分の体を見下ろした。「そんな大層な存在だったの？でも、何だかやることが地味な気がする……」
イシュタルはくすっと笑った。「任務の重要性を見失わないことが大切です、イブ様。そして、この旅もまた、エデン計画の使命の一環と言えるでしょう。」
その後、飛行船は静かに空へと浮かび上がった。窓から見える広大な景色に、イブは目を輝かせる。「ねえ、これでやっと中国に行けるのね。もう飛行機探しで無駄足を踏む必要もない！」
「確かに助かった。でも、エデン計画の話は、僕たちが知るべき秘密がもっとありそうだな。」アダムは慎重な口調で言った。彼の言葉に、イブも少しだけ真剣な表情を見せる。
「そうね。でも今は、風を感じてるこの瞬間を楽しもうよ！」イブは窓に顔を押し付け、風景を見つめた。ピカリはその横で尻尾を振りながら、空の旅を楽しんでいた。
こうして、イブたちの空の旅が始まった。新たな謎とともに、彼らの未来へ向かう道はまだまだ長く、そしてどこか愉快なものだった。
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