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君に捧ぐ  作者: ゆのう
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◎真相

幼馴染視点になります。

酒場から引き摺り出して容赦なく奴らを痛めつけると、ペラペラと話し始めた。

奴らは「やり過ぎた」と言っていた。

人は群れると理性を軽く飛ばしてしまうらしい。

あいつがそう言ったから。

こいつが先にやったんだ!

止められる雰囲気じゃなかった。


その結果、セツは死んだと聞かされた。


あの日連中はセツをダンジョンに置き去りにしてきたらしい。

すぐに出て来るだろうとしばらく外で待っていても出て来る事はなく、そのうち自分達がしでかした事が怖くなったらしい。

3人はこの出来事を誰にも言わず、自分達の秘密にした。

ダンジョンの中でセツに何があったのかは知らないと言っていた。


セツが死んだのは自称俺の“友達”が、俺の為を思ってセツに弁えさせようとしていたのがエスカレートした末に起こった事だったと知った。

そもそも俺の気持ちを勝手に想像して、よってたかってセツにぶつけるなんてどういう事なんだ?

不満があるなら俺に言えよ。

どうでもいい奴らが俺の1番大切なセツを奪っていた。

その癖に、俺の前では何も知らない顔をして慰めてきた。

そんな事も知らずに俺は酒に溺れてのうのうと過ごして、奴らも普通に生活を続けていた。

すぐ側にセツの仇がいた事にも俺は気付けなかった。

そもそも元を辿れば全て俺のせいだった。

面倒な事はセツを盾にして向き合わず、そのセツにも様子がおかしいと気がついてやれなかった。

あいつらは俺がセツを構うのが気に入らなかったと、どうせセツの方がいつも俺に纏わりついていたんだろうと。

だから代わりにセツにイクスが迷惑をしていると教えてやったんだと言っていた。


何が1番の親友だ。

セツは俺には何も言わなかった。

一言どうにかしてくれと言ってくれれば…いや、俺が表面的な付き合いを続けている以上遅かれ早かれこうなっていたのかもしれない。

本当に俺は救いようがない。

愚かな俺はセツが一番大切だと言う事を失ってから気付かされた。

どんなに後悔しても失ったものは戻らない。

ずっとすぐ側にいてくれたのに、それが当たり前になりすぎてセツを蔑ろにしていた。

今なら分かる。全てを差し置いてもセツだけに向いているべきだった。

俺は息もできないくらいに苦しくて、悔しくて、全てに苛立った。

あの時に戻れるなら何を差し出してもいい。

セツのいない人生なんて歩める気がしない。

だがセツはもうこの世にいないのだと聞かされた。

俺はセツが死んでいた事を受け止められずに、本当はまだ何処かで生きているかもしれないと思い込んだ。

そうしないと、俺は俺でいられなかった。

セツの仇は目の前にいたが、それよりも早くダンジョンに迎えに行ってやらなければいけないと思った。

セツはきっと俺を待っている。

セツの仇を放置して急いでダンジョンに向かった。


セツの行方を探して犯人に辿り着くまでに数年も経ってしまっていたが、俺は一縷の望みをかけて一人でダンジョンに入ってセツを探した。

「セツ!迎えに来たぞ!一緒に帰ろう!」

そこは静かで薄暗く人の痕跡もなく、本当にセツがこんな寂しい場所にいるのか分からなかった。

「大丈夫だ!あいつらはいない!俺だけだ!」

とにかく何かないかと探していると、沼のような場所の近くに汚れて中身が変色した瓶が2本落ちていた。

それを拾って泥を手で拭ってよく見てみると、セツの家が販売しているポーションだった。

「セツ!セツ!!頼む!返事をしてくれっ!!」

確かセツをダンジョンに連れ出した時に、ポーションを持って行かせたと言っていた。

まさかここでセツが死んだのかと周りを見ると、沼からスライムが出てきた。


ああ、セツはスライムに生きたまま溶かされて死んでいったんだろうか?

どんなに痛かっただろう?

どんなに怖かっただろう?

セツは最期に俺の事を怨んでいたのだろうか?

誰もいないこんな寂しい場所で一人きりで最期を迎えて、それすらも誰にも気づかれずに今までいたとしたら…。

スライムに溶かされて骨も遺留品も何も残せずに綺麗に消えるように亡くなっていた。


その事実を頭が理解すると膝から力が抜けて慟哭した。


「あああぁああァアァ!!!!」


俺のせいだ。

セツはこんな酷い死に方をしなければいけないような生き方はしていなかった。

こんな最期が似合うのは間違いなく俺の方だった。

俺が自分勝手に生きて、セツを巻き込んだからそのせいで死んだんだという事が嫌というほど理解ができた。

もう泣けないというほど泣いて、もう何処にもいないセツに詫びてからダンジョンを後にした。



まず俺はセツをこんな目に合わせてのうのうと生きている馬鹿共に亡くなったセツに代わって制裁を与えなければいけない。

セツを殺した連中を俺の手で殺してやりたかった。

奴らと仲のいい男に頼んで3人を呼び出した。

まずは渾身の力を込めて1発ずつ顔面にぶち込んだ。

鼻からは血が出て、女は気を失ったようだった。

俺の手にもダメージはあったが、セツの最期を思い出すと自分の手の痛みなど気にならなかった。

手がボロボロになって歯が折れるまで殴り続けていると男が泣きながら許しを乞うてきた。

「も、もう、ひゃめてくらはい。じしゅひます」

髪の毛を掴んで引っ張り上げると顔を近づけて言った。

「セツがダンジョンに行く時にお前達はやめたのか?そもそもお前達はセツを殺したと分かっていたのに今まで罪悪感も持たずに過ごしてきただろう?俺とも普通に会話してたしな。自首?どうせ逃げる気だろう。俺がセツの代わりに殺してやる」

手で殴るだけではダメージが少ないと爪を剥がし、膝や踵も使って全身を痛めつけた。

「セツの最期を知っているか?セツは暗いダンジョンの中で一人きりでスライムに少しずつ少しずつ溶かされて死んだんだ。その苦痛がお前達に分かるか?こんなもんじゃねえんだよ!」

目の前の男に集中していたら、このままでは殺されると一人が隙を見て逃げ出し、騎士団に駆け込まれて俺は捕まった。

セツは殺されたのに、俺は一人も殺せなかった。

悔しくて情けなくてセツに申し訳なくて気が狂いそうだった。



でも俺が1番殺したかったのは自分自身だった。

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