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君に捧ぐ  作者: ゆのう
4/21

◎本性

幼馴染視点になります。

身勝手な俺はセツが居なくなったと聞かされた時、俺の知らないうちに勝手に居なくなったセツにやり場のない怒りが込み上げた。絶対に見つけて文句を言ってやると躍起になってセツが居なくなった状況を調べていった。

だが森の手前の人気のない寂しい店にいるセツがいつどうやって出て行ったのか知る人はいなかった。


無駄に月日は過ぎていき、1年経ち、2年経つと俺は段々と不安定になっていった。

セツが消えてからは俺は色々な感覚を失ってしまった。

ここが何処かも分からない。

もう1歩も動けないんだ。

セツ助けてくれよ。

お前に会いたい。


セツとはもう会えないかもしれないと思うと、食べ物も喉を通らなくなっていった。

この辛い現実を忘れる為に夜は酒に溺れて体は益々ボロボロになる。俺は冷蔵庫から適当に掴むと何かを口に入れた。どうせ何を入れても変わらない。とにかくセツを見つけるまでは死ぬわけにはいかない。味のしない何かを雑に噛んで飲み込む作業を終えると、今日も町に向かう。


酒場で強い酒を飲んでいると、町の奴らも入ってきた。

いつものように勝手に俺の隣に座り話しかけてくる。

「また飲んでるのか?いい加減にしないと体を壊すぞ。折角付き纏っていた奴も居なくなったってのに」

「そうね。これからは自由に遊べるじゃない!」

男は月日が経ち、酒も入った為につい油断して口を滑らせた。

「そうそう。あいつはもっと早く弁えるべきだったんだ。そうすればあんな事には…」

それを聞いた瞬間、男に飛び掛かった。

「おい!!セツをどうした!?何を知っている?」

男はしまったという顔で、視線を泳がせた。

「い、いや…知らない。俺達は別に何もしてない」

「…俺達?お前ら全員か!!一体セツに何をした!?」

酒瓶を片手に男の胸倉を掴んで脅していると店主がやってきた。

「おいおい。ここで喧嘩はやめてくれよ?やるなら外に行ってくれ」

店主が金を払って出ていけと扉を示したので、机に金を置いて男を外に引き摺っていった。


「セツの居場所を吐くまでは誰もここから帰れると思うなよ!」





俺は昔から要領が良い、自分で言うのも何だが顔も整っている。大抵のやつは俺が声をかけなくても向こうの方から擦り寄ってくる。俺はそういう奴らを利用して賢く生きていた。

俺も自分でクソみたいな性格だと自覚はあるが、直そうとは思っていなかった。

俺とは真逆な幼馴染のセツは人見知りが激しく、あまり口を開かない。要領も悪くて常に俺の後ろに隠れているような奴だった。

そんなセツは俺の自尊心を大いに満たしてくれていた。

俺には簡単な事もセツには難しいようで、手伝ってやるとキラキラした瞳で俺を見上げてはにかんでお礼を言う。

そんな瞬間が俺は一番好きだった。

セツには俺だけにその顔を見せて欲しくて、最悪な俺の本心を隠して殊更優しく接していた。

成長するにつれて俺には沢山の友達ができた。

セツの人見知りは直るどころか悪化していき、俺以外とはまともに話さなくなっていた。

俺はそんな所にも優越感を覚えるクズだった。


俺には沢山の友達がいたが、どいつも表面上の付き合いしかしていなかった。

何かを頼むのにそれで十分だったからだ。

だが相手からするとそれでは不満のようだったらしく、度々文句を言われていた。

「イクス君、週末にお買い物に行かない?私この前素敵な服を見つけたんだけど、どっちがいいか決められなくて」

「ごめんなー。週末はセツと約束してるから無理だわ」

本当はセツと約束なんてしていない。

俺の面倒事を断る口実にいつも名前を使っているだけだ。

「えー。またセツ君と約束してるの?いつもそうじゃない。でも何でいつもセツ君に構うの?」

「セツが手伝って欲しいって言うからな。俺達幼馴染だし」

「たまには断ってもいいんじゃないの?イクス君の優しさに甘え過ぎてると思うな」

「まあ、あいつは他に友達がいないから仕方ないだろ」

「やっぱりイクス君は優しいね」

(幼馴染をこんなに見下してる俺を優しいと思えるお前の感性ヤバすぎだろ)

あの頃の俺は周りからチヤホヤされて調子に乗っているどうしようもない奴だった。

本当は俺もセツだけがいればそれで良かったのに、傲慢な俺は何でも自分の思い通りに他人を動かしたかった。

本音で話せるのはセツだけで、他は俺が楽に生きてもっとセツに俺を意識させる為につるんでいる連中ばかりだった。

だからその裏でセツが俺の“友達”に何を言われていたか全く知らなかった。

そもそもセツが俺以外と会話をしない時点でおかしいと思うべきだった。そして俺がセツを特別扱いした時に周りの反応に気を配るべきだった。俺だけがセツの事を救えたのに、俺はそれを気にも留めていなかった…。


ある日近道をしようと細い路地に踏み込むと、揉めているような声が聞こえてきた。面倒だから引き返そうとすると、セツという名前が聞こえた気がした。

一応確かめてみるかと、揉めている現場からは見えないように注意をしてそこを見てみるとセツは尻餅をついて男女3人から何かを言われているようだった。

「あんたイクス君が優しいからって付き纏ってんじゃないわよ」

それはついこの間話しかけて来た名前も知らない女だった。

「そうだ!イクスから聞いたぞ。お前が迷惑をかけてるってな。イクスが嫌がってるのが分からないのか?」

(俺の気持ちを勝手に代弁するなよ)

この男も顔は見た気がするが、名前は知らない。

だが、俺を取り合っているのを見るのは中々いいもんだな。

「大体あんたとイクス君は釣り合わないのよ。何で平然と一緒にいられるのか理解出来ないわ」

(お前と俺も釣り合うとは思えねーけどな)

「今度お前がイクスと一緒にいる所を見たらこんなもんじゃ済まさねーぞ」

よく見るとセツの口からは血が出ていた。ハッとして飛び出した。

「セツ!!大丈夫か?立てるか?」

セツに手を貸して助け起こしながら、どういう事だと3人を見るとそれぞれバツが悪そうに目を逸らした。

「俺達はただ、こいつに注意していただけで悪い事はしてない」

「そうそう。ちょっとだけ話をしてただけなの」

3人はそそくさとその場を離れて行った。


俺はセツの口にハンカチを当てながら謝った。

「ごめんな。あいつらも悪気があった訳じゃねーんだ」

セツは頷くと平気だとばかりにハンカチを避けた。

「僕は平気だよ。イクスは人気者だからね。仕方ないよ」

セツが苦笑しているのを見てホッとした。

「でも俺はセツが1番の親友だ!これだけは忘れんなよ」

「それいつも言うよね。フフッ。でも僕に構ってていいの?」

「俺はセツにしか心が開けない。セツに嫌がられたら困る。セツは俺といるのは嫌か?」

こう聞かれてお人好しのセツは嫌だとは言えない事をよく知っている。知っていて敢えてセツの口から言わせたい。

「僕はイクスしか友達がいないし」

困ったように笑いながら答えたのを見て俺は安心した。

今もまだセツの1番は俺だ。

本当は俺もセツだけでいい。

だがセツが人気者の俺に少しでも嫉妬して欲しくてセツ以外とも絡むのをやめられない。

自分の事しか頭になかった俺は、まさかこのような事が繰り返されていたとは思ってもいなかった。

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