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君に捧ぐ  作者: ゆのう
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或る悪魔の観察

完結しています。

今回も番外編です。

魔王様は元人間だった頃を感じさせない程、敵だと判断した際は即座に冷酷で無慈悲な顔を見せて下さる。

配下の悪魔も何の疑問も持っていないようですが、普段はとても魔王様には思えない程に情けない姿をしているのですよね。

魔王様としての仕事の時には切り替えて下さるので問題はないですが、よく毎日飽きないものだと少し感心しますね。


「セツ!ほら見てみろ!目玉焼きが双子だったぞ!」

魔王様は嬉しそうにセツさんの前に皿を差し出しながら緩んだ表情でその体にはエプロンを付けている。

「わあ!ぼくはじめて見た!なんで?」

「何でだろうなー?朝から珍しい物が見れて良かったな」

「なんか食べるのがもったいないね」

「でも見てるだけだと冷めちゃうぞ?

セツー!僕を食べてよー!」

何ですか?まさか今のは目玉焼きに声を付けたんですか?

見ていられませんね。

「あははっ。じゃあイクスはこっちね。ぼくはこっち食べる」

それを聞いた魔王様は膝から崩れ落ちています。

似たようなやり取りを毎朝続けているのによくこんなに感動できますね。

「うぅっ…セツが両方食べてもいいんだぞ?」

「いっしょに食べたほうがおいしいよ!ね?食べよう?」

「あぁ、胸がいっぱいで食べられそうにない。記念に俺の分は飾っておくかな」

私はこの後のやり取りがどうなっていくのか手に取るように分かっております。セツさんが魔王様に食べさせるんですよね?

「だめだよ。イクス、あーん」

ほら始まりました。魔王様の顔は何とも表現し難いですが、おやつの待てを許された犬のような顔とでも言いましょうか。

「んー!うまい!やっぱりセツが食べさせてくれる物は何でもうまいな!」


それから日課になっている森へと出掛けられ、セツさんが草花に夢中になっている時に話し掛けられました。

「ゴート。お前毎朝見てるだろう。飽きないのか?」

それは此方の台詞ですよ。と返したい所ですが、止めておきましょう。

「おや、随分と気配に敏感になられたようですね」

「妖精もそうだったが、セツはよく分からん奴らに好かれるからな」

「そうですねぇ。まさか妖精が出てくるとは想像していませんでした」

「今後は想定外という事がないように備えるに越したことはない」

「そうですね。妖精という新戦力も加わりましたし、セツさんの安全面をより一層強化いたしましょう」

「ああ、よろしく頼む。それからゴート。俺に何か言いたい事でもあるか?」

ここはボロが出る前に退散しておいた方が良さそうです。

「…。いえいえ、何もございませんよ。それでは私は失礼させていただきますね」




そろそろヴァンスの様子でも見に行ってみる事にしましょうか。

妖精の森に来ると、ヴァンスと妖精達が大声で何かを叫んでいた。

「筋肉は裏切らない!」

『筋肉は裏切らない!』

『筋肉は裏切らない!』

『きんきらがほしい!』

『にんにくがくさい!』


「ヴァンス。どうですか?そろそろ使えそうですか?」

「あら、もう終わり?これからやっと筋トレもメニューに入れようと思ってたのにー」

「妖精をどれだけ鍛えても筋肉は付きませんよ」

「ンフッ。気分よ、気分♪」

「以前から気になっていたのですが、ヴァンスは体つきは岩の様に頑強ですが、その口調は随分柔らかいですね?」

「ああ、これはセルフプロデュースよ♪この筋肉で男口調だと皆萎縮しちゃうでしょう?でもこうして口調だけでも変えるとおバカさんが油断してくれるのよ」

「なる程、人間は特に見た目や口調に騙されますからね。非常に効果的だと思いますよ」

「でしょー?ゴート様も一度やってみない?ハマるわよ♪」

「いえ、私はヴァンスのように器用ではありませんので止めておきましょう。それより妖精の方は上手く教育出来たようですね。以前は随分と騒がしかったですが、見事なものです」

「ええ、勿論♪上下関係を徹底的に教えこんだもの。私より上の魔王様やゴート様、セツさんに粗相をする事はないはずよ」


妖精達は私達が会話を始めてから微動だにせずに隊列を組んで耳を澄ませている。

「ゴート様からお許しが出たわよ。これからは実践で魔王様のお役に立ちなさいよー」

『イエッサー!』

『イエッサー!』

『言えったー!』

『くっさー!』

「今日でアンタ達ともお別れなのね。ちょっと寂しいけど、頑張んなさいよっ!離れていてもアンタ達とは同じ釜の飯を食った仲間よ!」

『うわーん!軍曹ー!!』

『ぐっ…うぅっ。ぐんそー!』

『飯?今からごはん?』

『めしー!』

魔王様も朝から胸焼けしそうでしたが、ヴァンスも負けない位暑苦しいですね。そもそも悪魔も妖精も食事は取る必要もないでしょうに。まさか、本当に全員で食事をしていた訳ではないですよね…。

このままここに滞在していると変な事に巻き込まれそうですし、帰るとしましょう。

「ではヴァンス、明日からセツさんに付ける妖精の選択を任せましたよ。私は帰りますので」

「うぅっ…ずびっ。分かったわ」

どうしてヴァンスまで泣いているのでしょうね。


ふぅ、もう少し普通の人材はいないのでしょうか?

ジャックも一癖ある性格ですし、救いは全員が使える人材だという事ですが…それ以上は望み過ぎですかね。

他の悪魔は深く知る必要も感じない程の力しかありませんしね。やはり優秀な人材確保は急務ですね。

魔王様の誕生以降は悪魔の数も少しずつ増えてきていますし、妖精のように悪魔以外とも協力関係を結べる勢力も探ってみましょうか。

セツさんの寿命が尽きましたら魔王様には憂さ晴らしも必要でしょうし、油断しきっている神へと強烈な一撃をお願いする事にしましょう。

私共からすれば瞬く間の人間の一生は魔王様の最後の自由時間。

限りあるこの時間をしっかりと心に刻み付けて堪能していただきましょう。

その後も長く在り続ける魔王様の慰めになりますように。

完結後ずるずると続けてしまいましたが、これで番外編も終了です。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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