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君に捧ぐ  作者: ゆのう
10/21

一家団欒

幼馴染視点になります。

ピクニックから帰って来た夜、いつもは各々好きな時間に夕食を取る事が多い我が家だが今日は珍しく母親から声をかけられた。

「今日は久し振りに皆でご飯にしない?セツ君とも話したいし」

「ああ、わかった。親父も一緒か?」

「ええ。あの人もセツ君と話したいみたいよ」

「じゃあもう少ししたらセツを連れて行くから」


部屋に戻るとセツは俺が昔使っていたクレヨンで花畑の絵に色を塗っている所だった。

「セツ、今日は俺の両親と一緒に全員で夕食にするらしい」

セツはクレヨンを置いて、少し緊張したように頷いた。

「わかった…でもぼく、なにを話せばいいかわからないよ?」

元のセツは幼馴染の親に緊張はしていなかったが、そういえばセツは人見知りだったなと思い出した。

「大丈夫だ。二人共子供が好きだからセツと仲良くしたいんだ」

少しホッとしたように、セツも仲良くしたいと言ってくれた。


準備が出来たと呼ばれて行くと、料理が並べられている机には親父が座って一人で先に酒を飲み始めていた。

「おお、セツ君。今日はイクスとピクニックに行っていたと聞いたぞ?楽しかったかい?」

親父はセツを見ると嬉しそうに今日の話を聞きたがった。

「…うん。あの、きれいなお花畑をみてきた…の」

セツが恥ずかしそうに精一杯返事を返しているのを見て心臓を撃ち抜かれた。

(セツ!お前そんなに可愛かったか!?荒ぶる動悸が止まらない)

ふと前の親父を見ると、心臓の辺りを手で抑えていた。分かる!

「そうなの?それは良かったわね。何か動物は見られた?」

俺と親父がセツの可愛さにやられていると、今度は母親がセツに聞いている。

「んっと…リスとシカがいた。シカは遠くてあんまりみえなかったんだけど」

セツは今日見た動物を思い出しながら、見た動物のサイズを手で表現している。

(ああ、俺はセツがこんなにも可愛かった事にも気付けなかったのか)

少し話しただけで家族は全員がセツの虜になった。


「そうかそうか。じゃあ今日一番楽しかったのは何かな?」

親父が聞いたこともない猫なで声でセツに話しかけている。

正直あまり見たいものでは無かったが、両親もセツが素直で可愛いから構いたいのだろう。

セツはチラッと俺の方を見てから恥ずかしそうに答えた。

「イクスがね、かたぐるましてくれたの。すっごい高くてね…えっと、ちょっとこわかったけど…ぜんぜん落ちなくてすごかったの」

そうか。セツは肩車が気にいったのか。

これからの移動は全部肩車でいいかもしれない。

「おじさんはイクスよりももっと凄い肩車が出来るよ。なんせおじさんは昔イクスを肩車してたからね」

「わあ…おじさんは力持ちなんだね!ぼくもなれるかな?」

大人気なく俺に対抗意識を燃やした親父はセツの尊敬の眼差しを受けてドヤ顔をしている。

「ああ、セツ君が沢山食べて、寝て、遊べばすぐになれるよ」

「そうね。セツ君は嫌いな食べ物はあるの?」

「うーん…よくわからない。でもこのごはん、どれもおいしい」

セツが褒めると母親も嬉しそうにしている。普段は別々の場所でそれぞれ都合のいい時間に夕食をとっているから感想を言われる事が少ないのかもしれない。


基本的に両親が話しかけて、それにセツが答える感じで夕食は終わった。両親がいないセツを気遣ってなのか、これから夕食だけは全員で食べる事に決まった。確かにセツに本当の家族と思って貰えるようになるにはいい事なのかもしれない。

部屋に戻って寛いでいるとセツが質問してきた。

「イクスのお家ってやどやなんだよね?いろんな人が泊まるところ」

「そうだな。ほとんどダンジョン目当てに来る冒険者ばかりだが、色々な人が泊まりに来るな」

「それならごはんの時間はいそがしいんじゃないの?ぼくもてつだう?」

セツはこれから全員が揃って夕食を食べるのは迷惑にならないか考えていたのかもしれない。

俺と違ってセツは本当に優しい。

「大丈夫だ。うちは素泊まりしかないから食事は提供してないんだ。だから宿屋の仕事は基本的に寝る場所を整える位かな」

両親が聞いたら馬鹿な事を言うなと言いそうだが、セツには手伝わせる事もないし、簡単な説明だけで十分だろう。

「そっか、それならよかった。おじさんとおばさんやさしかった」

デザートに出したフルーツを二人が皮を剥いてセツの口元まで運んでいたのを思い出す。両親は久し振りに接する子供の事が余程可愛かったのだろう。

「少しずつ本当の家族になっていけるといいな」

セツを抱き上げてふわふわな頭の天辺に顔を埋めた。

俺も両親に負けないようセツが寂しくならないように沢山の愛情を持って接していこうと思った。

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