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師匠と弟子。


 とある国の王女と魔法使いが都心部から少し離れた場所にある古びた家での話。


「師匠!今日から魔法について教えてくれる約束ですよね!よろしくお願い致します!」


 若き天才と呼ばれた少女が、元気よく笑顔で言う。それに対して魔法使い、青年くらいに見える人物が言葉を返す。


「そうだね、では、まず基本から。この世には四つの力がある」


「火、水、風、土属性ですね?」


「いや、重力、電磁力、強い力、弱い力だ」


「……?」


 青年のその答えに、少女は今までの常識との齟齬から小首を傾げて疑問符を浮かべた。


「……まぁ、いいか。では火属性魔法とは何だと思う?」


「火属性魔法とは、火を作り出して操ることです」


「まぁ、そうかも知れないけれど。では、火とは何か考えたことはあるかい?」


「火、ですか?そうですね……。火は、全てを燃やす力……とかですか?」


「ふふっ、それは結果に過ぎないんだよ」


「結果、ですか?」


「そう。例えばだけど、この世界では火を起こすのに魔法を使って薪などを燃やすでしょ?そして、その火を絶やさないように追加で薪を焚べる。でも、実際に一から火を起こす時、そこには酸素と可燃物、そして熱が必要だ」


 そう語りながら少年は一つの棒と板、そしてナイフと紐に枯葉と枯れ枝を準備した。


「先ずはこの木の棒の先端をナイフで丸くして、次に板の側面に切れ込みと棒の先端が収まるように窪みを作る。そして、紐の繊維もナイフで崩して……後はこの棒を凹凸に合わせて回転させるだけ。僕が試してもいいけど……せっかくだから自分で試してみなさい」


「はい!わかりました。こ、こうですか?」


 師匠に言われ、少女はおづおづと木の棒を握り、板の窪みに合わせる。


「そうそう。それから両手で挟んで手を擦るようにして棒を回転させるんだ」


「はい!」


 ゆっくりと棒を回転させる少女。


「普通にするとかなり疲れるから、自分の身体を強化して、棒を板に押し付けるようにしてなるべく早く回転させると良いよ」


「わかりました!……あ!煙が出てきました」


 少女は大人顔負け、いや、それ以上の速さで木の棒を回す。もしかすると、手元が普通なら見えないかも知れない。


「あ!下に貯まった黒い粉が赤く光ってます!」


「お、速いね。これが火に必要な熱だね。それじゃあそれをこの紐切れ。可燃物で包んで、息を吹きかけ酸素を送る。こんな感じでね。やってみて」


 青年が紐で虚無を包み、息を吹きかけるようなジェスチャーをする。


「はい!やってみます!」


 少女は擦り合わせていた手をピタリと止めて、素早い動きで布を手に取り、火種を包むようにして掬い上げると、可愛らしくふー、ふー。と、言いながら息を吹きかけた。


 瞬間、ポッと小さな火の手が上がる。


「あ!出来ました!凄い!魔法を使わずに火が出来ましたよ!」


「燃料が無いとすぐに消えちゃくけどね。さ、こっちの枯葉に火を移そう」


 少女は手の平で燃える火を熱がる様子もなく慎重に落ち葉に乗せる。先程の紐を崩した物も一緒に混ぜたそれは、瞬く間に炎を大きくした。


「他にも火をつける方法は沢山あるよ。例えば、金属を打ち合わせて……この世界ではあまり見ないけど、火打石ってあるでしょ?あれでもいいかな。を解した紐の上で打ち付けて火花を起こす、と。ほらね?」


「おお!さっきはあんなに苦労したのに、一瞬ですね!」


「他にも、この太陽光を集める専用のレンズを使ったり……」


 そう言って取り出した虫眼鏡。それを先ほどと同じように解した紐の上で焦点を合わせる。


「……全然着きませんね」


「そうだね。まぁ、これは楽だけど難しいんだよ。焦点がズレないようにしてずっと当ててないといけないからね」


「なるほど。しょうてん?を合わせる必要があるんですね?あ、煙が上がってきました!」


 暫くして火の手が上がる。


「まぁ、こんなふうに、火を作って更に維持をし続ける。これが君たちの言うところの火属性魔法なんだよ」


「なるほど。こうしてみると、初級魔法でも3つの工程が必要なんですね」


「そうだね。それじゃあ、今度は、熱、可燃物、酸素をそれぞれ見ていこうか」


「はい!」


「まずは……そうだな。熱。これは摩擦によって生じる現象だ」


「摩擦、ですか?」


「そうだよ。例えば最初にした棒を板に押し付けて回転させた動き、あの時、手のひらが熱くならなかった?」


「少しだけ、なったような……ならなかったような?」


「あれは手の平同士と、それから棒が擦れあった摩擦による物なんだけどね。それが棒と板の間でも起きていたんだよ。それでね、その摩擦で発生してた熱が、同時に削れて生まれた木粉へと熱が移って燃えたんだ。金属同士をぶつけた時もそうだよ。お互いがぶつかった時の摩擦で火の粉が上がるんだ」


「なるほど。それでは、このレンズを使って火を起こしたのはどういう原理なのでしょうか?」


「それは、太陽が化学反応を起こ続けていて、その時に生じる熱、原子同士の摩擦が地上にまだ届いているんだけど、その熱をこのレンズで集めて可燃物の発火点まで温度を上げたんだ」


「……?」


 少女は何が何だかよくわからないようで、眉間に少しだけシワを寄せて小首をかしげる。


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