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『鎖の英雄と影の女王』……の次回作  作者: 朝来終夜
第1巻 『鎖の英雄と影の女王』、完結。そして……【2025年3月7日完結】
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第29話 結末の把握

 牽引式のキャンピングカーが再び、目的地へと向けて駆けていく。

 今度は最初から、何かが起きても対応できるようにと、牽引しているトレーラーの天井にシルヴィアが張り付いている。マーセリットも9㎜口径自動拳銃(Cz75)を持ち、その中で待機していた。

「……で、またお前が助手席かよ」

「あの娘よりは良いでしょ? 大体……あんた等、会話続くの?」

「本当お前って、いつも絶妙なとこ突いてくるよな……」

 正直、二人共トレーラーの方に乗っていてくれれば楽だと思っていた健一だったが、エミルとの戦闘が始まった時のように、また孤軍奮闘しなければならない可能性がある。だから三人を一纏めにして、自分だけ牽引車を運転するのはまだ危険だと結論付けるしかなかった。

「に、しても……そろそろ弾がまずいな」

「もっと用意できなかったわけ?」

「予算の都合でな。それよりも……」

 健一は今、琉那が持っている単発式の、エミルが持っていた粗悪銃を一瞥した。

「その銃……アメリカ(本場)に出回っている物と比べて、どう思う?」

「ぶっちゃけ、チンピラの持つ安物よりも酷い出来よ。でも……」

 簡単に動作確認を行い、銃弾を抜いた状態で空撃ちする琉那。そして膝の上に置くと、空いた手を自らの口元に当てて呟き出した。

「……素材が悪いだけで、作り自体はしっかりしている。そこらの材料ででっち上げたにしては、きちんと理屈を把握できているわね」

「それ、似たようなのをマーセリットも持ってるんだ。やばいよな……」

「……完全にやばいわね、それ」

 粗悪銃だろうと、貴族社会だけかもしれなかろうと……予想以上の数が出回っていると考えておくべきだろう。

「上澄みだけでも再現できてる、ってことはよ。もし深掘りされでもしたら……最後には、完全再現できるんじゃないの?」

「だよ、な……」

 学ぶとは真似ぶこと、という話がある。

 先人達の築いてきた知識や経験を模倣し、自らの血肉と化すことが学習である。

 新しいものを生み出すのは、先に学習(模倣)して下地を作り、それを(しるべ)として開拓することに他ならない。

 つまり、少しでも(真似)ぶことができるのであれば……そこから理屈を学び、新しい技術を開拓できるということだ。

「せめて、火縄銃とかならまだ……ああ、だから時間を止めてたのか。その先の、発展した武器を目指す為に」

「時間を弄って、技術力を追いつかせようとしてたってこと? せこいのか壮大なのか、いまいち分からないわね……」


「……だからこそ、ずっと引っかかてるんだよ」


 世界を創造できる程の力を持つにも関わらず、行使したのは時空間の操作と、繋げた異世界から技術を盗用することのみ。その気になれば、世界そのものを都合のいいように操れるかもしれないのに、だ。

 ……一体、黒幕達の目的は何なのか?

「そもそも何で、創造主の類が持っているような力が存在している? 誰が? 何の為に? 使う為に何らかの条件があったとしても、やってることがどうにも極端過ぎる……」

「しかも、科学者であれだものね……それにあの爺さん、黒幕の中でどこまで偉いのかも分からないし」

「……一応、時空間の操作に関われる立場なのは間違いないと思う。本人も漏らしていたしな」

 これまでの情報を纏めてみても、分かることは未だに少ない。やはり一度、王国民や魔族領の面々と、顔を合わせる必要があるだろう。

「そろそろ、か……」

 健一は徐々に、牽引車のアクセルを緩め始めた。




 到着したのは何もない……いや、何もかもが無くなって(・・・・・)いる(・・)荒野だった。

「この辺りのはず、だよな……」

「……間違いない」

 全員下車し、周囲に視線を巡らせていくものの……その瞳に映るものは、何もなかった。人間どころか、生物が生息していただろう痕跡だけではない。本来であれば存在したはずの……自然物を含む全てが、だ。

「妾はここ(・・)で生まれ、育った。いくら千年の時が流れ、平地になろうとも……見える景色はそう、変わるものではない」

「そうか……」

 シルヴィアの見立てで、おそらく間違いはないだろう。少なくとも……自らが育った故郷の景色は、そうそう忘れるものではない。それは魔族とて、人間と大差はないはずだ。


「だとしたら……どうして、誰も(・・)いない(・・・)んだ(・・)?」


 あえて疑問形にしたが、健一にはおおよその見当がついていた。いや……おそらくは他の者達も、同様の考えに至っているのだろう。

(あの『消去(魔法)』で消されたか……魔族領の空間ごと別の(・・)世界に(・・・)飛ばされた(・・・・・)、と考えた方が良さそうだな)

 どちらにせよ……健一達がここでできることは、もう何もない。

「……一度、引き返そう」

 さすがに呆然とし始めているシルヴィアの肩を掴み、軽く揺らした後、健一は皆をキャンピングカーへと促した。

「ほら、あんたも」

「…………はい」

 同じく王国の……自分の家族に会えなかったマーセリットの足も、琉那がどうにか動かして。




「……やっぱり、もう『地球』に帰るか」

 予定していた日数的にも、そろそろ限界が近い。しかも、手がかりが何もなくなってしまったのだ。これ以上の滞在は成果が得られないと考えた健一は、全員に『地球』への帰還を提案した。

「物資も無限じゃないしな。一度(・・)帰って、態勢を立て直そう」

 拓けた荒野から少し戻り、エミルとの戦闘から辛うじて逃れた森林部に潜り込んだキャンピングカーの傍で、全員が車座となっている。その為、全員の表情が容易に見て取れた。


「まあ……これ以上は、ね」


 琉那は問題ない。最初から『地球』に帰還する手段を求めた結果、行動を共にしていたのだ。恩義以外にも事情がなければ、迷わず賛成してくるだろう。


「……妾も賛成じゃ。むしろ、相手が動くのを待った方がいいかもしれん」


 含みのある口調ではあったが、それでもシルヴィアは、健一の提案に賛同してくれた。感情では納得できない部分があったとしても、この世界でできることはもうないと、理性が判断した末の結論だろう。


「…………どうしても、駄目ですか?」


 そして最後に、残るだろうと思っていたマーセリットから、反対意見が出てきた。

「まだ、この世界の一部しか見ていません。たしかに物資は足りませんが、王国から魔族領までの道程以外にも、可能性がっ……」

「……まずは落ち着いてくれ。一度(・・)、って言ったよな?」

 シルヴィアから『座して待つ』意見も出ていたが、エミルに逃げられた以上、また異世界転移に巻き込まれる可能性は十分にある。それに……相手の話し振りからして、健一の持つ『鎖』属性がまた狙われるとみて、まず間違いないだろう。

 ならば今後も、機会を見ては『異世界(こちら)』に転移して、情報収集する必要があった。

「それに……ちょっと、試してみたいことがある」

 そう言い、立ち上がった健一は右手を持ち上げ、少し離れた地面へと向けた。


「…………『鎖界楔世(ルメパナ)』」


 そして打ち込まれたのは、鎖でできた巨大な楔だった。

「連中の力が、どれだけかは知らないが……これで防げないなら、俺にはもうどうしようもない」

「というか……それ、何よ?」

 代表して聞いてくる琉那の問いに、健一は疲労を(・・・)押し殺し(・・・・)ながら(・・・)答えた。


「ゲームで言うところの…………セーブポイントだよ」


 その証拠に、健一と眼前の楔との見えない(・・・・)繋がりは、未だに途切れていなかった。

「俺が『地球』に転移した後に、また時間が操作されたら厄介だろ? 実際に世界そのものに関われるのかはまだ分からないが……これで戻ってきた時に時間が変わってなければ、『俺の魔法は通用する』って証明できるだろ?」

 相手がまたすぐに、創造主の力みたいなものを使わない可能性もあるが、その時はその時だ。むしろ、『多用できない事情がある』と判断できる。どちらにせよ、試してみて損はなかった。

「ただの楔では……なさそうじゃな」

「転移用の『鎖移転動(ミタスタゼ)』を応用して、作ってみた。どこまで通じるかは分からないが……ただ待つよりは有意義だろ?」

 転移の魔導具を連続使用して試すことも考えたが、手持ち全ての耐久性が分からない以上、無暗に手を出さない方がいい。だから今回は、ここまでにすることにした。

「じゃあ……後始末(・・・)をどうするか、決めるか」

 再び車座に戻り、健一は全員に……特に、マーセリットにそう告げた。


 彼女の手に握られている……9㎜口径自動拳銃(Cz75)銃口を(・・・)向けられない(・・・・・・)為に(・・)

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