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『鎖の英雄と影の女王』……の次回作  作者: 朝来終夜
第1巻 『鎖の英雄と影の女王』、完結。そして……【2025年3月7日完結】
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第28話 『回帰』する者達

「まったく……妾だけ(・・・)、負担が酷くなかったか?」

「そう言うなって。他に手がなかったんだからさ」

 並んで立つ健一とシルヴィアに対して、止血してすぐに猿轡を噛ませたエミルは牛頭の獣人(ミノタウロス)に拘束されたまま、忌々しく睨みつけてきていた。

「あんた、根っからの科学者だな。ちょっと観察させて仮説を(・・・)立てさせれば(・・・・・・)、勝手にその検証まで、やってくれるんだからさ」

 岩人形(アダム)達も動きを止めているものの、また襲われては堪らないのでさらに引き返し、今まで戦っていた場所からかなり離れた地点まで移動していた。マーセリットは駐車した車の助手席に着座して休んでおり、運転席では琉那が9㎜口径自動拳銃(Cz75)弾倉(マガジン)慣れた(・・・)調子で(・・・)、新しい銃弾を詰めていた。

「よく言えば真面目だが……悪く言えば、視野が狭いんだよ」

 仕掛けとしては、至極単純だった。

 前回の転移で健一が見せた、岩人形(アダム)に打ち込んで関節部分を破壊した『鎖操芝居(マリオネタ)』で今回は、『関節破壊ディストルジェレア・コムナ』まで唱えずに牛頭の獣人(ミノタウロス)を操っている。そこまでは正解だった。

 けれども、召喚者(・・・)である(・・・)琉那(・・)が改めて制御しているだろう時、健一はあえて操作を止めている……そう考えたのが、そもそもの間違いだった。

「もう一人、同じことができそうな奴がいるのを失念したのが、お前の敗因だよ」

「まあ……妾はこんなやり方、あまり好みではないがの」

「というか、片手て銃撃つならまだしも……運転しながら召喚獣制御するとか、最初から無理ゲーだって話よ。一人で二人分、ゲームキャラ操作してるようなもんじゃない」

 異世界人相手では分かり辛いたとえの通り、琉那は喚び出しただけ(・・)で、牛頭の獣人(ミノタウロス)を制御してはいなかった。


「誰かができない何かを補完するのも大事だけどな……似たような(・・・・・)使い方で、質や量を増やすのもありだろ?」


 実際に操作していたのは健一と……事前に影を忍ばせていたシルヴィアの二人だった。

 気がつかないのも、無理はない。シルヴィアの方は、牛頭の獣人(ミノタウロス)を操作する為の『影』を伸ばすだけで済んでいたのだ。健一のように『鎖』を直接打ち込む必要がないので、魔法の性能的にはある意味、あちらが上かもしれない。

「それで……俺に注目させている間に琉那の射撃で仕留めた、ってわけだ。これはお前等も悪いぞ? 粗悪な銃しか持ってないから、あいつのアメリカ(本場)仕込みの射撃能力を把握してなかったんだからな」

 ガシャッ!

「ま、何にせよ……これでチェックメイトだ」

 運転席から降り、新しい銃弾を詰め終えた弾倉(マガジン)を挿し込んだ9㎜口径自動拳銃(Cz75)の銃口を向けながら近づいてくる琉那に合わせて、健一もすぐに『鎖』を生み出せるよう、拳の中に魔力の素を集束させた。

「こっちも諸々、分からないことだらけなんでな。大人しく吐いて貰うぞ」

 マーセリットが未だに休み、牛頭の獣人(ミノタウロス)を制御している琉那もまた新しい召喚獣を喚び出す余力はないが、健一とシルヴィアがまだ動ける以上、戦力差を覆すことは難しいはずだ。

 銃を構える琉那の援護を前提に、健一はシルヴィアに視線で合図を送る。そしてすぐさま、『影の女王』の操る『影』が、エミルの身体の上を這いずっていく。

「さて、まずはどこから話して……」

 即座に攻撃できる状況、それが健一達に油断を生んでしまったのかもしれない。

 シルヴィアの『影』が猿轡の結び目に触れ、切り解いたその直後、口元が自由になった瞬間にエミルの言葉が漏れ出てくる。

 けれども、その言葉(・・)がまずかった。


「……『回帰(レグレシィエ)』」


 最初、何らかの攻撃かと思った健一達だったが、実際は『転移(ミタスタゼ)』に近い現象が発生してしまう。

『っ!?』

 音のない呻き声の後、牛頭の獣人(ミノタウロス)が前へと仰け反ってきた。つまり、押さえていた誰か(・・)が消えた、ということに他ならない。

「……逃げられたか」

 もう結果が出てしまった以上、できることは何もない。銃を降ろした琉那に合わせて消え去る牛頭の獣人(ミノタウロス)を見つめながら、健一はその場に腰を降ろした。




「……とりあえず、当初の予定通り、魔族の領土近くに向かうか」

「まあ……それしかなかろう」

 エミルが逃げ出してから数十分後、再び牽引状態にしたキャンピングカー付近にて、健一達は車座に座り込んでいた。突然の戦闘状態だったので飢餓感が酷く、休息と食事でしばらく誰も話せなかったが、ようやく落ち着いてきたので、今後の予定について話し始めたのだ。

「せめてあの科学者を捕まえておきたかったが……元居た場所に戻っている可能性もあるし、公爵様達と合流した方が手っ取り早いかもな」

「……ねえ、ちょっと思ったんだけど」

 適当な小石を拾った琉那は、健一達三人の前に四つ並べて置いていく。

「今は公爵様達と魔族領の住人が、同盟についての交渉中でしょう」

 置かれた石のうち、二つを近くに寄せる。

 そして一つを自分達に見立ててか、指先でその二つに近付けていく。

「で、私達はその交渉の場に向かっている最中だけど……あの年寄り、エミルっつったっけ? あのジジイは()どの勢力(・・・・)に属していると思う?」

「……それも含めて、『戻っている可能性がある』って言ったんだよ。本当、考えることが多くて面倒臭い」

 あの老科学者、エミルが現れたのはまさに、健一達が(・・・・)向かって(・・・・)いた(・・)()だった。つまり、どんな形であれ、王国勢や魔族領と接触している可能性が高いとみていいだろう。

「適当な口車でどちらか(・・・・)に取り入ってるなら、元魔王陛下(シルヴィア)公爵令嬢(マーセリット)を立たせておけば、おそらくだが衝突はしないと思う。問題は……」

「……すでに襲撃されて、全滅もしくは全員取り込まれている可能性ね」

 どうやら、琉那も同じところまで考えていたらしく、健一の意見に同意してきた。

「普通に考えれば、国二つ分でしょ? 簡単に全滅するとは思えないけど……あの『消去(ステルジェ)』とかいう魔法が、どれだけの効力を持っているかが問題ね」

「唯一の救いは……『魔法使い』の数が少なかったことでしょうか」

 今まで黙っていたマーセリットが、少なくとも他の国民が生存している可能性を示唆してきた。とはいえ、必死になって考えた結果だろう。感情を鎮める為の応急策か、血が流れる程に指を噛み締めていたのが、当人の手から見て取れた。

「たとえ武具の中に魔力の素が使われていたとしても、国民全員が消えたとは思えません。むしろ……生物に影響を与えないからこそ、付近で暗躍していた可能性があります」

「生物かどうか、か……あんたはどう思う?」

「こればっかりは、確証がないと……考えようがないな」

 いずれにせよ、目的地は近い。不幸中の幸いだが、障害であった老科学者エミルは、この近くには残っていない。途中、岩人形(アダム)だけは破壊する必要があるかもしれないが、それを除けばもう、当面の脅威は去ったとみていいだろう。

「じゃあ、早速……」

 話は纏まり、全員がその場へと立ち上がる。


「……誰があの岩人形を一体一体、破壊して回るかを決めるか」


 けれども、マーセリットに手段がない以上、取り掛かれるのは残り三人だけ。面倒事は御免だとばかりに、その全員が一世一代の大勝負、じゃんけんに集中し……一人だけが残ることとなった。




「なあ、ふと思ったんだが……」

「……何よ?」

 一人勝ちしたシルヴィアと戦力外のマーセリットを残し、『鎖』の魔法と雄牛の召喚獣で破壊して回る中、健一は琉那にこう問いかけた。

「銃がある、ってことは火薬もあるんだよな? 爆弾とかは置いてなかったのか?」

「もしあったとしても、使ってない時点で察しなさいよ」

「……嫌になってくるな、本当に」

 いっそシルヴィアが『影龍転身(龍化)』して踏み潰せれば良かったのだが、本人曰く、『素足で小石を踏み潰すようなもので、痛覚がないのが救い』とのことらしい。だから健一と共に選ばれていた場合は『鎖』で破砕用の具足を作らねばならないし、琉那であればエミルとの戦闘時のように、召喚獣に『影』を纏わせて火力を上げることしかできなかっただろう。岩相手ではさすがに分が悪いが、物理攻撃に関してはむしろ、魔剣の方が強いかもしれない。

 それを分かっているからこそ、当の『影の女王』はマーセリットと残ることに対して、何も言ってこなかったのだろう。ただ面倒だった、だけかもしれないが。

「俺、戦闘状態に入ったのが早朝だったって、未だに信じられないんだけど……」

「徹夜明けだと思いなさいよ。裏カジノの胴元から逃げた後で、警察が動くまでカプセルホテルの中に立て籠もっていた時のようなものよ」

 当時を振り返り……健一は納得がいかない点を挙げた。

「……いや待て。あれ、交代で睡眠取るって話だったのに……結局寝てたの、お前だけだったよな?」

「それは警察が先に動いたからでしょ? 何言ってんのよ?」

 ……どこか納得がいかないまま、健一は次の岩人形(アダム)へと向けて、『鎖榴散球(スキージェ)』を放った。

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