第27話 ラスト・ショット
誠に勝手ではございますが、今後も隔週での投稿を目標に執筆させていただきます。本当に申し訳ございません。
今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。
その大きさは、エミルが従える岩人形にも匹敵した。いや、琉那があえて、同じ大きさになるよう顕現させたのかもしれない。
いずれにせよ、その牛人の召喚獣……牛頭の獣人が相撲の取り組みよろしく、無機物の塊である岩人形へと突撃していく。
「『消―』、っ!?」
「させませんっ!」
車の助手席から、マーセリットが9㎜口径自動拳銃を構え、容赦なく引き金を引いた。本人には『とにかく身体の中心を狙え』と伝えてある。的が大きくなる分、当たりやすいと考えてのことだ。
無論、致命傷になるかは正直賭けだが……当たりさえすれば、後は健一達がどうにかできる。だからマーセリットも気にすることなく、エミルに向けて連射していた。
そして……あの老科学者が自ら従えている岩人形ごと、琉那の召喚獣を消し去らないようマーセリットが牽制している間に、健一とシルヴィアはルーフから飛び降りて駆け出した。
「『影束拘具』!」
「っ! ……『消去』っ!」
防いでいるとはいえ、やはり指揮しているのがエミルだけでは、選択肢が限られてくるのだろう。いや、この場合は『連続的に対応する余裕がない』と言うべきか。
いずれにせよ、多対一の状況の内にできることは積極的にするべきだ。
シルヴィアの『影』の帯とマーセリットの援護射撃に隠れつつ、健一は今もなお、岩人形と競り合っている牛頭の獣人の背後へと回った。
「『鎖操芝居』……『鎖境界杭』っ!」
牛頭の獣人に細工した後、健一は組み合っていた岩人形の足に向けて放った鎖の杭が届く直前に軽く操作し、その両足へと器用に絡ませていく。
(あやつめ……今、何かしたように見えたが……)
両足に鎖を絡ませ、縺れた隙をついた牛頭の獣人が、岩人形を押し倒したのはまだいい。ただ、あの『鎖の英雄』が『鎖』のついた杭を放つ前に、牛頭の獣人の背後で何かをしているように見えたのが、どうしても気になってしまう。
「『鎖状成形』っ!」
「『影状成形』っ!」
しかし、同時に放たれた『鎖』と『影』により生成された武装の方に、エミルの意識は逸れてしまった。
(魔力の素を介している以上、『消去』を使われれば意味がないことは、奴等も理解しているはず。つまり、それらが『Adam』対策ならば……)
「……狙いは儂かっ!?」
健一達は答えることなく、未だに瑠奈が駆っている自動車のルーフへと飛び乗っていく。牛頭の獣人に『鎖』帷子と甲冑を模した『影』を纏わせ、自分達は牽制しつつ『消去』を防ぐ算段だと、エミルは内心で結論付けた。
(召喚者らしき女は、自動車の運転もしている。単純な命令しかできぬのならば、牛頭の獣人は力任せに突進するのが精々……いや、『鎖の英雄』めっ!)
健一の思惑を察知したエミルは、自身が乗る岩人形を除く、残り全てを武装した牛頭の獣人へと差し向けた。そしてすぐに、健一達の乗る自動車へと転身する。
相手と同様に、直接攻撃の狙いもあるが……本命は健一だった。
(あの召喚者の代わりに、召喚獣を操るつもりか。しかし……)
旧式の『Adam』が壊された理由は、厳密に言えば、体内に打ち込まれた『鎖』を強引に操作された結果に過ぎない。つまり、『鎖操芝居』本来の用途であの牛頭の獣人を操り、少しでも数の優位性を崩そうとしているのだ。
(……種が分かれば、簡単じゃな。さすがにあそこまで、高性能の拳銃を持ち出されるとは思わなかったが……『Adam』で防げる程度であれば、問題なかろう)
未だにマーセリットから銃撃を受けているが、銃弾がエミルに届く気配はない。むしろ、背後から迂回して飛んでくる『鎖』を防ぐ方が厄介だった。唯一の救いは『影』が来ないことだが、それも時間の問題だろう。
(とはいえ、これ以上数を減らすのは愚策か……さて、さて)
そして、埒が明かないとでも思ったのだろう。とうとう、『影の女王』自らが『影』を纏いつつ、前進してきた。
「『影龍転身』っ!」
巨大な黒龍が、牛頭の獣人と共に前進してくる。次々と、薙ぎ払われこそするものの……どちらも、岩人形を破壊できる程の威力を持ち合わせてはいない。
「無駄なことを……」
大方、痺れを切らして戦力を並べ出したのだろうが、未だにエミルの方が有利だ。
その証拠に、相手の駆る車がとうとう、その動力を止めてしまっている。
「降りろっ!」
健一の声を合図に、車に乗っていた二人もまた飛び降りると、車から離れていく。その間も攻撃が途切れることはないが、あくまで牽制にしか成り得ていない。
「『鎖榴散球』っ!」
「――――ッ!」
ただ、変わったことがあるとすれば……牛頭の獣人の行動パターンが、二種類に分かれたことだろうか。とはいえ、健一が攻撃を繰り出している時点で、今は誰が操っているのかなど、考えるまでもない。
(あの召喚者が操っとるのか……浅いわ)
考えられるのは、片方が意識を向けられない間は、もう一人が牛頭の獣人の操作を担っているということだ。けれども、エミルから見れば完全に悪手である。
迷うことなく、飛んできた『鎖榴散球』を防いだ後、岩人形達を運転手の女へと向かわせた。ただし、エミルを乗せた個体だけは、一定の距離を保っていた健一へと向けて、一息に詰めさせていく。
「『鎖―』……っ!?」
また逃げ出される前にと、放とうとしていた鎖を岩人形の剛腕を伸ばさせて、力任せに断ち切らせる。しかし健一は、腰に帯びた聖剣『エスファンダ』を抜きつつ、あえてエミルの傍へと駆け寄ろうとしていた。
(近付けば、魔力の素を消さないとでも思ったか……)
「…………馬鹿めっ!」
たしかに、『消去』を使えば自身も魔法を使えないどころか、今乗っている岩人形すら消え去ってしまうだろう。
「『鎖榴散球』っ!」
「『消去』っ!」
だからと言って、使わない道理はない。
一瞬無防備にはなるが、『影の女王』や牛頭の獣人、そして、他の女達には『消去』の影響範囲外にいる岩人形が固まって押し寄せることで、動きを制限させている。その上、先程まで飛んできた銃弾の射線を潰してしまえば、もうエミルを止める手段はない。
「儂を、ただの科学者だと見縊ったのが敗因じゃな……」
単発式で、しかも作りが雑。それでも、銃器と呼べる物位は持ち合わせていた。エミルは冷静に、相手が魔力の素を使った瞬間を狙って放った『消去』の中、一時的に魔法が使えなくなっている健一へと、取り出した拳銃の銃口を向けた。
「これで、決まりじゃな……」
そして引き金は、静かに絞られていく。
「ああ…………お前がな」
健一の言葉の次に、銃声が鳴り響いた。しかし……銃弾を吐き出したのは、エミルの持つ単発式の粗悪銃ではない。
「がっ!?」
「…………はぁ、疲れた」
最初から召喚獣の操作を放棄し、喚び出しただけで牛頭の獣人を操っていなかった琉那が放った銃弾は真っ直ぐに、老科学者の肩を撃ち抜いていた。




