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『鎖の英雄と影の女王』……の次回作  作者: 朝来終夜
第1巻 『鎖の英雄と影の女王』、完結。そして……【2025年3月7日完結】
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第25話 破滅の始まり

「やれやれ、やはり油断ならぬか……『鎖の英雄』よ」


 目の前にいたのは以前、健一の拉致を企てた老科学者だった。今回は右肩に搭乗部を設けた岩人形に腰掛け、頭上から見下ろしてきている。

「まさかまた、研究に没頭している時に乗り込んでくるとはのぉ……」

「常に狙われるのは御免だからな……先手を打たせて貰いに来たぞ」

 そう嘯くものの、健一は内心で焦っていた。

 偵察で済ませるはずが、まさかこんなにすぐ、黒幕の関係者に遭遇するとは思っていなかったからだ。

「そういえば、名乗ってなかったのぉ……エミル・スティインタじゃ。精々、冥土の土産にするが良い」

「そりゃどうも、ご丁寧に……『(ミザ)境界()(ホタ)』っ!」

 先手必勝、と健一は老科学者エミルに鎖のついた杭を放ち、岩人形の横へと走り抜けようとする。けれども、相手の反応は予想以上に鋭く、すぐに移動する先へと回り込まれてしまった。

(空振った!? この前より動きが良い……っ!?)

 咄嗟に放った『鎖』を伸ばし、強引に動きを変えなければ、迷わず繰り出された拳を受けていたことだろう。けれどもまだ、健一にとっては有利な状況だ。


「『鎖操――(マリオ――)』っ!?」


 その、はずだった。

(さすがに、対策してるか……)

 突き刺さった拳に手を触れて再度、岩人形の内部に『鎖』を生成しようとしたが、魔力そのものを入れ込める余地がなかった。理屈まではすぐに理解できなかったが、健一の魔法は対策されているとみて、まず間違いないだろう。

「そっちの用意した対策……結構、苦労したんじゃないのか?」

「そうでもない。お前さんが壊した『Adam(アダム)』は旧式、新式の『Adam(これ)()に組み込むのが、手一杯じゃったからのぉ……」

 戦術において、相手がよほどの馬鹿でもない限り、同じ手は二度と通じない。そう考えて行動するべきだが……まさか、『鎖』そのものへの抵抗(レジスト)を可能にしているとまでは、健一も思っていなかった。

(しかも、動きも前の奴より良くなってる……厄介だな)

 もう下手に、『鎖移転動(ミタスタゼ)』による瞬間転移や、『鎖喚招来(コンヴォーカ)』でシルヴィアを喚び出す手は使えない。反応速度だけを見ても、先に叩き潰される可能性の方が高かった。

(銃弾もこの速度なら多分、届く前に防がれてしまう。剣も効くかどうか……いや、そもそも刃が立たないか)

 魔法とて、万能ではない。それは相手も同じだろうが、機動面においては向こうが完全に上回っている。

 しかし、健一の手持ちで効きそうな手段がほとんどない以上、長居する理由もまたなかった。

「『鎖榴散球(スキージェ)』っ!」

 即座に『鎖』の塊を放った為、威力は最小だが、大粒の鉄環を拡散させた為、十分目眩しになる。いくら岩人形だろうと、操作しているのはエミルと名乗った老科学者自身だ。たとえ自動操縦(オートパイロット)が可能だとしても、単純な命令が精々だろう。

 そう高を括っていたものの、健一の目論見は二体目(・・・)の登場により、潰えてしまった。

「一体いくつ造ったんだよ……」

 思わず呟くものの、それで事態が解決するわけではない。仕方なく、一か八かにはなるが……健一は迷わず発煙筒を取り出し、発火させた。

「『(ミザ)境界()(ホタ)』!」

 今度は二体いる岩人形(アダム)や老科学者エミルが狙いではない。ただ頭上高くに、点火した発煙筒を打ち上げるのが健一の目的だった。

「やはり仲間がいるかっ!?」

「『影の女王』陛下とつるんでるんだぞ。当たり前だっ!」

 とはいえ、戦力(当て)になりそうなのはその女王陛下(シルヴィア)一人だけ。マーセリットに攻撃手段は少なく、琉那自身は召喚獣を喚び出せても、身体能力はそこまで高くない。

 一応、健一自身にも高火力の奥の手はあるものの、魔力の素を集束させるまでに時間がかかりすぎる。シルヴィア達に助けを求め、攻撃か足止めを頼むのが一番、勝算が高かった。

「『鎖鉄(サルマ)条網(ギムパータ)』っ!」

 合図は出した。後は壁を作りつつ、距離を置こうと目論む健一だが、岩人形(アダム)の動きが良すぎて、それもままならない。

「『鎖鉄(サルマ)条網(ギムパータ)』っ! ……『鎖榴散球(スキージェ)』っ!」

 残された手段は攻撃や防御で魔法を使い続け、魔力の素で生成された『鎖』の欠片を周囲にばら撒いていくことだけ。一度見せてしまっている為、そちらも対策されている可能性は高いものの、広範囲に打ち消せないのであれば、一つ一つを潰さなくてはならない。

「馬鹿の一つ覚えじゃな……仕方ない」

 やはり対策はしてあったらしく、何が来ても応じられるよう、健一は聖剣『エスファンダ』を鞘から抜いて構える。

 しかし、エミルが取った手段は……おおよそ健一が想定できる範囲を超えていた。


「…………『消去(ステルジェ)』」


 少なくとも、健一はこれまで見たことのない魔法だった。けれども、異世界転移の際に行われた『強制学習』のせいで、その呪文の意味は嫌でも理解させられてしまう。

「おい、マジかよ……」

 初めてこの世界に来た時、今程ではないが、空気中に魔力の素は含まれていた。ただし量が少ない為、魔法そのものを使う機会が限られてしまっている。その為、今みたいに多用すること自体なかった。

 だから……手段としては考えたことがあっても、健一は『魔力の素を消す』発想を実行に移そうと、試行錯誤することはなかった。何故なら、魔法を使えなくしてしまえば最悪、自衛の手段を失うことに繋がるからだ。

 それをエミルは、たったの一言でやって(・・・)のけて(・・・)きた(・・)

「咄嗟に周囲の魔力を、体内に取り込んだか……やはり抜け目がないな」

「……一応は、考えたことがあったからな」

 魔法という手段を失うことは、敵対者への攻撃手段を奪うだけには留まらない。効果範囲次第では、自身にも影響が出かねなかった。現に、魔力の素を材料や動力源にしていたのだろう。岩人形(アダム)達は動きを止め、一斉に消滅(・・)し始めている。

「それより……これはどういうことだ?」

 健一達がいたのは、山間部にある森林地帯だ。今でこそ岩人形(アダム)達によって周囲は削られてしまっているが、それでも木片や倒木が周囲に散らばっている上に、少し離れたところには、未だに樹幹の太い木々が軒を連ねている。

 しかし、エミルが使った魔法は……それらすらも消し去って(・・・・・)いた。


「何で……魔力の素(・・・・)以外も(・・・)消えてるんだよっ!?」


 そう、健一が恐れたのは魔力の素を消し去ったことではない。

 魔力の素しか(・・)消さないはずの魔法で、周囲の物質までもが粒子と化したことにだった。

「よく言うわい……とっくに気づいとるんじゃろ?」

 その言葉を合図に、健一は聖剣の柄を握ったまま腕を伸ばし、立て続けに魔法を放ちまくった。

「『鎖榴散球(スキージェ)』っ! 『(ミザ)境界()(ホタ)』!」

 魔法で生成した『鎖』の榴散弾を隠れ蓑に、健一は元来た道に向けて放った杭に繋がった鎖を掴み寄せ、急いで引き返した。

 もし、今健一が考えていることが真実だとすれば……先程の発煙筒は完全な(・・・)悪手(・・)だった。

(どおりで、名前がそのまんまなわけだ……)

「『拘束(レティネレ)』!」

「『鎖榴散球(スキージェ)』っ!」

 初弾が炸裂する前に拘束されて無効化されても、二発目を少し離れた距離で起爆させ、エミルの追撃を逃れる健一。おかげで咄嗟に取り込んだ魔力の素はほぼ空に近かったが、『消去(ステルジェ)』の範囲外に脱出すればまた、魔法が使えるようになる。

 再び木々に紛れ、同時に空気中の魔力の素を取り込みながら、健一は急いだ。

 増援に来るであろうシルヴィア達。特に、同行しているはずのマーセリットを下がらせる為に。

(聞いてないぞ……)

 たった今知った真実を、絶対に伝える為に……健一は『(ミザ)境界()(ホタ)』を連続発射することで、高速移動を繰り返した。


(この世界にある物質が、いやそのものが……全部魔力の素で生成されているなんてっ!)

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