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『鎖の英雄と影の女王』……の次回作  作者: 朝来終夜
第1巻 『鎖の英雄と影の女王』、完結。そして……【2025年3月7日完結】
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第24話 敵(となるかもしれない者達の)情(報を得る為の)視察

 ここまでの状況としては、良い点と悪い点が一つずつ。

 良い点は余計なトラブルに巻き込まれることなく、順調に飛ばしてこれたので予想よりも早く、目的地に近づけたこと。そして悪い点は同じく……何も(・・)起きなかった(・・・・・・)ことだ。

「予想よりも、やばいかもな。これ……」

 ここに来るまでの道中。あまりにも、何もなさ過ぎた。

 王国民の避難による大移動の影響を受けて、通り道の村民や魔物の類が離れているだけならば、まだいい。けれども、意図して退けられていると考えると、このまま進むのは危険である。

 そう考えた健一達は、山一つ分を残しての位置まで車を進めてから停車し、野営地を設立した。

「目的地の方角からも、焚火の煙一本立っていない。あまりにも生物の気配がなさすぎる」

「魔族領土内の鉱山には、精製用の溶鉱炉がある。稼働しているのならば、ここからでも上がる煙は見えるはずじゃ。約千年で閉鎖……ないしは採掘している者がいないとみて、まず間違いないかのぉ」

 いずれにせよ、まずい状況である。男一人女三人でありながら、誰も健一に靡く気配がないこと等、些末な程に。

「かと言って、このまま進まないのはなしでしょう?」

「だからこうやって立ち止まって、これからの進み方を考えてるんだろ?」

 既に日は暮れ、周囲は夜闇に包まれている。その中で煌々と輝く焚火を車座で囲いながら、健一達は今後の方針について話し合っていた。

「何か、偵察できる方法があればいいんですけれど……」

 そう呟くマーセリットに、琉那はポンと手を打ち、健一の方へと振り返った。

「そうだ。ドローンで空中から……」

「……あるわけねえだろ、そんなもん。俺も今、思いついたんだぞ」

 投げられる焚火の枝を適当な『鎖』で弾き飛ばした健一は、代わりになりそうな物がないかと考えを巡らせる。

「スマホだけ運べば、そのカメラともう一台を同期させれば代わりになるか? 琉那、お前……魔法で喚び出せる召喚獣って、あの牛だけか?」

「出せなくは、ないんだけど……」

 手の内を隠す、というよりは本当に弱った表情を浮かべながら、琉那は腕を組んでウゥンと唸り出した。

「基本、制御のしやすさと私の護衛を優先させて、イメージしやすいのを選んでたから、大型のやつばっかりなのよね。一応、追加で小型の召喚獣を創れるとは思うけど……小鳥とかを生み出すだけでも、結構時間かかるわよ」

「具体的には?」

「ものによるけど……大体数日」

 そうなると、琉那に頼ることは難しいだろう。仕方がないので、健一はシルヴィアへと意識を向けた。

「シルヴィアはどうだ? 何か手はあるか?」

「ふむ……」

 少し考えた後、シルヴィアは指を人のいない地面を指差すと、そこへ向けて魔力の素を操作し始めた。

「……『影鏡遠望(テレオビエクティヴ)』」

 シルヴィアがそう唱えた途端、影が宙へと浮き彫りになり、円形の板を成形し始めた。けれどもそれは、言葉の通りに鏡面を象ることはなかった。

「やはり、『眼』が要るか……ルナ、召喚獣について教えてくれぬか?」

「まあ、私のイメージで良ければ……」

 下手に自分が使える、偵察用の召喚獣を創り出すよりも早いと思ったのだろう。特に拒否することなく、琉那はシルヴィアに、自らの魔法について話し始めた。

 その様子を横目に、健一は残るマーセリットの傍へと移動し、別の話を切り出した。

「今のところ……大丈夫そうか?」

「大丈夫です。どうか、私のことはお気になさらずに」

 とは言うものの、心身共に疲労が蓄積しているのは、容易に見て取れた。それに、多少の焦燥感すら、漂っているようにも感じられる。

 もし、偵察に手間がかかりそうであれば……自分一人でも行きかねない程に。

(その辺りは、あの二人に任せて大丈夫そうだな……)

 幸い、夜明けまでにはまだ、時間がある。

 今は一先ず休もうと、シルヴィア達が話を纏め終えた後、手早く就寝を促した。




「……で、結局一人で行く気か? ケンイチ」

「それが一番、手っ取り早いからな」

「相変わらず、損な性格してるわね。あんた……」

 就寝時、見張り役の順番を決める際、健一は『一番目』を選んだ。最後となったマーセリットはすでに寝入っていることもあって、見送りはシルヴィアと琉那の二人だけである。

「性格の方はとっくに諦めているが、意外と合理的だぞ? 目的がただの偵察なら、一人の方がかえって目立たなくて済む。最悪、シルヴィアを起点に帰ってこれるしな」

 そればかりは手順を踏む必要はあるが、少しでも時間を稼げれば自身の魔法で、この野営地まで戻ってこれる。しかもブランクがあるとはいえ、四人の中で一番戦闘経験があるのは健一だ。

 だから、健一が偵察役を担うのは、一番理に適っていた。

「それに……マーセリットも同じ考えだろ?」

「向こうは夜明け前に、出るつもりだったみたいだけどね。寝床覗いたら、ワイヤレスイヤホンでアラーム掛けてたわ。大方……最後の交代前に出ようとしてたんじゃない?」

「やっぱり、一番目にして正解だったな。抜け出しやすい最初と最後を狙ってる節があったからそうしたが……外れて欲しい予想だったな」

 9㎜口径自動拳銃(Cz75)の弾倉を抜き、残弾を確認してから元に戻す。他にも聖剣『エスファンダ』やカランビットナイフ、後は威嚇兼囮用の発煙筒も数本持ち、健一の準備は整った。

「……じゃあ、行ってくる」

 移動中に存在する障害をあえて起点にし、そこから手元まで伸ばした『鎖』を引き戻すことで可能とする高速移動。ターザン等のように植物の蔦を使うことはないので、方角を自分で指定できるメリットは大きい。しかも以前とは違い、魔力の素が大量にある為に数を気にせず、遠慮なく使うことができる。

 最初の『鎖』を生成し、強く握り込んだ健一は勢い良く引き寄せ、移動を開始した。




(そろそろ、だな……)

 安物だがそこそこの距離を見渡せる双眼鏡を目に当てるも、未だに焚火等の光源や、人間をはじめとした生物の気配を見つけることは叶わなかった。もっとも、頂上を経由して移動しているわけではないので、窺うにはまだ近づかなければならないこともあるが。

 もう少し距離を詰めようかと考えたタイミングで差し込んできた光は、朝日による陽光だった。それを確認した健一は再度足を止め、適当な樹木の陰に隠れる。

(思っていたよりも、時間がかかってしまったな……さて、どうする?)

 現実的な判断としては、ここで一度諦めて引き返すのが正解だろうが、その場合は自力で帰らなければならない。魔法が発する光はもちろんのこと、魔力の素を操作した痕跡を残して万が一、健一達の存在を悟られてしまえば……こちらに不利な状況となる可能性もあった。

(せめて、生活の痕跡だけでも、見つけられれば良かったんだが……)

 ここに来るまでに、それとなく野営地に向きそうな拓けた場所を経由してきたのも時間がかかった原因だが……使われていない、もしくは使用後の痕跡がかなり古いものだったことは、ある結論を健一に突き立ててきた。

(街の人間が避難してきたにしては、移動後の影響規模が小さすぎる。頂上を経由するのは難しいと思ってこの道を来たけど、それでも不自然過ぎるよな……ん?)

 ふと、大きな塊が動くのが視界の端に見えた健一は、その場で一度『鎖』から手を放し、足を止めた。

(今、何かが……)

 山一つ分を挟んだ場所から来たとはいえ、健一が選んだのは山の麓を円周上に回り込むルートだ。山腹から陽光が差し込むのを待ち、改めて双眼鏡越しに見ようとして……すぐに後ろへと『鎖』を伸ばし、距離を取った。

「ちっ!?」

 元居た場所には巨大な岩が落ち、即座に引かなければ、手放してしまった双眼鏡と同じ末路を辿っていたかもしれない。

 飛び散る岩片や砕けた双眼鏡のガラス片を尻目に、健一は即座に身を翻した。

(気づかれた……いや、警戒網に引っ掛かったのか?)

 最初の投石から次いで、攻撃らしきものが来る気配はなかった。健一が足を踏み入れたのはおそらく、相手の警戒エリアだったのだろう。双眼鏡を覗こうと動きを止めずとも、敷地内に立ち入った瞬間に迎撃されたとすれば、あの反応の速さも理解できる。

 けれども、もし健一の考えている通りであるならば……ここにいるのは危険だった。

(どちらにせよ、まずいっ!?)

 問答無用で攻撃が飛んできた時点で、相手に健一の存在が悟られている上に、王国の関係者だろうと魔族の領民だろうと、あるいはそれ以外だとしても……()が厳重に警戒していることの証明だ。状況が分かるまでは無暗に刺激せず、距離を開けた方がいい。

(急いで転移を……)

 空気中に点在する魔力の素を体内に集束させ、進む前方に『鎖』のゲートを生み出すイメージを脳裏で描き、呪文を唱える。

「『鎖移――(ミタ――)』、っ!?」

 しかし、健一が呪文を最後まで唱えるよりも早く……追手が先回りでもしたかのように現れ、前方への進行を妨げてきた。

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