第22話 いいかげんに明かされる真実
改めて簡単な自己紹介を終えた後、四人は別の場所へと移った。
「……は? 日本に帰ってきてたのか?」
「円安の煽りで、為替相場がガタガタになっちゃったのは知ってる? そのせいで円高狙いしてた投資家は個人、企業を問わずに軒並み破産。私のいた会社も例に漏れず、倒産確定した時点で即辞表書いたわ」
「本当お前、昔から思い切りがいいよな……」
何故琉那が異世界にいたのか、一度キャンピングカー付近に戻ってから事情を聞いてみたのだが、返ってきたのは退職して日本に帰国していたという、別の機会に聞きたかった内容だった。
「で、どうせ円安だから、日本円に換金すれば残りの貯金も結構な資産になると踏んで帰国したのに……飛行場出た途端に異世界転移よ。何でアラサーになってから幻想に首突っ込まなきゃならないのよ」
「慰めになるかは知らんが、俺も二十半ばに経験したよ……できたぞ」
行き違いとはいえ、戦闘後なのでついでに早めの昼食にしようと、持ち込んだインスタント食品で食事を用意し、テーブルの上に並べたのだが……健一達が何かを言う前には、琉那の胃の中へと次々に消えていく。
「……碌なもん、食ってなかったみたいだな」
「あそこの公爵様から、『非常食は好きに食べてくれていい』って言われてたんだけど……硬いパンと飲料水代わりの酒精だけで、まともに生きられると思う?」
そこでようやく、健一達が知りたかったことへと話が進んだようだった。逸る気持ちを抑えきれていないマーセリットを宥めながら、琉那に詳しい事情を聞こうと続きを促す。
「その辺りの事情を聞いてもいいか? 俺達がこの世界に来た理由にも、関係しているかもしれないしな」
「……この世界に来た?」
「さっきも言ったろ? 俺も昔、この世界に拉致られたんだよ」
訝しげな眼を向けてくる琉那に対して、健一はシルヴィアに手振りで、転移の魔道具を取り出すように指示を出した。
「この再会が偶然かどうかは知らないけど……少なくとも、俺達の手には『地球』に帰る手段がある。事が済んだ後で良ければ連れて帰れるから、ちょっと協力してくれ」
「まあ……それならいいけど」
カップうどんの汁とインスタント味噌汁を交互に飲み干してから、琉那は満腹になった腹を擦り、上空を見上げだす。
「……どこから話せばいい?」
「拉致された直後から、で頼む」
話を聞く限り、帰国するまでは何もなかったはずだ。それが変わったのは、日本から異世界へと転移した瞬間である。もし話を聞くとすれば、そのタイミングからしか考えられない。
「世界間での時間の流れが変わってなければ……私が拉致されたのは、大体二ヶ月くらい前ね」
(すると……婚約破棄騒ぎの前、ってことか)
時系列だけで考えれば、琉那を拉致して、もしくは彼女が何かをやらかした結果、マーセリットの婚約者である王子を誑かす行動に移った可能性がある。
「連れてこられたのは何の変哲もない、大きいけど中身のない倉庫の中だった。だから最初は、『異世界』に転移したとすら思えなかったわね」
「完全に、『地球』の技術が流れているな……」
健一からすれば三度目となる、異世界転移の際に確認した、『地球』から流入した技術を基に構築されたのだろう。その場所に琉那は拉致された、とみて間違いない。
「まあ……この世界作ったのが元『地球人』じゃ、そんなもんでしょう」
そしてさらりと、重大な事実が明かされてしまった。
「……そんな重大な情報、カップうどん平らげた後にさらっと言わないでくれないか?」
「じゃあいつ言うのよ? 『私が黒幕の子孫だ!』と叫んだ後?」
「だから気軽に重大情報出すなよ! その黒幕の連中と一緒で、情報への理解が追いつけてないから!」
もしその話が本当なら、この世界は地球人が作ったものであり、かつ目の前の彼女はその子孫にあたるという……ことになると理解するのに、健一は分単位の時間を要した。
「と、言ったところで……ただ作っただけっぽいけどね。要は創作した物語とかの現実版」
「身も蓋もないことを抜け抜けと……二人共、大丈夫か?」
突然の話に、二人もまたついてこれてないのでは、と健一は振り返って様子を窺った。実際、マーセリットは肘を組み、顎に手を当ててぶつぶつと考え込んでいるように見える。逆にシルヴィアは平然と、(一人だけ)インスタントコーヒーを飲んでいた。
「要は……創造主が地球人じゃが、『地球』とは違い、この世界には創造に用いた力だか何だかが残っておるという話じゃろ?」
「まあ……そう考えればそうか」
実際、『地球』にもまだ不思議な力はあるのかもしれないが、結局のところ、それは悪魔の証明だ。確認できない以上、そちらは気にしなくてもいいだろう。
現に、肝心な問題は何一つとして解決していないのだから。
「て、ことは……異世界転移させてきた黒幕は、その元『地球人』ってことか?」
「より正確に言えば、私の遠い親戚連中ね。この世界を創ったとかいう開祖? みたいな人間は軒並み死んでたみたいだけど」
「さすがに、寿命は普通なんだな……」
最初と二度目の転移で、約千年もの開きがあるのだ。普通の『地球人』であれば、死んでいても不思議ではないだろう。
「と、なると……問題は、お前が拉致された理由と、公爵邸に来るまでの経緯だな」
「バッサリ言えば……拉致った私を使って『地球』侵略を企んでたから、実験動物が嫌で逃げ出してきたのよ。その道中で『異世界転移ができる魔導具がある』って噂を聞いたから、コンヴォーカ王国に来たってわけ」
「あ~……多分それ、今シルヴィアが持ってるやつだわ」
琉那の周囲に魔力の素が集中しようとするのを、健一も操作して無理矢理散らした。魔法を使う際の応用だが、彼女の方はやはり消耗が激しいのだろう。もしくは、ちょっとした小技の類を知らないのかもしれない。
「ちっ、さすがは『鎖の英雄』様ね。同姓同名だったから、まさかとは思ってたけど……」
「……ちなみに、どう伝わってるんだ?」
「魔物に教育を施して魔族へと育て上げた、学問の英雄」
神様、とまで呼ばれていないのはある意味良かったかもしれないが、未だにその話が残っていることに、健一はどうにもむず痒く感じてしまう。
「あんたの進路考えたら、同一人物の可能性が高いとは思ってたけど……やっぱりそうなの?」
「……一応、な」
魔族に教育を施し、文明を築く一助となった自負はある。
けれども、今日に至るまで発展させてきたのは、あくまで魔族達の功績だ。健一がしたことなんて、『地球』で行われていたやり方を伝えたくらいである。
「その辺は大したことをしたわけじゃない。異世界転移もののラノベで言う、『現代知識無双』みたいなもんだしな。それより問題なのは……」
「……ああ、この国の現状ね」
廃墟と化したコンヴォーカ王国へと、全員の視線が集まっていく。
「あの……琉那、さん」
「ルナで良いわよ。アメリカでも呼び捨てが普通だったし……で、何?」
ようやく考えが纏まったのか、マーセリットは琉那へと改めて問いかけた。
「父と……ディストルジェリ公爵とお会いになったのですか?」
「会ったどころか命の恩人よ。もっとも……それは向こうも同じだと思うけど」
琉那の指が、はるか天空へと向けられる。
「王子がやらかした、とかで失くした方の転移の魔道具を取り返そうとした連中が、隕石擬きを大量に落としてきたのよ。小型とはいえ量が多い上に魔法使えない連中がほとんどだったから、大半は私の召喚獣で打ち落として、どうにか国民を避難させられたの」
「そうか……ちなみに王子が失くした方の魔導具も、今はシルヴィアが持ってるぞ」
「元凶あんた等かっ!」
今度は容赦のない蹴りが、健一の肉体へと突き刺さった。




