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『鎖の英雄と影の女王』……の次回作  作者: 朝来終夜
第1巻 『鎖の英雄と影の女王』、完結。そして……【2025年3月7日完結】
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第16話 回帰不能点

 四度目の、自らの意思での異世界転移を決意した翌朝。健一がセジョンの案内で連れてこられたのは、人目につきにくい土地に並べられているコンテナ群だった。

 物流拠点ではなく、レンタルルームとして設置されたコンテナハウスの一つへと二人は向かい、その前に立った。

「健一……俺達が初めて会った日のことを、覚えているか?」

「久し振りに行ったラーメン屋で、お前がバイトしてただけだろうが。無駄に格好つけんな」

 そう嫌味たらしく言う健一だが、実際は印象深く覚えていた。


 何故なら……ようやく地球へと帰還した、記念すべき日だったのだから。


「健一はたしか、その時に『三年振り』とか言ってたよな? ……その三年(・・)の間に、何があったんだ?」

「話すと長くなるし……説明しようにも、証明できる証拠がない」

 この場で適当に『鎖』でも生成すれば、少しは信じて貰えるだろうが……そんなことをしても、待っているのは実験動物(モルモット)になるかどうかのギャンブルだけだ。

 だから事前に決めていた、話せる範囲だけを口にした。

「簡潔に言えば……どこぞの誰かに拉致されていた。史織ともその時に会って、そのまま一緒に逃げ戻ってきたんだ。その間や逃げ出す時に何人も殺したおかげで追手も来ないし……日本じゃ(・・・・)なかった(・・・・)から(・・)罪を問われないまま罪悪感だけが残り、その上仕事まで失くしてしまった」

「……そこ、何語で話してた?」

「安心しろ、ルーマニア語だ。もしアジア系の(・・・・・)言語なら、最初からつるんでねえよ」

 それもそうだ、とセジョンはどこか、勝手に納得したように頷いてくる。

「俺も似たようなもんだよ。健一と違うのは……俺は加害者側に加担してた、ってことだけだ」

「『してた』……って、過去形なんだな」

「ああ。組織の指導方針が変わった途端に醒めてさ……あれが多分、蛙化現象ってやつだな」

(そうだとしても、随分規模のでかい話だな……)

 その感想の正否はともかく、王国(組織)に見切りをつけたという点で言えは、ある意味健一達に近い立ち位置だった。思わず親近感を覚えてしまいそうになるものの、未だにセジョンの考えが読めない。

 そんな健一の警戒心が伝わったのだろう。セジョンは話を進めようとしてか、一本のカギを取り出してきた。

前のバイト先(ラーメン屋)には恩があったし、嫌いじゃなかったよ。ただ、生活する上では勤務時間や時給に不満があった。換金できそうな物が無くなりかけてたから、この中身(・・)に手を出そうか考えていた時に……健一達が、店に来てくれた」

 そして、現在に至るらしい。

 交代制勤務で夜に働く分、深夜手当込みで収入が増えたセジョンに、代わりにラーメン屋で働きだした史織。それ以来、休日の時間が合う時に、健一は彼とラーメン屋で食事をするようになった。

「外国人が多く、しかも低賃金で扱き使わない職場を探すのを手伝ってくれた。おかげでバイトの掛け持ちなんて無理せず、現職一本で生活できるようになったよ」

「まあ……あんなのでも良かったなら、それでいいけど」

 アルバイトの相談を受け、学生時代の経験や聞いた話を基に、求人雑誌を一緒に吟味しただけなのだが……まさかここまで感謝されていたとは、健一には思いも寄らなかった。

 実際は史織を働かせようと、色々見ていたついでだったのだが。


「だから、手が汚れていると聞いた時から、借りを返すとすれば……この中身(・・)を使うのが一番たと考えていた」


 コンテナハウスの扉の鍵を外し、先行するセジョンを追いかけて、健一も中に入った。最初は暗闇で見えなかったが、再びドアが閉じられた後に点灯された照明が、収納された違法な(・・・)物品を照らし出していく。

「合法的に売れそうな物はもうないし、活動資金もすでに生活費や書類の偽造で使い込んてしまった。残っているのは予備の身分証明や未使用の飛ばしの携帯。後は……持ち出せた武器の類だけだ」

 場合によっては、警察に売られる恐れもあるだろう。それでもセジョンは、臆せずに弱みを見せてくれた。もっとも……偽造屋に依頼しようとしている時点で、健一もまた脅される側になりかねない状況なのだが。

「さすがにただではやれないけど……置いてある物は相場で売ってやるよ。銃器も定期的に整備してるから、使用に問題はないはずだ」

「……『はず』?」

「いや、日本で発砲するわけにはいかないだろ? 銃弾(たま)も無限じゃないし」

 それもそうだ、と健一はセジョンのお言葉に甘え、武器を物色し始めた。

「それにしても……よく気づかれずに、こんな所にこれだけ持ち込めたな」

「一応、部隊の補給係だったんだよ。その時に、有事に備えて水増し分を現地とか(・・・・)に隠してたんだが……さすがに今の状況は、想定できなかったな」

「意外とあるよな。想定とは別の状況で役に立つ物事って……」

 コピー品も混じっているだろうが、銃弾だけは市場に流れている本物しかない。ならばせめて、正規品かそれに近い、反動が小さくてかつ耐久性が高い物を選ぼう。そう考えた健一はまず、ベルギー製の9㎜口径自動拳銃ブローニング・ハイパワーとチェコ製の9㎜口径自動拳銃(Cz75)を見比べだした。

「ところで……料金表とかはないのか?」

「今度作っとくよ。ちなみに拳銃だったら、正規品(・・・)で大体10万円前後、高くとも20万円位を見積っといてくれ。コピー品含めた安物なら、ギリギリ5桁で済むけどな」

「分かった。今度用意しとくよ」

 暗に、凶器()を持つ覚悟と共に、という気持ちで健一は答えた。

「というか……もう(・・)買う気か?」

「……場合によっては、な」




 以前までの異世界転移とは違い、自ら向かうのであれば、大きな利点(メリット)が一つある。

「キャンプ道具に救命道具一式……後、食料もできるだけ持っていきたい。安物のいまいちなレトルトですら、向こうの下手な料理より美味いしな」

「おぬしよ……その荷物を、一体誰が持つと考えておる?」

「さすがに全部、車に載せてくよ。ただ……うまくいくかは分からないから、転移中だけ(・・)は車ごと、影の中に入れてて貰うけど」

 セジョンから武器を買う選択肢は得られたが、必要な物全てを用意し、持ち込めるわけではない。史織、シルヴィアの影に収納できる容量(キャパシティ)の限界もあるが、それ以上に健一達には、金銭的な余裕が一切なかった。

「とはいえ、中古の軽買った途端に蓄えが飛ぶな。残りもどうにか安物で済ませるとして……やっぱり、金貨の換金が終わるのを待つしかないか」

 いくら各種メディアミックスを果たした程の人気だとしても、新人の原稿料等たかが知れている上に、発行部数が伴わなければ印税も当てにできない。ライトノベルのシリーズ一本ではそこそこ給料の高いサラリーマン位の年収が精々である。しかも新しい本を出してない以上、重版出来以外に収入が発生することはない。有名作家として、何かのイベントとかに呼ばれればまだましなのかもしれないが、残念ながら知名度が足りていなかった。

 その為、今の健一には手持ちの資産を切り崩す以外の手段がないのだ。

「NISA崩しても、合わせて数百万が限界か……」

「それよりあの金貨、結局いくらになるのじゃ?」

「あっちも手数料で、結構間引かれるからな……全部売れたとして、良くて5、600万位だろうな」

 合計すれば8桁にも届きそうだが、今後の生活費も含めれば、楽観的に見ない方がいいだろう。異世界でも通用しそうな武器や移動手段を用意する為とはいえ、予算は全体の半分位に留めておいた方が無難かもしれない。

 一先ずは必要な物をリスト化するだけにし、資金調達を優先させた方がいいと、健一は結論付けた。

「とりあえず、必要な物を決めていこう。史織も思いつくのがあったら、どんどん言ってくれ」

「キャンピングカーじゃな」

「……お前が一番、楽観的に考えてないか?」

 とはいえ、ある意味未開の地を旅するのであれば、一番有効な手段でもある。現に、異世界で旅をする手段としてキャンピングカーを選んだ物語はいくつもあった。中には、堂々とタイトルにも含める程に。

「マーセリットはどうだ? 何か必要な物があれば、ちゃんと言ってくれよ」

「……その前に、聞いてもいいですか?」

 準備する物を考える中、マーセリットは別のことを聞いてきた。

「あの世界に行って……どうなされるおつもりですか?」

「転移先はコンヴォーカ王国になるだろうが……長居するつもりはない。到着次第、事情が変わらなければすぐに発つ」

 当時は徒歩だったが、移動手段がある上に強行突破できれば数日もしない内に、目的地(・・・)に到達できる。いくら年月が流れようとも、味方を得られる可能性が高い方が、まだ希望はあった。

 だからこそ、健一と史織が向かう先は一つしかない。


「転移後はすぐに、魔族の領土へと向かう。史織、シルヴィアもいるし……最悪、敵になる奴は居ないはずだ」


 かくして……今度は自らの手で、異世界への賽を投げることとなった。

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