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第6話 両親

「――っていうことになりました……」


 この2日間、後宮であったことを両親に告げると、母は驚いた後喜びの表情に変わった。



 皇帝陛下に謁見した後、第三皇子こと漣夜れんやの部屋で今後のことを話したり、奏祓師のことをより詳しく教えてもらったりした。


 奏祓師は、その仕えている人に憑いている悪鬼を祓うだけでなく、彼らの管轄地に漂っているものを祓うことも仕事のひとつになっている。主な仕事は祓うことだが、奏祓師と主人のその密接な関係から、主人の身の回りのお世話をすることもあるらしい。

 漣夜は凌霄りょうしょうがいるからいらないと言っていたから、小さく「やった」と呟いたら聞こえていたらしく、「雑用押し付けるか」とか嫌味を言っていた。顔だけでなく心も鬼のようだ。


 他の皇子の奏祓師は皆後宮で暮らしている。主人に何かあった時のためにすぐに駆け付けられるように。あんなきらきらとした派手なところで暮らすのは落ち着かないからどうにか断ろうとしたが、無論即却下された。お前にそんな権利はない、と。掴みかかりそうになったが、凌霄が「できる限り簡素な部屋を用意しますから」と止めながら提案してくれたから、しかたなく従うことにした。


 だから、2日ぶりに自宅に帰ってきて、そのことを父と母に伝えにきた。


「すごいじゃない、桜鳴おうめい!」


 パンッと両手を合わせて嬉しそうに言う母に対して、父はどこか浮かない表情だった。

 そういえば、父は奏祓師を知っているようだった。王宮で仕事をしているから、どこかで聞いたりでもしたのだろうか。


「……お父さんって、何の仕事してるの?」

「どうしたの、急に」

「お父さん、奏祓師のこと知ってたから、何か関係あるのかなぁって」


 父は少し悩んだ後、椅子から立ち上がってたくさんの本が並んでいる棚まで歩いていき、一冊の本を取って戻ってきた。机の上に差し出された本の表紙にはおそらく『呪術』の文字があった。


「呪術……?」

「お、読めたか。父さんの仕事は、簡単に言えば研究者だ」

「研究者……」

「この本のような、呪術やまじないなどについて研究している。桜鳴も知ってる通り、この国には悪鬼って魔のものがあって、それの起源や発生源についてだったり、悪鬼以外にも魔のものがいるんじゃないかってことだったり、いろいろ調査しているんだ」


 父の言葉にすべてが繋がった気がした。魔のものについて研究しているなら奏祓師を知っていて当然だ。


「奏祓師が、笛に対して一人しか存在しないことも……?」

「ああ、もちろん知っている。だから、あの時は驚いたよ。まさか桜鳴が、って」

「そっか……」

「でも、それと同時に、勘違いであればいいのにとも思った」


 どうして。そう聞く間もなく、父は続けた。


「奏祓師は、周りの悪鬼を祓うことはできるが、自分に憑いてるのは祓えないんだ。要は、魔のものに対して自分を守る手段がない」

「……ほんとだ」

「過去の資料でも、皇位継承争いの中で命を落とした奏祓師がいたって記載があってな……。桜鳴もそうなるかもと思ったら……」


 両手で顔を覆う父に、視界が歪み始める。

 両親に大事にされている自覚はなくはなかったが、人様に迷惑をかけてその度に相手方に頭を下げる両親を見ていたから、面倒な子どもだと思われているかもしれないとも思っていた。それでも、好奇心は止められなかった。

 だから、今目の前で心配をしてくれている父に胸が熱くなる。


「っだ、大丈夫! わたし、元気が取柄だから、悪鬼なんか憑いても、すぐに追っ払うし!」

「……ふっ、桜鳴なら本当にできそうだな」

「うん! それに、漣夜……さんも、凌霄さんも強いから、むしろ傍のが安全かも!」

「こら、桜鳴。皇子様にはきちんと敬称をつけないとだめよ」

「……はぁい……」


 母が人差し指を立てて注意する。まだ会ったことはないが他の皇子たちならまだしも、漣夜に『さん』どころか『様』をつけるなんて嫌すぎる。あんな口を開けば人をちんちくりんだとか猿だとか言うやつに。

 とはいえ、それで育ちが悪いと周りに言われるのは両親に申し訳ないので、人前では敬称をつけるようにしよう。桜鳴は小さく心に決めた。




 それから、明日からの生活のために後宮に持っていく荷物をまとめた。しばらくは食べることのできないだろう母の手料理を食べて、束の間の団らんの一夜を過ごした。

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