表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ召喚士、最強竜を召喚してしまう  作者: サモト
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/34

大事な大事な約束

「開け、幻界げんかいの扉。

 我が心、我が願い、我が誓いを聞け。

 く来たれ、この呼び声に応じて。

 出でよ、我が朋友ほうゆう!」


 馬車の上で、召喚士が杖を掲げた。

 宙の魔法陣が力強く輝き、そこから赤く燃える鳥が飛び出す。


 上位幻獣、フェニックス。炎をまとう不死の鳥。


 フェニックスは一直線に、馬車を追ってくる魔獣へ降下した。

 朱金の炎が、流れ星のように空を駆ける。


 魔獣は、魔力のたまり場で動物や植物が変質してできる怪物だ。

 元は狼だったのだろう。巨狼の姿をした魔獣は、赤く目を光らせて敵に牙を剥く。


「焼き尽くせ!」


 召喚士の命令に、フェニックスが甲高く鳴く。

 炎が火勢を増し、敵を包む。

 十秒と経たないうちに、魔獣は黒焦げになって地面に倒れた。


 馬車の乗客たちから、歓声と拍手が沸き起こった。


「――すっごいねえ!」


 街道を見下ろせる高台で、ユディは声を上げた。

 小さな体がぴょんぴょん跳ねるたび、薄ピンク色の髪もよく揺れた。

 髪と同じ色の瞳で、腕の中の幻獣をのぞきこむ。


「見た? フェニックスだよ、フェニックス!

 クラスは上位。不死の特殊能力持ち。属性は火と風。

 燃えてなくても、羽根が色とりどりで、とってもきれい。長い尾羽がすてきだよねえ」


 ユディはいつも持ち歩いている幻獣辞典を開き、連れている幻獣に見せてやった。

 相手が字を読めるかどうかは関係ない。

 新しくできた友達と、ともかくこの感動を分かち合いたいのだ。


「お父さーん、お帰りなさーい!」


 ユディは召喚士に手を振った。

 父親はフェニックスの足につかまり、高台へと上がってくる。


「ユディ、こんなところまで来てたのか」

「シロとお散歩してたの!」


 ユディは抱えている幻獣見せつけた。


 大きさは小型犬ほど。

 トカゲに似ているが、背には飛膜の翼が一対。

 手足には鋭い爪が備わり、頭からは二本の角が生えている。


「小竜か。白色とは、珍しいなあ」

「でしょ! みんな初めて見るっていってた」


 ユディは宝物に触るように、真珠色のうろこに覆われた体をそっとなでた。

 身動きするたび、シロの体は陽を受けた川面のようにうねり輝く。

 もう何度も見ているが、ユディは美しさにため息を漏らした。


「でもねー、なんかヘンなの」

「変?」

「シロは小竜みたいだけど、それにしては角が立派だし、体つきがしっかりしてるの」


 ユディはシロを少し持ち上げ、ほら、と父によく見せた。


「……ふむ。言われてみれば」

「うろこも厚いの。小竜はもっと薄くて、手触りが滑らかなのに」

「そうかな?」

「そうだよ! 去年、幻獣博覧会で触ったから知ってるもん!」

「ユディはよく見ているねえ」


 父親は笑いながら白い竜に手を伸ばし——噛まれた。


「い——っ!」

「ダメだよ、お父さん! 竜に気安く触ったら」


「ごめん、ごめん、急に触って。悪かったよ、本当に悪かったから——離してくださいお願いします!」

「シロ、ソーセージあげるから!」


 食いちぎらんばかりの勢いで噛んでいたシロは、ようやく指を離した。

 ユディの差し出したソーセージを、ふん、と尊大な態度で食む。


「……なんか、小竜にしてはかわいげがないな。力も強いし」

「人見知りが激しいんだよ」

「人見知り……かなあ?」


 父はシロをうろんげにした。

 金色の目は警戒心で鋭いというより、どこか不敵でふてぶてしい。


「誰が召喚したんだい? おじいちゃん?」

「ううん、昨日、山で会ったの。野いちご摘んでいたらね、私のお弁当、全部食べちゃってたの」


「じゃあ、誰が召喚したか分からないのか」

「うん! 迷子。だから私がホゴしてるの」


 ユディはぎゅーっと幻獣を抱きしめる。

 途端、小さな白い竜は炎を吐いた。

 ピンク色の髪の先が焦げる。


「——ひゃっ!」

「ユディ!」


 父親はびっくりして白竜をつかもうとしたが、ユディはさっと背を向けた。


「ごめんね、シロ。苦しかった?」


 えへへ、とのんきにシロへ笑いかける。

 ワンピースからのぞく手足は生傷まみれで、すでにどれだけ手荒い抵抗にあってきたかを物語っていた。

 父親は眉根を寄せる。


「……ユディ。迷子さんなら、早く幻界に帰してあげた方がいいんじゃないかな?」

「えっ、やだ! せっかく仲良くなったのに」


「髪が焦げてる時点で、仲良くなったとは言えないと思うよ」

「仲良いもん! 一緒に寝てるし、一緒にお風呂も入ったもん!」


「愛情の押し売りはよくないよ」

「やだーやだーやだー! シロと離れるくらいなら私も幻界に行く!」


「ナチュラルに死ぬっていわないで!

 人間が幻界に行くっていったら、ほぼ死ぬのと同じだから。お父さん泣くよ!」


 父がシロを取り上げようと手を伸ばした、その時だった。

 白く小さな竜の姿が揺らいだ。


「わ――っ!」


 ユディは驚喜する。

 迷子の幻獣が、ヒトの姿に変わったのだ。


 年のころはユディと同じくらい。男の子だ。

 目は金色で、肌も髪もやはり白い。幻想的ではかなげだ。

 整った容姿と相まって、薄幸の美少年といった形容がぴったりの外見だった。


「すごい! シロ、変化の魔法が使えるんだね!」


 ユディは喜びのあまり、シロに抱きついた。

 小竜の時と違い、拒まない。おとなしくしている。


「お父さん、見て! 人の姿だよ!」

「あ、ああ……人間だね」


 嬉しがる娘と対照的に、父親は身構える。


「幻獣が人の姿になってくれるのは、好きっていう気持ちの表れだよね?」

「ふつうは、そうだけど」


 父親は背後を一瞥した。

 フェニックスも、長年の信頼関係を反映して、赤毛の青年姿を取っている。


「つまり、シロも私のこと好きってことだよね?」

「……騙すために変化する幻獣もいるからなあ」


 いきなり人間姿になった幻獣を、父親は怪しんだ。

 怪訝そうに、シロをながめる。


「……」


 シロはユディの後ろへ半歩下がった。


「どうしたの? シロ。怖いの?」


 シロは答えない。

 金色の目は、じっと父親の腰にある杖をににらんでいる。


「……ひょっとして、召喚士に怖い思いをさせられたことがあるのかな」


 父親は気まずそうに、頭をかいた。一歩下がる。


「無理やり名前を探られたり、契約を結ばされたりしたのかもしれない。

 白い小竜なんて珍しいから、欲しがる者はいるだろう」


「えっ、ひどい!」


「小竜は愛玩用に人気だし——

 でも、あれ? 小竜だったら、変化の魔法は使えないよね?」


 父親はもう一度、シロの方へ身をかがめた。


「竜族で変化の魔法が使えるのは、上位の種だよね……?

 君、本当は何の竜だい?」


 シロは答えない。

 ユディを盾にするようにして、半身を隠す。


「魔法で、君のことを調べてもいいかな?」


 腰の杖をつかみかけて、父親は止めた。

 耳にはめられたカフス型の魔道具が、ピーピーとうるさく鳴り出したのだ。


「召喚士協会からか」


 呼び出しに応じること数秒後、父親は大声を上げる。


「――暴竜オセロが召喚された!?」


 そばで、フェニックスもしかめ面になる。

 厄介ごとがやってきた、というように。


「召喚士と魔導士数名に重傷を負わせて逃亡……ああー、いつものパターンですね。

 今度はどこの無謀な野心家が試したんです?」


 話を聞きながら、父親は額を抑える。


「どこにいったのか、まったく手掛かりなし?

 見つけたら、騒ぎを起こさないように見張れって……あの暴君を止めようと思って止められるなら、そもそも逃亡だってされないでしょう」


 泣き言に近い会話を交わした後、父親は通話を切った。ため息を吐く。


「ユディ、お父さん、このままその辺を見回りにいってくるよ」

「はーい」


 父親はそっと、娘のかたわらの幻獣をうかがい見た。


「シロのことは、あんまり見せびらかさないようにね。

 また悪いやつに目をつけられるとかわいそうだ」


「うん! そうする!」


 父親を見送ると、ユディは踵を返した。

 シロの手を取って、家への道をたどる。

 このかわいそうな友達をかくまうなら、おうちにいるのが一番だ。


「結局、シロはなんの竜なの?」


 ユディはしげしげと、改めてシロを観察した。

 人間姿になっても残っている二本の角に注目する。


「小竜より太くて、長いね。ねじれも入ってて……炎竜? シロは炎竜なの?」

「……」


 シロが軽く目を見開いた。

 わずかな反応だったが、ユディは確信した。興奮を爆発させる。


「えっ、そうなの? 炎竜なの!? じゃあ、本当はもっと大きくてかっこいいんだね! すごい!」


 ユディは飛び跳ねる勢いではしゃぐ。


 なにせ炎竜は、みんなの憧れの幻獣だ。

 竜といったらまっさきに思い浮かべる種族。


 火を吹き、空を飛び、魔法も使う。

 たった一頭いるだけで周囲を威圧する。

 強い幻獣の代表格。


「大きいシロ……かっこいいだけしゃなくて、綺麗だろうなあ。

 真っ白で。お日様にきらきら輝いて。まぶしそう」


 ユディはうっとりと空を見上げる。

 それからふと、話題を変えた。


「真っ白なんて。オセロと正反対だね」


 ユディはまた視線をとなりへやった。


「シロは知ってる? 暴竜オセロ。

 同じ炎竜だし、幻界で会ったことある?」


「……」


 シロはあるとも、ないとも、なんとも言わない。

 ユディは歩きながら、勝手に先を続けた。


「オセロは真っ黒な炎竜で、とっても強いんだってね。

 だからみんな契約したくて呼ぶけど、だれも契約できたことないんだよね。

 召喚にも気まぐれにしか応えないし、来ても逃げちゃうから」


 ユディはオセロを探しに、小さくなっていく父の姿を見送る。


「自分勝手で意地悪で。キョーボーでキョーアクで。

 みんなを騒がせて去っていくだけ。

 来ると迷惑なだけの幻獣って、お父さんが前に言ってた」


 ユディはひとり言のようにつぶやき、でも、と明るい声を出した。


「わかるなあ、会いたくなるの。

 オセロは竜族最強で王獣かもしれない――ううん、それどころか神獣クラスかもしれないんだって。

 そんなに強いなら、一度でいいから会ってみたくなるよね!」


 ユディはぶんぶんと、シロと繋いでいる手を振る。


「オセロに会えたら……どうしよう。強いのは見たいけど、悪さをされるのは困るなあ。

 普通に魔獣退治とか、人助けとかしてくれないかな?」


 ユディはシロに向かって小首を傾げた。

 シロも同じだけ首を傾げる。続きをうながすように。

 

「……そうだよ。普通に、オセロが誰かの契約獣になって、みんなのために戦ってくれたらいいのに。

 だって、そんなに強いなら、大活躍まちがいなしだよね?」


 ユディが見つめれば、同じだけシロも見つめ返してきた。


「完全無敵! 正義のヒーロー! 絶対、すっごくかっこいいよね!」


 ユディは自分の思い付きにはしゃぎ、勢いよく手を振った。

 振りすぎて、バランスを崩した。

 転びかけたところを、シロが支えてくれる。


「ありがと、シロ」


 腕をつかむ手を意識した途端、ユディの頬が少し赤くなった。


 ユディは元気のよすぎる男の子が苦手だ。

 からかわれたり、強く言われたりすると、すぐに縮こまってしまう。

 だから、シロのように静かな男の子は親しみやすかった。


 微笑まれると、胸がどきんと跳ねる。


「シロ、私と一緒で楽しい?」


 初めて見る笑顔に、ユディは勇気づけられた。

 もう片方の手も取ってみると、指が絡んできた。

 はじめて心が通い合ったような気がして、胸がいっぱいになる。


「シロが、ずっと現界にいてくれればいいのに」


 召喚士と契約を結んでいない幻獣は、そのうち自然と幻界に帰ってしまう。


「私が召喚士だったら、すぐにでも契約するのに」


 ユディは物欲しそうにシロを見つめる。


「私ね、大きくなったら召喚士になるの。

 家族のみんなみたいに、幻獣と一緒にみんなの役に立つの」


 風が高台を通り過ぎる。

 ユディはぎゅっと、シロの両手を握った。


「だからシロ。私が召喚士になったら、また来てくれる? 召喚してもいい?」

「……」


 言葉では何も返ってこない。

 ただ、逸れない視線が返事をくれているようだった。


「我が声に応えし盟友シロよ」


 ユディは覚えたての契約の呪文を唱えはじめた。


「誓いを守り、我が心と願いを共にせよ。

 死が二人を分かつまで」


 契約の儀をしたからといって、まだユディは召喚士ではないので意味はない。

 ただ、一度マネをしてみたくてたまらなかったのだ。

 誓いのキスは、さすがに気恥ずかしい。控える。


「あっ、契約もしていい? 勝手にする気でいたけど」


 ユディはあわてて付け加えた。


「大事にするよ。シロがきれいだからって、見世物にしたりなんかしないよ。一生の相棒として大切にするから」


 誠心誠意、真剣に訴える。


「……」


 シロはやっぱり無言だったが。

 ユディにそっと、誓いのキスをしてくれた。

*2026/6/25 シロの姿を変更しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ