第83話 剣聖、青春を謳歌する(第8章 完)
オウジンが先ほどまでの話題を振りきるかのように、カリキュラムの話を始めた。
「まずはエレミアの提案をイトゥカ教官に話してみることからだね」
「ああ。クラスが班ごとに別行動を取るようなら、俺たち三班も手分けせねばならん。それにはリリの許可がいる」
ルール破りで留年などしてはシャレにもならない。
「じゃあ許可が下りたと仮定して話を進めようか」
片手を開いて指を立てたオウジンが、一本ずつ折りながら説明する。
「班は全部で五つ、三班を抜いて四つだから、最悪の場合、僕らはひとりずつ別行動になる」
リオナがうんうんとうなずいた。
「そだねぇ。あ、でも、あたしはあんまり正面切っての戦闘って得意じゃないからね。索敵とかサポートはするから、攻防の得意そうな班だと助かるよ」
そうか。それぞれの相性も考えねばならないのか。
俺は頭にクラスメイトの覚えた顔と名を思い浮かべながら口を開く。
「ええっと……? セネカのいる五班にはオウジンは合わないな。指揮がふたりになってしまうのはもったいないし、混乱が生じては本末転倒だ」
オウジンがうなずいた。
「そうだな。彼女はパニック状態であっても正確な判断を下すことに長けているからね。その部分に関しては僕より遙かに優れていると思う」
ヴォイドが茶々を入れる。
「おめえも女が絡んでこなけりゃ、そう負けてねえぜ。クック」
「そ、それは言わないでくれよぉ」
情けない声を出すな。
それから、ええっと。
「リオナは戦闘特化班を希望しているから、三班以外に戦闘に特化しているのはイルガ・フレージスのいる一班か。あるいは安全性を考慮するなら治療魔術の使えるフィクス・オウガスのいる四班ということになる」
「先走りヤローのイルガくんの班はしんどそー……。あたし、ああいう人のお世話って苦手。ついてくだけで疲れそうだもん。それにホムンクルスのときみたいに突っ走られたら、索敵なんて何の意味もないじゃん」
リオナは嫌そうだ。正直、こればっかりは俺も同意見だ。
早死にするやつの性格というものは、大体が同じだ。
無駄に勇猛なやつだ。身の程を弁えず、あるいは身の程を知らず、どのような敵にも勇猛果敢に攻め込んでいく。
そして真っ先に殺される。
それを見てしまった後続の士気は下がり、結果として戦場での敗北が決定する。前世では何度か見てきた光景だ。
いや、今世でも、だな。
イルガはホムンクルスに真っ先に特攻してあっさりと張り倒され、一組全体を恐慌状態に陥れたのだから。
「そうだな。だがヴォイドやオウジンをそこに入れてしまうのは、戦力がダブってもったいない」
「俺ぁ別に構わねえぜ。野郎を止めるためにぶん殴っちまっていいならな。ククク」
ああ、ありそう。不思議と光景が鮮明に浮かんでくる。ダンジョンで魔物を前にしてぶつかり合っているヴォイドとイルガのふたりの姿が。
これは……取り返しがつかなさそうだ。
「そんなもの、だめに決まってるだろうが。まったく。あとでリリに叱られるのは俺なのだぞ」
思わずぼやいてしまう。
「ああ見えてイルガは貴族剣術ではなく騎士剣術を使っていたから、学生にしては弱くはないはずなんだが……性格か……。こればっかりはどうにもならんな」
「彼も前回の失敗から学んでくれていたらいいけどね」
オウジンが苦笑いを浮かべた。
「そうだな。だが希望的観測は捨てよう」
圧倒的な暴力を持つホムンクルスが相手では、学生ごときは力の測りようすらない。イルガが叩きのめされたのも当然だ。あれを実力不足と言ってしまうのは少々気の毒に思える。善戦に持ち込めた三班だけが、あくまでも特殊過ぎただけだ。
リオナが思い出したようにつぶやく。
「ねえねえ、二班にも大きな男の子がいたよね。長柄武器の子。名前は覚えてないけど、そっちの方があたしはまだいいかな」
「俺もその男子のことはよく知らんが、でかいだけで強いとは限らんぞ。素手ならば肉体のでかさは強さに直結するが、武器を使う戦闘では必ずしもそうはならない」
「そっかぁ~。エルたんも強いもんね。正騎士先生の肋骨を砕いて遊んじゃうくらいだし」
「俺は小さくないっ! 十歳だから普通だ! 俺がおまえらと同じ年齢だったら、ヴォイドの倍はあったからな!」
はっ。いかんいかん。
本物の子供のようにムキになってどうする。
「それに人聞きの悪いことを言うな。別にローレンスをいたぶって遊んでいたわけではないぞ。一発殴ったら不思議と五本同時に折れたんだ」
どいつもこいつも真顔で俺を見つめている。
「なんだ、その目は。むしろこっちがびっくりしたくらいだぞ。あの口だけ教官め」
そう、いたぶって遊んでなどいない。教えてやっただけだ。愚か者に身の程を。
「なんだったら自分で折ったのではないかと疑っているくらいだ。くしゃみで折るやつもいるだろう。知らんのか?」
「……」
「……」
「……」
「なんだぁ? おまえら、俺の言うことを信じていないのか!? 俺ならやりかねないとでも思っていたのか!?」
ヴォイドが俺から視線を逸らしてつぶやく。
「そんじゃ、俺かオウジンのどちらかがフィクス・オウガスんとこだな。やつの治療魔術は大したもんだが、あそこは戦闘面でちょいと不安が残る」
なんで無視するんだ。これがいじめというやつか。まあいいか。
午後の授業まで時間もないことだ。頭を切り替えよう。
「ええっと、ならば残りは……?」
「残りも何も、まだ一組も決まってないよ、エルたん」
わあ、ほんとだ。不思議だな。こんなに頭をひねって考えているのに。
俺は両手で頭を掻き毟る。
「……んあぁぁ~~~~~~~、なんかもう七面倒くさい!」
考えるのを放棄した。そうして表情を引き締め、いい顔でぶん投げる。
「当日決めよう」
いいだろう、別に。どうせ俺はルール無用の“型無し”だ。決まり事など、最初からあってなきようなもの。
オウジンが苦笑いを浮かべた。
「そうだな。四組ではなく二手に分かれる場合もあるかもしれないし、その方がよさそうだ」
「あたしもー。考えるの面倒くさいからぁ」
「クク、結局こうなんのかよ。何だったんだぁ、この時間はよォ」
ほんとにな……。
何となく四人で見つめ合って、同時に笑った。
なぜか愉快な気分だったんだ。
ひとしきり笑ったあと、リオナが全員からパンの包み紙を回収し、空いた紙袋に詰め込んだ。どうやらゴミは捨ててくれるようだ。パンを分けてくれたヴォイドへの礼なのかもしれない。お互いに素直ではないからな。こいつらは。
オウジンがつぶやく。
「そろそろ予鈴の鳴る時間だな。みんな、教室に戻ろう」
ヴォイドが両手を枕にして、仰向けになった。
どうやら午後の授業もサボるつもりのようだ。ひらひらと掌を振っている。
「ま、俺ぁどこでもいいぜ。当日、余ったとこにでも放り込んでくれや」
こんなんで大丈夫だろうか。なんか今日は貴重な昼休憩を無駄にしてしまったな。木刀でも振っておけばよかったか。
いや、そうでもないな。知ったクラスメイトのことを整理するには、割と有意義な時間ではあった気がする。それにヴォイドとリオナの仲が改善されつつあるのも見られたし、オウジンの深い部分も少しは知れた。
「あれ? エルたん、何でまだ笑ってんのー?」
「ああ? わからん!」
何より、俺は結構楽しんでいた……ようだ。
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