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第24話 地下迷宮の敵性種族・決着

誤字修正ありがとうございます!




 先頭のゴブリンが俺たちにはわからない言語で何かを命じると、やつらが一斉に散った。

 正確な数は不明だ。なぜなら魔導灯の照らし出す範囲に収まり切らぬほどの広がりを見せる陣形だったからだ。

 何にせよ、俺たちは壁際で包囲された。


「ひ……ぃ……」


 誰かが息を呑む。

 恐怖が伝播する。


 ああ、まただ。こいつらはすぐに背中を見せようとする。それは悪手であると、第一層でバケモノを相手に学ばなかったのか。負け犬根性を植え付けられやがって。

 仕方がない。声変わりもまだの子供の声で、いったいどれほどの効果があるかはわからんが、檄を飛ばすしかない。

 胸いっぱいに空気を吸う。


「全い――ッ」

「一組総員、武器を抜けッ!! 剣を構えろッ!!」


 俺の檄にかぶせるように、ゴブリンどもの背後から若い声が飛んだ。突然響いたその声に、一年一組の全員が弾かれたように抜剣する。

 オウジンだ。ゴブリンの群れの最後尾。向こう側に偵察に出ていた姿が見えた。

 あの小さな身体で、なかなかどうして太い声を出す。


「盾持ち、前へッ!!」


 ゴブリンどもが振り返った。声のした方に。つまり、俺たちに背中を向けたんだ。

 その瞬間、盾持ちの生徒らが前に出る。陣形が変わった。授業で教わった通りにだ。

 場の熱気が膨張した。

 まるで戦場だ。思い出す。血が騒ぐ。


 ハッハ、楽しくなってきた!


 気づけば俺は駆け出し、盾持ちの頭上を飛び越えながら叫んでいた


「聞こえるか、オウジン! 挟撃する!」

「……ッ!? 承知した!」


 ミクが遅れて盾持ちを押しのけ、追走している。かつての弟子どものように。


「だめ! 戻ってエルたん!」


 オウジンのいる方を振り返って背を向けていた先頭のゴブリンの頭部へと、俺はグラディウスの刃を叩き落とす。


「らあ!」


 ズン、と重い音がして、刃は頭蓋をかち割り脳を両断する。

 命を絶った。前世ぶりの感触だ。膝から崩れ落ちるゴブリンの背中を蹴って刃を引き抜き、未だ呆然としている隣のゴブリンの首を刎ねた。

 パン、と音がして小さな頭部がごろりと迷宮の床に転がる。血の線を引きながら。


「初動が遅いな。所詮は魔物か」


 そのときになって、ゴブリンたちがようやく動き出した。棍棒を振り上げ、盾持ちに襲いかかる。ガンガンと金属音が響くが、一度場を乱してしまえばしょせんは知能の低い下級の魔物だ。

 稚拙な貴族剣術とはいえ、幼少期より学んできた生徒らの敵ではなかった。ミクのレイピアの切っ先が、俺へと迫っていたゴブリンの脳天に突き刺さる。


「エルたん、リョウカちゃんヤバそうよ!」

「わかってる!」


 こっちはそのために飛び出したのだ。あのままではオウジンにゴブリンが集中してしまうからな。

 群れの向こう側ではオウジンが刀を振っている。こちらは生徒らが層を厚くしているため、そう簡単にゴブリンどもも踏み込んではこられないが、群れの後方からたったひとりで襲撃したオウジンは別だ。

 四方八方から振り回される棍棒を躱すだけで精一杯、刀が受け止めるに適した武器ではないことも事態を悪化させている。石の棍棒など一撃でも受けてしまえば、簡単に折れ曲がってしまう。刀は攻撃特化の武器だ。


「~~ッ」


 しかし救いに向かおうにも、このゴブリンたちの数では――!

 ブライズの肉体と武器であれば蹴散らして進むことも可能だが、エレミアの肉体では群れの中央をすり抜けていくしかない。

 危険だが見捨てるわけにもいかん。仕方がない。いや。違うな。


「はは」


 年甲斐もなく、心が躍る。

 俺はゴブリンの棍棒を持った腕を斬り飛ばし、怯んだ隙にその頸部を刎ねる。

 ミクが感心したようにつぶやいた。


「エルたんって、案外えっぐいんだぁ。でもやっぱ、実技試験のあれはまぐれじゃなかったんだねぇ」

「ふん、あたりまえだ。――もう少し耐えていろよ! オウジン!」


 オウジンは棍棒を躱しながら何体かのゴブリンを倒しはしたが、その顔に余裕はない。体捌きから武芸者であることは間違いないが、あまりに多勢に無勢。せめて背中合わせとなる仲間がいなければ、いずれは地に伏すことになる。

 おそらくクラスメイトの窮地を見かねて、自らが不利となるのを覚悟の上で声を出したのだろうが。優等生という言葉で片付けるには、少々惜しい男だ。男子寮に空きは欲しいところだが、このようなところで亡くすのはもったいない。


「やむを得ん、強引に斬り込む。ミク、俺をフォローしろ」


 ブライズの肉体であればこの程度の群、片手でミクを抱えての単身突破すら容易いというのに。

 ああ、歯がゆい。歯がゆい……が、楽しい。


「え、ちょ! さすがに中央突破は無理だよぉ!」

「やかましい、だからフォローしろと言っているんだ! ごちゃごちゃ言っていないでついてこい!」


 腹をくくったとき、別の大声が響いた。


「んだァ!? 俺抜きで楽しそうなことしてんじゃねえよ、優等生ッ!」


 背の低いオウジンを跳躍で飛び越えて、彼に集っていた正面のゴブリンを縦方向に豪快に両断する。左右に真っ二つだ。

 ブンディ・ダガーの刃。

 石棍棒の一撃をブンディ・ダガーの手甲で弾き、拳を繰り出すケンカのように、背の高い少年が別のゴブリンを突き上げた。


「オラァ!」


 ヴォイドだ。

 顎を頭部ごと貫かれたゴブリンは天井近くにまで舞い上がり、他のゴブリンを巻き込んで地に落ちて肉塊となる。


「へっ、歯ごたえのねえ。オラ、もっと楽しませろや」


 ヴォイドの背後へと迫ったゴブリンの胸部を袈裟懸けに断ち斬って、オウジンが刀を構えた。優等生と不良が背中合わせになっている。


「キミか。ケンカならお手の物みたいだな」

「ヘッ、こちとらスラム育ちだ。人間相手も魔物相手も慣れたもんだぜ。おまえと違ってお行儀には自信はねえが」

「はは、そのようだ」

「ククク。そこは否定しろや、ボケ」


 ヴォイドが首を左右に倒して、骨を鳴らした。

 後方のゴブリンどもがふたりに向けて唇をめくり上げ、一斉に牙を剥いた。

 威嚇だ。どうやら十数体が同時に襲いかかるつもりらしい。


「くるぜ、優等生。びびってトチんじゃねえぞォ?」

「見えてるよ、不良。キミこそしっかり防いでくれよ」


 ゴブリンどもが飛びかかった。

 オールラウンダーのヴォイドが手甲で攻撃を防ぎ、わずかな隙を縫うように攻撃特化のオウジンが正確無比な斬撃を繰り出す。


「正面突破だ! ノイ坊と合流する!」

「了解した」


 ヴォイドの脇からすり抜けて出たオウジンが、ゴブリンの腹部を横一文字に裂いた。血風が巻き起こり、赤い霧が立ちこめる。それを全身で突き抜けるようにして、ヴォイドが正面の一体を手甲で殴り飛ばした。


「ハッ、軽ィ!」

「エレミア、オルンカイムさん! 僕らなら平気だ! 無理はするな!」


 オウジンの言葉通り、即席にしてはなかなかのコンビネーションだ。

 息を吐く。どうやら俺がこれ以上の無理をする必要はなさそうだ。

 グラディウスをゴブリンの肩口へと叩き落としながら安堵する反面、何やら少々物足りなさを感じてしまう。


 そのときになって、ようやくクラスメイトらが本格的に動き出した。

 亀のようにただ丸まっていた防御用の陣形から、迎撃のためのハリネズミのような陣形へ。

 盾の隙間から突き出されるレイピアやエストックの切っ先が、迫るゴブリンを次々と貫いていく。やがて半数近くにまで減らされたゴブリンの群れは、闇に溶けるように逃走を始めた。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お〜熱い! ヴォイド期待どおり(≧▽≦)b オウジンやるな! 楽しそうなエルたんが目に浮かびます♪ そして、無理と言いながら対応しちゃってるミクさん! (・∀・)イイ!! [一言] ゴブリ…
[良い点] 連続投稿ありがとうございますヽ(´▽`)/ 何とか犠牲者を出さずに撃退出来たようで一安心。 一番の功労者たるオウジンくんも無事でしたし言う事なしですね。 [気になる点] 某暴走特急小娘を見…
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