拷問のお時間でーす
「はーい、ではこれから拷問の練習をしたいと思いまーす」
「ぴぃっ!」
棒読み口調のスズシロの宣言を聞くやいなや、セリの口から握りつぶされた小鳥のような悲鳴が出た。
セリの全身が総毛立っている。なぜならスズシロの拷問の練習台になるのは自分しかいないからだ。
宣言された以上はもう逃げられない。逃げるのであれば宣言される前――それも、スズシロの視界に入る前でなければいけない。
「ん? お前顔色悪いぞ、どうした?」
「こ、ここここれからごごご拷問されるのに、かか顔色がいい人なんていいいいいないと思います……」
「は? バーカ、お前を拷問すんじゃねーよ、お前が拷問の練習すんだよ。団長様が珍しく生け捕りにしたんだとよ。せっかくだ、有効活用しようぜ」
セリの瞳が希望の光で輝いた。
「……セ、セリが拷問されるんじゃないんですね……?」
安堵で涙が潤み、緊張から解放された脱力でセリはその場に膝から崩れた。
いつ終わるとも知れぬ苦痛を与えられ続けたまま、怖すぎる笑顔のスズシロと二人っきりにならずに済む。
練習台が自分以外にいるということは、つまりそれはスズシロと二人っきりにはならないということだ。
それがなによりセリにとって救いのポイントだった。
「おやおや、だめじゃないかスズシロ。アタシの大事なセリが怯えてるじゃないか。もっとセリを大事にしておやりよ」
静かに現れたナナクサが、地面に手をついてしゃがみこんでいるセリの背中をさすると、セリの涙腺は一層緩んだ。
「だ……だんちょぉぉぉ……」
喜ぶセリとは対照的に、スズシロはうんざりした顔になる。
「うるせえな。チマチマ拷問するよりサクッと殺す方が好きなんだろ? 練習台始末するとき呼んでやっからどっか行ってろ。邪魔」
しっしっ、とスズシロが手を払う。
「なんだい、そんな邪険にすることないだろう。それに……セリだってアタシがいた方が張り切るだろうし、ねえ? セリ」
「は、はい! セリは団長が見てたらすっごくすっごくがんばれますっ!」
勢いよく直立で立ち上がったセリの首をスズシロが速攻でつかんだ。スズシロの顔はもちろん、セリの最も恐れる『怖すぎる笑顔』だ。
「おいおい、お前は状況に応じて頑張ったり頑張らなかったりできる立場なのか? ん? お前まともに一発で俺の要求に応えた試しがねえだろうが。
ん? つまり俺といる時は頑張ってねえってことか? ん? どうなんだよ? 俺の命令じゃあお前は頑張れないってか? ん? ほら怒らねえから正直に吐けよコラ」
「……び……びぃぃぃ……っ」
セリの口から握りつぶされた小鳥のような断末魔がもれる。
「スズシロ? お前じゃなくてセリだろう? ちゃんと名前で呼んでおやりよ。立派なセリになるように、うーんと愛情こめて育ててあげなくちゃセリが可哀想だろう?」
冷たい視線がナナクサとスズシロの間で交わされているが、首を絞められて窒息寸前のセリには気づけない。
スズシロの指の力がどんどん強くなっている。
「ぐ……ぐえぇ」
「いちいち色気がないんだよお前は。0点」
瀕死なうえに0点までつけられたセリだったが、点数がついた時点で解放してもらえるのは学習済みだった。
頭をひっばたかれたが、ようやく恐ろしい手が自分の首から離れてくれたので、セリはここぞとばかりにスズシロから距離をとり、安全地帯であるナナクサの後ろに回り込んだ。
「全く仲がいいねえ。ほら、行くよ。せっかくなら生きの良いうちに遊んでやった方が面白いからね」
ナナクサの先導で野営地から離れた場所に向かうと、男が2人縛られていた。
「お、いいね。活きの良いのが2匹」
スズシロの機嫌がいいことにセリはすぐに気づいた。しかしスズシロの機嫌の変化は山の天気よりも激しいので油断は禁物だ。
「よし、んじゃさっそくお前この針、どっちかのやつの首に刺してこい。悲鳴が出なくなるとこな」
スズシロが手甲に仕込んだ細い針をセリに手渡す。とまどい立ち尽くすセリにスズシロが圧を込めた笑顔で凄む。
「なんだ? どうした? 前にお前に刺しただろ? そこと同じ場所に刺せばいいんだよ。お前覚えてるだろ? 簡単だろ? それともお前まさか覚えてないとか言うんじゃねえだろうな? なら、もう一回お前の首に刺しとくか? お前の物覚えの悪さに腹が立ちすぎて手元が狂うかもしれねえけどそれはお前の自業自得だよな? ん?」
「ぴぃぃぃっ!」
セリは自分の首がもげるほど横に振りまくった。
「だからスズシロ~、セリを名前で呼んでおやりよお、かわいいかわいい妹弟子だろぉ?」
スズシロはナナクサを睨むと舌打ちをして叫んだ。
「セリ! もたもたすんな! やれ!」
「ぴぃっ!」
明らかに機嫌が悪くなった声のスズシロに名前で呼ばれたことでセリの緊張が爆上がりした。
これ以上もたもたしていたら練習台になるのは確実に自分だ。
セリは縄で拘束された二人組の男に近づくと、覚悟を決めて首に針を突き立てた。
「「あ……」」
ナナクサとスズシロが同時に声を上げる。
「なあスズシロ、あれ即死じゃね?」
セリから距離が離れていることもあり、ナナクサが素の声でスズシロに尋ねる。
「ちっ! なんでよりにもよって迷いなくそこを刺すんだ、あのバカ」
スズシロが苦々しく吐き捨て、セリに向かって怒鳴った。
「おい! なに速攻で殺してんだ! 練習台だっつっただろ!」
セリはおどおどしながら脈を取ったり、呼吸を確認したりしていたが、観念したらしく助けを求める顔でナナクサとスズシロを見つめた。
お一人様終了である。
「ある意味すごいじゃないか、一発であそこを狙えるなんて。やっぱりセリには殺しの素質があるんだねえ」
「依頼を無視して素質もクソもあるか。早速練習台を一匹無駄にしやがってあのバカ」
「失敗しても絶対死なないやつで拷問するしかないねえ。もう一匹も瞬殺されたら練習どころじゃなくなっちまうし」
「おい! 来いバカ!」
スズシロに呼びつけられ、青ざめた顔で戻ってくるセリをナナクサが慰めるように抱きしめる。
「落ち込まなくていいんだよセリ。誰にだって失敗はつきものさ。練習して上手になればいんだ。そのために練習台を連れてきたんだからねぇ」
「あーもーうぜーなー。甘やかすな。練習になんねーからもーマジでどっか行けよ。
ほら、これ使え。どの程度の加減で痛がるか感覚つかめ」
スズシロがセリに鞭を渡す。
しかしそれをセリよりも先に手に取ったのはナナクサだ。
「ほらセリごらん。こうやって痛めつけるんだよ」
ナナクサは無駄のない動きで鞭をしならせ、鋭く捕虜を打った。
「だんちょう……きれー……」
「こらこら、アタシに見惚れてるんじゃないよ。次はセリがやってみな?」
ナナクサから鞭を渡され、セリはナナクサの真似をして鞭をふるった。
鞭は捕虜を打つことなく、なぜか器用に首へと巻き付いた。
「何故にそうなる……」
「あはは! セリは器用だねえ!」
スズシロがうんざりした声を上げ、ナナクサは感心したように笑う。
懸命に絡まった鞭をほどこうと引っ張るセリだが、かえって鞭が喉に食い込み捕虜は死にかけていた。
「おいおい、これも即死案件かよ!」
「こらこらセリ、その角度で振ったら頸椎がいってしまうよ。いったん落ち着いてごらん」
「ぴぃぃぃ……」
「ぴーじゃねえんだよ! 人の言葉をしゃべれ!」
前回の罰ゲームで『ピーしかしゃべるな』と命令していたことなどすっかり忘れきっているスズシロの強烈なゲンコツを受けながら、セリの鞭打ち練習は幕を開けるのであった。
アルケウスのpiece38-12とリンクしてますので、合わせてお楽しみください。




