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だいたいの男はエプロンが好き

萌芽のイリアストラムの第9話後のお話でした。

短編に少し加筆しました。


 昼間の閑散としたエヌセッズの酒場――。


「なあメフェナ、エプロンって普通、どこに売ってるもんなんだ?」


 簡単な事務作業を片づける合間、ボルターは近くを通りすぎていくメフェナに尋ねた。


「エプロン? ボルターがつけるの?」


「馬鹿、俺じゃねえよ。……セリが……欲しいんだとよ」


 妄想が真っ先に出てきてしまうので、『女にエプロンを買う=エロい』という変換になってしまい、思わず口ごもってしまった。


「普通に婦人用の服屋にあると思うけどなあ」


「ふーん……」


 ボルターは作業から目を離さずに返事をする。話題に興味津々だと悟られないようにするためだ。


 しかしメフェナは、ボルターの深層に隠れた願望を敏感に察知した。


「なになにエロいやつ? そういうプレイとかしちゃう感じの?

 えー? セリちゃんまだ体が育ってないから早いんじゃないかなあ。

 あ、でもボルターそっちに開眼しちゃった系? 育成するの? 私も混ぜて~♡」


「暴走すんな人妻。お前、家でも子供の前でそういう話してんじゃねえだろうな?」


「え~、ボルターに言われたくな~い♡」


 やはり一般的に『エプロン=エロい』という構図は完成されているらしい。


 別にやましい気持ちはない。

 セリが欲しいって言うから買うだけで……。

 服が汚れるから必要だって言うから買うだけで……。


 エプロンは本来エロい装備ではなく、日常生活に必要な装備なわけだから、決してこんなに二の足を踏むような買い物ではないはずだ。

 ただ想像すると、妙に口が緩むような気がするのは、きっと関係ないはずだ。


 周りでメフェナがどんどん妄想を刺激するようなことを吹き込んでくるので、ボルターは仕方なく酒場を出ることにした。



・・・



 そしてボルターは結局、普段まず近づくことがない、女ものの服屋の前にたどり着いてしまった。


 そこで葛藤する。


 なんて言やあ、いいんだ? エプロンどこですか、か?


 だがどうする。店の人間にまで、あらぬ誤解を招くような真似はしたくない。

 自分は純粋にセリが欲しいというから買いに来たんだ。

 決して自分の妄想の姿をセリに押し付けようなんて気持ちは一切ない……はず。


「あら? ボルターさんじゃないの! 珍しいわね。もしかしてセリちゃんの服でも買ってあげるのかい?」


 服屋のおかみさんにさっそく見つかり、なぜかボルターはとても居心地が悪くなった。


「……ああ、まあ。一応」


「どんなの買う……あら、いらっしゃい。

 ああ、こないだ言ってたの? はいってるわよ~?

 ちょっと、アンタ! こっち来て手伝って!」


 ちょうどいいタイミングで、他の客が来てくれたおかげで、ボルターはおかみさんの追及を逃れることができた。


 代わりに亭主がのそのそと出てくる。


「ずいぶんと珍しい客が来たな」


 面倒くさそうに現れた亭主の近くに寄ると、ボルターは小声でエプロンはどこにあるかを尋ねた。


 亭主は案の定、キラリと目を光らせると、口元をにやけさせながらボルターの腕を肘でつついた。


「ああ~、好きだねえアンタも。

 前の奥さんとずいぶんタイプ違うけど、ああいう娘さんを育成する趣味にでも目覚めたのかい? 羨ましいねえ」


「だから! どいつもこいつも、そっちのエプロン想像すんじゃねえよ!」


「まあ、これは男のロマンだからねえ。実は結構いいもの揃えてるよ。例えばこれ」


 出してきたのは、黒の総レースのエプロンだ。


「…………最初っからエロいな。まあ、嫌いじゃねえけど」


「だろう? 背中もこう、ガバーッと大胆に開いてるし、丈もちょうど太ももの上くらいだ。つけたままでも十分いろいろとお楽しみが……」


「おいオヤジ! だからそっちに行くな!」


 とはいいつつ、ひとまず装備をしたセリを想像することは大切だ。

 黒か。黒……。セリにはまだ早いな。


 ボルターはとりあえず頭の中で時間を進め、想像の中のセリを熟成させる。

 ……あと15年ってとこだな。それまでの楽しみにとっておこう。


「他のテッパンはやっぱりこの辺か」


 次に亭主が出してきたのは、フリルが山ほどついた白とピンクのエプロンだった。


 第一印象は、セリがこんなビラビラしたのを着るのか? ということだった。

 おそらくセリもボルターも黙っていれば選択しない系統だ。つまり、かわいい系だ。


 ……いや、待て待て。

 意外とギャップ萌えっていうのもありなのか?

 普段クールな女が夜だけフリフリというのも悪くはないのか?

 よし、まずは想像してみよう。


 難しい顔をしているボルターをそっちのけにして、服屋の亭主は妄想にふけり始めた。


「白はいいよなあ。清楚で純粋な感じがしてなあ、慎ましく自分のために料理してくれてる後ろ姿なんか、襲いかかりたくなるわなあ。

 やっぱり、白はいいよなあ……」


「……待てオヤジ、気持ちは分からなくはないが、ちゃんと想像はてめえのカミさんでしてるんだろうな? セリでしてるんじゃあねえだろうな?」


 ボルターの殺気を感じた亭主は、小さく咳払いすると商品説明を始めた。


「どっちも腰の後ろはひもで結ぶタイプ。それはお約束じゃ。ボタンで留めるような無粋な真似はせんぞ。

 こっちのピンクの方は、首後ろもひもで結ぶタイプになっておるのじゃ。つまり、2回もほどくお楽しみがあるということじゃ!!

 そして白い方は首のひもはない代わりに背中が大胆にガバーッと開いているタイプじゃ。

 ほどく楽しみも捨てがたい、うなじから背中のラインが見えるのも捨てがたい。悩むのう」


「なんで急にどこかの長老みたいな話し方に変えるんだよ。

 つーかオヤジ、終始そっちのエプロンから離れねえな」


「なにをいうか! 裸エプロンは男のロマンじゃ!」


 ぐっと拳を握りしめて、長老キャラになった亭主は力説する。


「……いや、分かるけどよ。はっきり言うなよ、自分の店の中だろ」


「じゃあこれを見よ!!」


 ついに亭主は最終兵器を登場させた。


「純白の総レース、スケスケエプロンじゃ!

 どうだ! これでもまだそっちのエプロンへの情熱が分からんか!?」


 ボルターは思わず口もとを覆った。


 おいおいいいのか、普通の服屋なんだろここ。

 こんな防御力0の危険な装備を通常陳列しちゃマズいだろ。


 エロい……! エロすぎる……!


「うちのエプロンで一番売り上げているヤツじゃ!! 欲しくないとは言わせんぞ! 欲しいに決まっておる! 着せたいに決まっておる! どうだどうだ! どうなんじゃあぁぁぁぁぁ!!!」



・・・・・・



「あ、お帰りボルター。ご飯これから作るとこだから、先にレキサとロフェとお風呂済ませちゃって」


 子供たちと遊んでいたセリがバトンタッチと言わんばかりに腰を上げて、食事の支度にとりかかり始める。


「あ……おい、これ……」


 妙に気まずくなってしまい、ボルターは持っていた包みをセリに押し付けた。


「ん? なあに? ……あ! エプロンだ! さっそく買ってきてくれたの? え! 3枚も!?」


 驚くセリの台詞一つ一つに、自分の心の醜さを攻撃されているような嫌な気分になり、ボルターはなんとなくセリから目をそらす。


「……わぁ。かわいい……。でもなんか不思議かも、ボルターがこういうの選んでくるのって。珍しいよね。

 ……ん? すごい、これレース?

 えー、でもこれ汚れとか下の服にそのまま通過しちゃうんじゃないかな? どこかに引っかかって破けちゃったら大変。かわいいのにもったいない」


「……っ! お前……っ!」


 言いかけたボルターは、慌てて自分の口を押さえた。


 透けてるだけでも十分エロいのに、その上それを破くって、どんだけ上級者なんだよ!


「白もピンクもかわいいけど、汚れ目立ちそうだね? 黒とかなかったの?」


「お前に黒はまだ早い!」


 そのうえ破いた切れ間から覗く白い肌とか……。


 ダメだ。これから子供らを風呂に入れるんだった。


 とりあえず黒レースエプロン破りプレイのことを考えるのは、みんなが寝静まってからゆっくり考えることにしよう。


「あ、ねえボルター」


「今度は何だ!」


 余裕がなくなっているせいか、少し荒っぽい口調になってしまう。


「……ありがと。大事に使うね。

 早速だけど今日、ピンクと白、どっちつけたらいいかな?」


 照れ隠しなのか、目線を外しながらセリが白とピンクのフリルエプロンを体に重ねて選べと言ってくる。


 ボルターは顔を覆いながら思った。


 ここにきてツンデレを出してくるセリにも参ったが。


 やべえ、エプロンの破壊力、マジ半端ねえわ。


「……ピ…………ピンクで頼む」


 ボルターはそれだけ言い残すと、子どもたちを連れて風呂に入りにいった。


 そしてピンクのフリフリセリは、風呂上がりにじっくり拝むことにしようと、固く心に誓うボルターなのであった。


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