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ITN.5 グレイスメイア銘菓<ガランタ饅頭>繁盛秘話

饅頭シリーズはこれにて終了です。


今回の登場人物


DMARDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)メンバーの皆さん

■メトトレキサート:リウマチ第一選択薬。

■インフルキシマブ(レミケ〇ド):生物学的製剤(キメラ型モノクローナル抗体)

■アダリムマブ(ヒュミ〇):生物学的製剤(完全ヒト由来抗体製剤)

■トファシチニブ(ゼルヤン〇):JAK阻害剤。内服薬でありながら生物学的製剤と同等の有効性あり。


ボルターの前妻、メトトレイのエピソードは第一部のラストスパート部分です。

良かったらお立ち寄りください。


「ちょっと! レミケイド! ボスに何したのよ!? 事と次第によっては刺すわよ!!」


 リリーパスの街。ディマーズのギルド内、応接室にて、アダリーの怒声が響き渡った。

「待てアダリー落ち着け。そして音量が大きいから下げろ。

 自分もまだボスの状況が把握できていない。菓子を食べたら急にこの有り様だ」


 アダリーはつかつかと歩み寄り、自分より上背のあるレミケイドの胸ぐらをつかんだ。

「ボスが理由もなく急に泣くわけないでしょ!! 何したの!? 白状しなさい!!」

「アダリー、本当よ。手を離してあげて」

 今まで顔を覆って伏せていたメトトレイが、真っ赤に泣きはらした目をして顔を上げた。

嗚呼(ああ)っ!! 泣き顔すら麗しき我がボス!! 一体なにが貴方にそのような顔をさせたのですか!? そのような無礼者は私めが刺します!! 刺して刺して刺しまくります!!」


「それがね、レミケイドの言う通り本当にこのお菓子のせいなのよね。ちょっと二人とも食べてみてくれない?」

 メトトレイが困ったような顔をして、レミケイドが視察帰りに買ってきた菓子をすすめた。


 レミケイドとアダリーは神妙に顔を見合わせると、それぞれ1個ずつ口へと運ぶ。

「……どう? なんか来た?」

 メトトレイが緊張した表情で尋ねる。先に答えたのはアダリーだった。


「あ、なんか昔のことがふわっと浮かんだような……」

「そう! それ! 感動しない!? こう、ぶわーーーーっと涙があふれるような……!」

「す、すみませんボス。さすがにそこまでは……」

 興奮ぎみに質問するメトトレイとは対照的に、アダリーは申し訳なさそうに答えた。


「え!? そうなの? レミケイドは?」

 メトトレイは驚きを隠さず目を大きく見開いた。横にいる、常に全く表情が変化しない腹心――レミケイドにも尋ねてみる。

「…………いえ、自分は特に……」

 すっとメトトレイから目を反らし、レミケイドが答える。


「なんすかなんすか? ま~た先輩方、仲良くボスの奪い合いでケンカしてんすか? あ! 菓子じゃないっすか? オレももらっていいすか?」


 騒ぎを聞きつけて、開いていたドアから若手メンバーのゼルヤが陽気なテンションで入ってくる。

「あんまり見ない菓子っすね。どこの土産っすか? 

 ん~? ナニナニ、グレイスメイアの湧泉、神秘の力を持つガランタの名水が貴方の思い出を呼び起こします……? なんすか?」

 しげしげと箱を持ち上げ宣伝文句を読み上げていたゼルヤの口の中に、レミケイドが「食べてみれば分かる」と一つ摘んで放り込む。


「ん~……、ん!! んん!? ふへー! はふはひい!! はふほいほ……!!」

「飲み込んでから言え!! 口にものを入れたまましゃべるな!!」

 アダリーがゼルヤの頭を引っぱたく。


「すっげー! 懐かしいっす!! 初恋の女の子と両想いになれた日の超甘酸っぱい思い出が急に出てきちゃいました!! うおー! なんかめっちゃ今日テンション上がるっす!!

 ガンガン仕事しちゃいますよーオレ!!」

「リアクションは人それぞれみたいね……」

 メトトレイが気だるげにため息をつき、鼻をかんだ。油断するとまだ涙腺が緩むようだ。


「まだ全然余ってるじゃないっすか。食べないんすか? ボスどうぞ」

「私は……もう胸がいっぱいでこれ以上は無理」

「レミケイド先輩は?」

 レミケイドが無言で手を前にかざし、無用だとアピールする。

「なーんだ、じゃ誰も食べないんならもったいないからオレが……」

「ちょっとアンタ、わざと私のこと無視してない? 刺すわよ?」

「おっと! やだなあ、アダリー先輩、ダイエット中って言ってたじゃないっすか。甘いの食べちゃうんですか?」

「キャ―――!! ちょっとこんなところで言わないでよ!! 何言ってんのよ!!」

 アダリーが真っ赤な顔をして、レミケイドとメトトレイの顔色を伺いながら、同時にゼルヤを張り倒した。


「あらやだアダリー、必要ないんじゃないの? それともあらやだ! もしかしてダイエットなんかするってことは……! あらやだ! そうなの?」

 メトトレイが緩む口元を両手で隠しながら目を輝かせる。

「ボス!! そんなんじゃありません!! 私はそんな浮ついた心で業務に臨んでなどおりません!!

 体重コントロールの一環であります!! より速く! より俊敏に刺すためであります!!」


「その必要はない」

 レミケイドがじっとアダリーを見つめる。

「――え? ちょ、ちょっとそんなに人のことじろじろ見ないでよ!

  え? 必要ないって何よ。レ……レミケイド的にはこれくらいがアリ的なワケだったり、ありのままの私でよかったり……するワケ?」

 わずかに上目遣いになりながらアダリーは、もじもじしだす。


「摂取エネルギーを制限して仕事中に低血糖症状を起こされると足手まといだ。そういうことは繁忙期を過ぎてからにしてくれ」

「……っこの低温野郎!! いつか後ろから刺してやる!!」


 真っ赤な顔をしたまま、のしのしと足音をたて部屋から出ていくアダリーの姿を見送ってから、メトトレイが(あき)れたようにレミケイドを(さと)した。


「レミケイド? 分かってると思うけど、女の子のハートはデリケートだからもうちょっと発言に注意しなさいね? あんまり傷ついちゃうと毒につけ込まれる可能性も出てくるわ。大事なギルドの仲間なんだから大切にしてあげて」

「毒につけ込まれるのは未熟だからです。自分はこのギルドに損失を与えるような発言をしているつもりはありませんが」

「レミケイド……」

 メトトレイが言葉を続けようとした時、ゼルヤが突然叫んだ。


「ああああああああ! 俺なんかちょっと良いこと思いついちゃったかもしんないっす!!」

「音量を下げてから用件を続けろ」

 わずかに顔をしかめて、レミケイドがゼルヤに先を促した。


「いまウチで捕まえてる更生待ちのやつらにこの菓子食わせてみたらどうっすかね!

 だって見たところ、先輩もボスもこの菓子食べたんすよね?

 そのせいでゴルモードが消えてるんすよね?」


「ごるもーど?」

 聞きなれない言葉にメトトレイが眉を寄せた。


「もー! ここ最近出動しっぱなしで、ひたすらドゥ! ってしてたじゃないですか! ドゥって!

 みんなめっちゃゴルってたじゃないですか! 眉毛は太くなるし眉間にしわが深くなるし、男連中はみんな白ブリーフ派になっちゃうし!!

 アダリー先輩も、声かけようとしたら『俺は本能的に後ろに立つものを排除する』とか低い声出しながら問答無用で張り倒してくるし! レミケイド先輩だって怖いくらいの無表情で女の人を上に乗せながらパンパンしてたじゃないっすか!」

「それは業務時間外だ。話題に出す必要はないだろう」


 メトトレイの前でプライベートを暴露されてもレミケイドの表情は1ミリも崩れない。

 ゼルヤ秘蔵のネタを最高のタイミングで暴露してみたが、レミケイドの不動の表情筋(ポーカーフェイス)を全く動かすことができず、ゼルヤは(ひそ)かにショックを受けていた。

 そう簡単に弱みは握らせてもらえない。

 またしばらくはネタの収集のために先輩たちを尾行する日が続きそうだとゼルヤは決意を新たにした。


「まあとにかく!! そんな仕事の鬼全開のゴルモードが、こんなちっちゃい菓子で無効化するってことは、うちの独房に押し込んでる治療抵抗性の奴らに食わせてみたら、更生進むかもって思ったってことっす! グッドアイデアじゃないっすか?

 正直もう収容人数が多すぎて、これ以上捕まえてきてもマジで場所ないじゃないっすか。

 かと言って全員ドゥ! ってするのもさすがにひどいっすもんね。やってみません? 試しにってことで」


 メトトレイとレミケイドは無言で視線を交錯させ、静かにうなづいたのだった。

「わかった。やってみよう」



・・・・・・・・・



 ところかわってグレイスメイアの町。

 ボルターが大慌てで家に戻ってきた。

「おい!! セリ!! セリ!! 頼む!! 手を貸してくれ!!」


「ん? どうしたのボルター、帰り早すぎない?」

「俺の〇ん子ちゃんが!! ま〇子ちゃんが!!」

「……そのような固有名詞は、現在この作品には使われておりません」

 玄関で息を切らせているボルターへ、セリは冷たい視線と声を送った。


「馬鹿野郎!! ふざけてる場合か!! すげえんだよ!!

 まん〇ちゃんがバカ売れしちまったんだよ!! 大当たりなんだよ!!」

「はあ?」

「よく分かんねえけど、どっかの観光客が土産に買ったのが、とんでもなくデカい取引先にぶちあたったらしくて、すげえ数の受注申し込みが来てんだよ!!

 もう町全体で饅頭作らねえと手が足りねえんだ! 頼む!! お前も今から饅頭つくりに来てくれ!! 小遣い弾むから! な! な!」


 ボルターはそのままセリの腕をつかむと、ずるずると引きずりながら外へと連れだす。

「えええええぇぇぇええ?」

 ものすごく嫌そうな顔をしながらも、セリは頭の中でどれくらいお小遣いがもらえるのだろうと算段をしながら引きずられていった。


 この日を境にグレイスメイアの町では老若男女すべての町民が饅頭つくりのスキルを習得することとなった。


 グレイスメイアの各家庭で様々な饅頭が作られるようになり、郷土料理として定着したのは、これが始まりであったと、後のグレイスメイア郷土史で語られることとなる。



JAKってDMARDsに入れていいのかどうなのか、ちょっとよく分かりません。

この辺はまだまだ勉強不足の領域です。

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