表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

歩く広告塔の威力

 マーシアの絶叫に驚いた両親が部屋に入ってくるほどだった。


「どうした!?」


「マーシアちゃん!?」


「おおおお、お父様、お母様!!これを見てくださいな……!!」


余りにもな狼狽っぷりは、マーシアを10歳ほど老けさせた。

が、マーシアを溺愛している両親には、いつもの可愛い可愛いマーシアでしかなかった。


その様子を、モリーは黙って観察した。


「は?『メイナード=ウォルジーの遺書が発見された!独占スクープ!』!?」


「マーシアちゃん、ウォルジーさんってあのウォルジーさんよねぇ?」


背が小さく、脂肪が多い体型に、マーシアと同じ濃い黄金色の艶々しい金髪の中年男性と、

ほっそりとした、茶色の髪をまとめた、マーシアと同じオリーブの瞳の中年女性だ。

言わずもがな、マーシアの両親である。


「あのウォルジー先生だわ。ジュードさんの先生の……」


「でも、亡くなったのは1年前ですよ!?」


すかさず、モリーが口を挟む。

それはそうだ。

当時も、過去人気があった彼の自殺は、大きな記事になった。

しかも、奇怪な死に方をしていたので、なおさらに。

その前から、息子、嫁、娘と死亡が相次いでおり、彼が殺したのではないかと、報道されていたのだ。


「そうね、この新聞には入手経路は書かれていないわね。ただ独自のルートで入手したとしかないわね」


「捏造ではないですか?書いたもん勝ちという事では?」


「この時期にわざわざ書く理由が思いつかないわ」


「1周忌って事では?」


「いえ、今日は11月8日。メイナード先生が亡くなったのは、2月20日よ」


「えー、なんなんでしょう??」


「でも、こんな記事が出たって事は……!!」


マーシアは眦を吊り上げる。

彼女の嫌な予感は的中した。


===================


「やめて下さい!!」


マーシアが、ジュードの劇場に駆け付けた際には、記者と野次馬が劇場の役者ともめていた。


ジュードは、メイナード=ウォルジーの弟子に当たる。

メイナードが家族を殺したのではと疑いが掛かっていた際も、

自殺した際も弟子であるジュードに記者や心無い野次馬達から、嫌がらせを受けていた。

その時も、マーシアが追い払ったのだ。


今回も、もちろん追い払う気である。


「退いて頂きませんこと?」


腹から力を込めて、高い声を辺り一面に響かせる。


(商人の声の大きさは、舐めてかかってもらっては困るんでしてよ!)


「マーシアさん!」

「げっ!マーシア=ベンソン……!」


歩く広告塔、マーシア=ベンソンは、この町では知らぬ人は居ない。

濃い黄金色の髪を肩越しで切り、小手でふんわりと巻いた町では、珍しい髪型。

長い髪を纏めた髪型が多い中、その姿は嫌でも目立つ。

オリーブ色の猫のような、興味心の強さが出るよく動く瞳。

そして、毎日違う、少々奇抜な服だ。

町の少女達よりも丈が短い。

とても目立つ少女だ。


そして、その分、影響力が非常に強い。


彼女の敵になると、この町の女性のほとんどが敵になるのだ。


町の生活を支えるベンソン商会のから物を買えないとなると、隣町まで行く必要がある。

だが、その隣町でも影響が強い。


そして、マーシア本人の度胸や行動力に憧れ、マーシアのファッションを真似をする女性も居るのだ。

現に、ベンソン商会で働く若い女性は、今までの慣習である長いまとめ髪をやめ、

マーシアのように、肩越しで髪を切って、髪飾りやコテで巻くなどアレンジを楽しんでいる。

モリーもマーシアが髪を切った次の日には同じ髪の長さにして来た。


国の一大事業として、鉄道が引かれ、交通網が発達した。

馬車で何日も掛かっていた道のりが、わずか一日で到着するのだ。

馬車もいずれ廃れていくのだ。

製造業も変わり始めている。


ベンソン商会もその流れを受け始めている。


だからこそ、マーシアは自分で動くのだ。

変わり始める時代にも、対応出来るように。


マーシアは、これからの時代の女なのだ。


マーシアが睨むと、新聞記者はすごすごと劇場を後にした。

けれど、マーシアの眼を盗んでジュードや役者に取材をするだろうと思うとマーシアは、

怒りが収まらない。


怒りの感情そのままに、両手で劇場の扉を閉めた。

大きな音となって、劇場に響き渡った。


「……マーシアさん、扉の扱いは気を付けて」


「っ!ジュードさん!ごめんなさい!」


「いえ、僕を気遣って来てくれたんでしょう?

感謝します」


「そんな、当然ですわ!」


怒りの感情に支配されていたが、今はジュードに会った嬉しさが勝っていた。


「そうだわ、記者や野次馬達にはひどい事をされませんでしたか?」


「僕は、……大丈夫です。

先ほども、役者さん達が僕を隠してくれていましたから。

それよりも、きっと、先生の弟子であった他の作家達が大変でしょうね」


ジュードのほっとしてるが、悲しそうな表情は、マーシアの心を激しく揺さぶった。


「わかりましたわ!!」


「マーシアさん?」


「私が、他の作家さん方も守って見せますわ!」


「……マーシアさん。無理はしないで下さい」


「もちろんですわ!私にお任せ下さい」


張り切るマーシアに、苦笑するジュード。

そんな中、役者達の会話が入ってくる。


「なぁ、俺、まだその新聞自体見てないんだけど、どんな内容なの?」


「あんた!知らないで扉護ってたわけ!?」


先ほど、記者や野次馬を通せんぼしていた男性役者だ。

女性役者に軽く叱られている。


「ファーノン先生が、危険になるって事しか知らね」


「それだったら、コレだよ。読んでみるかい?」


ジュードが、鞄の中から新聞を取り出した。

確かに、あと2刊鞄の中に入っていた。


「ファーノン先生、その新聞買ってたんですか?」


「うん、朝は適当に3社ほど新聞を買うんだ」


その習慣を知っているマーシアはうんうんと頷く。

早朝に、ジュードは一番朝早く開くベンソン商会の店舗で新聞を3刊ほど購入していくのだ。

ネタ集めの一環らしい。


ジュードは、役者に新聞を渡した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ