第60話 遅い昼食とスキー場開設案
俺達下組が3回くらい滑って移動して、また下へと集まったところで。
何かがとんでもない速度で斜面をやってくるのが見えた。
フィオナだ。
スキー場として使用している谷間のど真ん中を猛速度の直滑降で通過。
ホテルの下、スキー場所終点辺りで風魔法を正面からかけて無理やり停止する。
「うん、最高!」
極上の笑顔でそう宣言。
風魔法のせいで雪が舞って顔だの服だのについて俺達は大変に迷惑。
しかし本人は全く気づいていない。
続いてミランダとナディアさんがほぼ同じくらいで滑ってきた。
ミランダは谷間を左右目一杯に使った感じで。
ナディアさんはキュッキュッキュッキュと刻む感じでだ。
「無茶苦茶速度が出るけれど楽しいなこれは」
「そうですね。私もこんなに楽しいとは思いませんでした」
「もう1回ナディアさんに御願いしていいかな」
なんてフィオナが言っている位の状態だ。
しかしそこでミランダが空を見上げる。
「そういえば昼飯の時間、とっくに過ぎたんじゃないか」
太陽の位置がとっくに真南を過ぎている。
この谷間が南向きだからよくわかるのだ。
「今日のところはこれで戻りましょうか。名残惜しいですけれど」
「うーん、もう1回今のコースを滑りたいけれど、確かにお腹は減ったなあ」
「山は逃げませんわ」
全員『まだ遊びたいけれどおなかも空いたしなあ』という感じで意見が一致したので移動魔法でささっとホテル内に移動。
魔法でささっと雪を消して着替える。
「戻って感じたけれど思ったより疲れているな」
「だね。夢中で気づかなかったけれど」
俺もかなり疲れを感じる。
この状態でサラに頑張って貰うのも申し訳ない。
ならばとっておきを使うとしよう。
俺はそう決断した。
自在収納袋内に保存したものは収納中は時間が止まった状態になる。
なおかつ汁たっぷりの料理とかでも収納袋内でこぼれたり他の物を汚したりする事はない。
だから以前、サラが来る前には料理を作れない時に備えて暇な時に料理をストックとして作って袋にしまっていた。
そのストックが実は結構あったりする。
今こそ出すべき時だろう。
在庫処分みたいなものだけれど。
「サラが作ってくれるもの程おいしくはないけれどさ。ストックがあるから出しておくな」
ちょうど以前大量に作ったピザがあった。
直径1掌半程度の各種ピザを12枚ほど取り出す。
多すぎると思わないでくれ。
何故かうちの皆さんは異常によく食べるのだ。
サラやナディアさんすら例外では無い。
そんな訳でピザを並べているとサラとナディアさんもやってきた。
「すみませんアシュノールさん、お昼を用意してもらって」
「これは昔作ったストックだから問題ないさ。在庫処分みたいなものだ」
「腹が減った。早く食べようぜ」
「はいはい」
そんな感じでかなり遅い昼食が始まる。
「それにしても思ったより疲れを感じるよな。滑っている時は感じなかったけれど」
「そうですね。ケアしないと筋肉痛になるかもしれません」
「でもこの後温泉だろ。なら疲れもとれるんじゃないか」
「確かにちょうどいいですね」
うん、この後に温泉が待っていると思うとちょうどいい。
連発した移動魔法のおかげで魔力がかなり減少気味というのもある。
「あと目に治療魔法をかけておいた方がいいですよ。雪目といって雪がある晴れた日に外を歩くと目が痛むんです。放っておいたら見えなくなりますから」
「おっと、そんなものがあるのか」
「特に眩しいとは感じなかったけれどね」
「でもやっておいた方がいいですわね」
「そうですね」
なるほど。
その辺は現地の人の知恵という奴だな。
厳密にはナディアさんがいたのはここからちょい離れた場所らしいけれど。
「顔も結構日焼けしているよね」
「ケアするにこしたことはないですわ」
顔にも一応治療魔法をかけておこう。
ピザを食べながら雑談タイム。
「今は移動魔法があったりマイアちゃんたちがいるからいいけれどさ、実際に坂を上るのはどうすればいいだろう」
これはミランダだ。
やはり商売的にその辺が気になるらしい。
「専用の道を作って馬ソリで運ぶ以外に何かいい方法があるでしょうか」
「馬はあまり寒いと駄目だから犬の方がいいかもな」
「この辺の高地で使われている馬は寒さに強いです。多少体格は小さいですけれど」
なるほど。そういう馬もいるんだな。
よく考えたらここへ来るにも本来は馬ソリだった筈だ。
なら雪山に適応した馬もいるのだろう。そう思った時だ。
もっと面白い方法があるな。俺は思いついた。
「ゴーレムを使うのはどうだ。下から上までゴーレムにソリを引っ張らせて、上まで行ったらゴーレムは専用ルートで降りてくる形にすれば。専用のゴーレムを使えば雪の急斜面でも登れるだろうから、そんなに登る時間もかからないと思うぞ」
ゴーレムは一般的に力が強いかわりに動きがとろい。
だから馬車等も馬形のゴーレムを使わず未だに本物の馬で引っ張っている。
馬形のゴーレムも存在するが農業でトラクター代わりに使う等、力が必要だが速度はそれほどいらない用途専用だ。
でも急坂を一気に上るような場合ならこの特性はむしろ適している気がする。
「それは面白いかも。ゴーレムなら一度起動すれば空気中の魔素だけで動いてくれるしね。でもゴーレムが登る時はお客さんが制御するとして、ゴーレムを下ろす時はどうするの? 自動ではゴーレムは降りてくれないと思うし、かといって全部のゴーレムに係員をつけたら係員がいっぱい必要だよね」
うんうんフィオナ、その通りだ。
でも俺はちょうどいい例を過去に見たことがある。
魔法武闘会の準決勝戦で。
「それには面白い魔法がある。俺は専門じゃないから専門家の協力が必要だけれどさ。多分なんとかなる筈だ」
もちろん作って貰うのはオッタービオさんである。
俺達にはゴーレム制作なんて腕は無いからな。
あの人は既にゴーレムをある程度自動化しているようだし。
普通に頼んで彼が俺に協力してくれるかは自信が無い。
でもプログラム言語の事を教える代わりに作ってくれと頼めばやってくれる可能性が高いと思うのだ。
号外でのコメントを読んでもゴーレム好きであるのは間違いないようだしさ。
有名人らしいから居場所も調べればすぐにわかるだろうし。
「どんな魔法なのかな」
「多数のゴーレムを自動で制御する魔法さ。勿論ここにあわせた構造にするのは必要だけれども、あの人の技術なら多分出来ると思う」
「ひょっとしてオッタービオさんですか」
ナディアさんは気付いたようだ。
「オッタービオさんとはどなたですか」
「ラツィオに工房を構える有名なゴーレム技術者です。魔法武闘会の準決勝でアシュノールさんと闘った相手でもあります」
ナディアさんは居場所も知っている模様。
探す手間が省けたな。
「そう言えば号外で読んだ気もするな。でも大丈夫なんだろうか」
「オッタービオさんは確かにゴーレムの技術は高いですが仕事を選ぶという評判があります。人当たりそのものは悪くないのですが、単なる量産化依頼を受けてくれるかどうかは不明です」
なるほど。
「なら一度私が話を聞きに行った方がいいな。作ってくれるかどうか、実際に出来るかどうかについてをさ。その辺を確認しないで商会へ提案する訳にもいかないしさ」
ミランダが言うことももっともだ。
「どうせこの場所は雪が溶けるまで閉鎖だ。だから急いで話をする必要は無いだろうな。営業再開までに確認できればいい」
「なら上への移動問題はそれまで棚上げだね」
「ああ」
オッタービオさんを探して依頼して、実際に試すまでだ。
「でももしそうやって自動で山に登れるゴーレムがあるなら、夏でもきっと面白いですね。乗ったまま色々な景色を見る事が出来ますから」
サラがそんな事を言う。
確かにそうかもしれない。
「でも夏だとソリは使えないよな」
「そういえばそうですね」
確かにと思った俺の脳裏にふとある物が思い浮かんだ。
「いや、ソリを使わなければいいんだ」
大掛かりなリフトをスティヴァレの技術で作るのは難しいかもしれない。
でも日本には急斜面でもトコトコ登れる比較的簡単な施設があった。
モノレールだ。
大きい電車みたいなものではなく、農園とかで使っているようなもの。
レールがギザギザになっていて急坂でも平気でのぼっていくタイプだ。
あれならゴーレム技術とあわせればこの世界で実用可能だろう。
ただ俺が設計したりするのは無理だ。
資料を集めて作れそうな人に投げるのがきっと正しい。
幸いスティヴァレは金属、特に鉄と銅は豊富だし値段も安い。
魔法を使える分メンテナンス作業も楽だ。
冬に機材が凍り付くのを防ぐには使用中にはレール等に熱魔法を流せばいい。
考えれば考える程出来そうな気がしてきたな。
「アシュ、何か思いついたかな」
「機構的には何とかなる。俺の知識とゴーレムの技術を応用すれば出来ると思う。勿論俺じゃ製作関係の技能が無いからさ。製作にはプロの技術が必要だ。
ただその辺の知識を交換条件としてお願いすれば、オッタービオさんもその気になってくれるかもしれない」
「面白いな。なら近いうちに交渉に行ってくるか」
確かに俺が交渉に行くと俺=チャールズ選手とバレるかもしれないな。
資料を翻訳して渡して、あとはミランダに任せる方が賢明だろう。
「自動で山を登っていくゴーレムですか。それが出来れば夏ももっと魅力的な場所になりますわね、ここは」
テディの台詞に皆さん頷く。
「確かに楽しそうですね。疲れないで山の景色を楽しめるのは」
「でもとりあえず今日は別の楽しみが待っているぞ」
ミランダがそう言ってにやりとする。
「風呂がそろそろいい感じだろう。あっちも入った上で改善策を考えよう」




