第36話 新しい商売ネタ
レシピはスティヴァレ風に直された後、
① 完成した料理のイラストをB5用紙大の7割くらいにカラーで描く。
② その下に必要な材料をまとめて記載する。
③ 同じ大きさの紙2~3枚に、イラストを追加してわかりやすいように心がけつつ、作り方を記載する。
という形で原稿化した。
この辺は全てミランダの指示でサラが作業した。
これをまとめて本にするのだろうか。
でも料理の本は売れないとミランダは匂わしていたよな。
かといって何をする気かミランダに尋ねても、
「まあ見てなよ。そのうち多分、サラが一番に気づくからさ」
なんて感じで答えをはぐらかされてしまう。
ただこの作業でちょっとだけ目新しく美味しい料理が毎日次々に出てくる。
だから皆さんの評判はとっても良い。
「商売にならなくても毎日美味しく食べられるだけでも満足ですわ」
「でも絶対ミランダ、何か企んでいるよね」
「それは私もそう思いますけれど」
「私のメモとかイラストがまずかったでしょうか」
「それは無いと思うよ。まずいならミランダ、はっきり言うしね」
なんて言いながら朝昼晩と実験的ながら美味しいメニューを食べ続ける。
レシピも最初の本だけでなく、追加も含めて50種類くらいは書き起こした。
基本的に最初の翻訳だけは俺で、そこからは全てサラの作業だ。
料理を試作するのも、イラストを描くのも。
その辺を含めて全てミランダの指示だ。
そしてレシピ本を翻訳し始めてから3週間位経ったある日の事。
「買い出しに行ったら、市場にこんなのが出ていました。1部小銅貨5枚で勿体ないとは思ったのですがつい買ってしまいました」
そう言ってサラが見せてくれたのは一見よくある号外紙。
図書館や出版社等がニュースをB4位の紙2つ折りに印刷して、小銅貨5枚から正銅貨1枚くらいで売っているものだ。
まあ新聞みたいなものだと思えばいい。
ただサラが持ってきたのは普通の号外紙とは違う。
表紙の印刷がとっても見覚えのあるイラストなのだ。
4色刷りで刷られたカラーイラストは、間違いなくサラが描いた料理のイラスト。
ならばこの号外紙の内容は……
全員でサラを取り囲んで中を確認する。
間違いない、サラが描いたレシピそのままだ。
「ただいまー」
ちょうどそこに本件の責任者が帰ってきた。
「これが市場で売っていたって、サラが買って帰ってくれたんだけれどさ。これって絶対ミランダの仕業だよね」
フィオナの台詞にミランダはニヤリと笑う。
「そういう事さ。このプロジェクトが開始になったから、ここで説明しておこう」
そう言って自分の席に座り、全員が座ったのを見てから説明を開始する。
「以前からアワコダ社の担当が言っていたんだ。うちは号外紙メインの出版社だけれど、ニュースが無い時は書くべき記事が無くて困っている。そういう時は情勢の解説とかを出しているけれどやはり売れ行きはニュースがある時と比べて良くない。だからニュースの有無に関係なく収入を得られるモノが欲しい。それも出来れば号外形式を活かせる形で。
そこで号外紙形式で連載小説を毎週発行するとか考えてみたんだけれどさ。続き物だと管理や再販が大変だろ。一度読みそびれたら続きを買ってもらえなくなる可能性も高いしさ。だからどうしようかと思っていたんだ。
そんな事を考えながら帰ったら皆がレシピ本を見ていた。そこで思いついたわけさ。そうだ、レシピ集なら号外紙と同じような感じで発行できる。レシピを料理ごとに分ければ連載なんてのも簡単だ。そう思って企画をアワコダ社へ持って行ったら向こうも大歓迎でさ。
あとは向こうの担当と作戦を立てた訳だ。販路を市場メインにするとか値段をどうするかとか何部刷ろうかとかさ。その辺の作業も無事終わり、ついに今日から販売開始となった訳だ。ちなみにこれ、一応スティヴァレ全国展開な。無論本より遥かに安価だから単位あたりの儲けは少ない。でも数で言えば数十倍以上は売れると見込んでいるんだ。
この号外紙は1部あたり小銅貨5枚で販売している。そのうち私達の取り分は小銅貨1枚で月末締め。あとこの儲けの9割はサラの取り分で、残り1割を私とアシュで分ける予定。いくらになるかはわからないけれど、まあ楽しみに待っていてくれ。あと好評なら50種類全部出したところで本にまとめる予定だ。それの取り分も同じだから」
なるほど。
薄利多売で儲けようという考えか。
本というより雑誌とかそっちに近い考え方だな。
スティヴァレに雑誌はまだ無いけれど。
「いいんですか、私の取り分がそんなに多くて」
「だってほとんどサラの仕事だろ」
ミランダの台詞に一同頷く。
「そうそう。僕らは美味しい料理を食べさせて貰えるだけで充分だしさ」
「そうですわ。実際この作業はほぼ全部サラちゃんですもの」
「翻訳作業なんて大した事やっていないしさ、これに関しては」
「という訳さ」
ミランダはウィンク1つして、そして続ける。
「まだ幾らになるかはわからないけれどさ。最初の1号から5号までは全国で1万部ずつ刷っている。全部売れたら小金貨5枚で、しかも後続が50号まである。売れ行きが良ければ増やしていく予定だ。それにニュースと違って以前の号が古くなっていらなくなるって事も無いから希望次第で増刷かかるだろうし」
「楽しみだよね」
フィオナの台詞にテディがうんうんと頷く。
「これでサラちゃんの作業が報われるのは大歓迎ですわ」
「でも、本当にいいのでしょうか。そうでなくてもここで良くして頂いているのに……」
あ、最後はちょい泣き声だ。
「いいのいいの。それより今度は今までみたいな基本に近い料理だけじゃなくて、アシュが昔作ったような独自路線の料理もレシピ化したいよな。あのカイセンドンだっけ、久しぶりにアレを食べてみたい気がする」
「あれはウニが必要なんじゃなかったっけ」
「魚とか貝の部分だけでも結構美味しかったですわ」
ちょい待て。
あれは俺が適当に作ったからレシピなど無いぞ。
「カイセンドンですか。どんな料理でしょうか」
あ、涙目のサラに真面目な顔で尋ねられてしまった。
仕方ない。
ここはまた魔法に頼るとしよう。
俺は財布から小銀貨3枚を取り出して机の上に置く。
「日本語書物召喚! 海鮮丼レシピの記載があるわかりやすい料理の本。起動!」
本日はこの後におまけのお話があります。
ミランダさんによるスティヴァレ国内での出版についての説明です。
物語の背景説明なので、特に興味が無ければ読み飛ばしても問題はありません。




