第6話
「よし、京介! 何から聞きたい?一応言うと俺の年収は7ー」
「いやそれは興味無いから」
家族4人が集合し、ようやく父さんから今まで気になってたことを聞ける時間を設けられた。今はダイニングテーブルで俺と、父さんと青木さんが向かい合う形で座っている。母さんはと言うと、先程から鼻歌を歌い夕食の準備に取り掛かっている。
「聞きたいことって言われても、何から聞けば」
「島崎は大まかにしか話してないだろうし、ここ20年のことでもいいぞ? それとも、やっぱり魔術について知りたいか? 仕方ないよな、お前も男の子だもんなぁ」
「何も言ってねぇよ……気にはなるけど」
でも今聞くべきことはそれではないと思う。
じゃあ、今俺が聞くべきことは…
「じゃあ聞くけど、父さんがはなんで魔道省の最高責任者になったの? 島崎さんから聞いたけど、魔術の研究を使ってなったんでしょ?」
「え? そ、そんなこと気にしてたのか? おいおいおい! もっとあっただろ、知りたいことなら他にも」
「これ以上父さんの七不思議を増やしたくないから、早く答えて」
理由は何となく分かってはいた。
でもこれは父さん本人から聞いておきたかった。
「そうだなぁ…理由って言うと、そりゃ俺の悲願達成のためだな」
「ひ、悲願?」
「家出したお前をこの家に帰らせるっいう悲願。これを叶えることが、20年間の俺の目的だよ」
「家出って、誘拐にあってたんだけど……、でも良かった」
やっぱりそうだった。
もちろん凄く嬉しい…!が同時に疑問も残る。
「内容は分かったけど、帰らせるってどうするつもりだったの?俺は20年先に行っちゃてるし、まさかそうなってるなんて考えつかないだろうし」
「そりゃ、お前が未来に居るんだと確信したのは失踪してから2、3年くらい経ってからだな。それまでは、邪魔が入るまずっと探してたよ、地道にな」
「邪魔? 何、父さんも攫われそうになったの?」
「それだったらすぐに目的達成だったんだがなぁ。島崎から聞いたろ? 魔獣について」
「うん、色々…」
島崎さんとの話を思い出す。具体的には殆ど何も聞いてないけど、それを話す島崎さんの姿を見れば相当悲惨な事件だったことは誰の目から見ても確かだった。
「その感じだと被害の程度まで聞いたか、なら邪魔の意味が分かるだろ? 俺も死ぬ訳にはいかなかったからな、逃げるのと家族を守るので精一杯だったんだ、すまん」
「謝らないでよ、父さんも被害者なんだから」
「とにかく、それから半年以上足止め食らってな…ただそれのおかげでお前がどこに行ったかのヒントが手に入ったからなんとも複雑だな」
「ヒント? そんなのどうやって…」
「魔術だよ、魔術。それについては聞いてなかったか?」
「いや、聞いたけど。それの何処がヒントに」
「魔術があるなら時間くらい跳べそうだなって思ってな」
「考えの短絡さが小学生なんだけど」
「で、可能なら未来のやつが来てもおかしくないだろ? ならお前攫ったやつは未来から来たんじゃないか、という考えに至ってだな」
「無理が過ぎる…何を根拠に、って何も無いんだろうなぁ」
本当に頭を抱える。よくもそんなものに20年を賭けたな!!
でも実際はその通りな訳で、この人は本当に分からない。
普通そんな考えを信じて、約20年間も走り続けられるか?
自分の父親ながらその単細胞生物に唖然とする。
「それで本当なら俺から向かいに行くつもりだったんだが、先にお前のいる時代になっちまって、今に至った訳だな」
色々腑に落ちはした。父さんは父さんだということが変わったし、納得する内容?ではあった。
「で、次は何を聞く? 魔術か?魔術だろ!」
「いやいいよそれは。なんか難そうだし」
「なんだよ~! まぁ、今はする必要ないか」
「それよりも聞きたいんだけど」
「ん?なんだなんだ」
「俺はこれからどうすればいいの?」
数秒の沈黙が入る。
「ん?どうするって?」
「だから、 高校入学できなかった俺はこれから何もしていけばいいのってこと! 中卒就職とか絶対嫌なんだけど!」
「あぁ、なるほどその事か!心配するな! 既に手を打っている!そこら辺の説明は、未来頼む」
「は~い、やっと出番が来た」
今まで空気だった青木さんは、待ってました!と言わんばかりに張り切っている。
それにしても既に手を打っている?状況が状況だし、高校が1つしかないとか? それだとしても情報なしで行くのは怖いんだけど…
「お兄ちゃんに行って欲しい学校があるんだよね! というか既にほとんど手続きは終わってるんだけど」
「勝手に決めないで欲しい…」
ただ高校に行けるようで良かった。
でも入学からある程度経ってるし馴染めるかな?
というか勝手に思い込んでたけど今の日付は昔と同じなのか?
もし数ヶ月遅れてたらやばくね!? 勉強追いつける気がしないんだが!!
これからの高校生活について考えを巡らしている俺に、青木さんが伝えた進路先は予想外のものだった。
「魔術の学校に行って欲しいんだよね!」
「絶対いや」
「即答!? なんで!!」
盛大にズッコケる青木さん。
嫌に決まってるだろ!
まぁ、魔術には興味が無いわけじゃないけど…魔術を学ぶ学校ってことは、昔で言う防衛大学的なことだろ?
卒業したらあの魔術師っていう人達になるってことだろ?
あんな危険な仕事したくないに決まってる。
「とにかく嫌だよ、俺は普通の高校に行く!」
「お前、それでも漢か! ロマンを追わない男は漢じゃないぞ!」
「俺は漢になる前に社会人になるよ」
この人は本当に早く大人になって欲しい。
「仕方ない…お兄ちゃん」
「なんだよ」
雰囲気が変わり、青木さんは悲しそうな声音で語り始める。
「これは酷な事だから言いたくはなかったんだけど…、多分今のお兄ちゃんだと高校の勉強はついていけないと思う」
おっとー、これは宣戦布告か? なんだ喧嘩は買いますけど?
拳を握り今にも鉄拳制裁をしそうな俺を見て、青木さんは慌てて訂正する。
「いや、違くて! お兄ちゃんの頭が悪いとかじゃなくて、高校のレベルが昔とは違いすぎるんだよ」
「レベルが違う?」
確かに高校の勉強内容が中学に少しづつ降りてきているのは知ってたけど、言っても数ヶ月分くらいだろ? それくらいなら覚悟はー
「多分、お兄ちゃんが高校でするはずだった内容のほとんどは中学で終わってるとこが多いんだよね…、というか既に高校というものがなくなってるといいますか…」
「へぇ…………まじで?」
「まじまじ」
予想外が過ぎないか? 文部科学省はとち狂ったのか?
高校の内容の全部が中学でやるって…つまり中学の内容も小学生でやるってことだろ?
義務教育で全員死ぬぞ!? 小学生死ぬぞ!!?!
まさか高校そのものがなくなっているとは予想外だった…え、どうしよう。これが人生詰んだなってやつなのか?
「ということでお兄ちゃんに残された選択肢はもう魔術の学校に行くしかないんだよね」
なんてことだ…
既に決められてるのではなく、もうそれしかないなんて…仕方ない事とは言え、凄く情けないんですけど…
俺は魔術師になるしかないのか?
あんな戦場に出る仕事をするしかないのか?
凄く悩んだ。多分、高校受験の時より悩んだ。この人生でこれ以上脳のシナプスを使う場面は来ないと思うほど悩んだ。
その結果俺の出した答えは、
「…………で、どうすれば入学できるの?」
「っ!!! えとね!手続きは終わってるから、あとは編入試験を突破するだけだよ!」
俺の解答が気に入ったようで、青木さんは目をキラキラさせて試験の内容を語る。
「編入試験か…」
「うん! 大きく分けると筆記と実技の2つをクリアすれば晴れて入学できるの! 評価はそれぞれ5段階評価で決められるから、酷くてもC以上を出してればなんとかなるよ!」
「実技? 絶対無理じゃん」
魔術を今日知って、未だに仕組みすら知らない俺が実技試験を突破する? おいおい、できたとしたらもうそれ学校に行く必要ないんじゃないだろうか。
「そこら辺は私とお父さんがいるから大丈夫! この人、こう見えて日本で五本の指に入るくらいの魔術師だから!」
「いやぁ、照れるなぁ!」
この人が…この人が日本トップ入りしているだと…!!
以外に魔術界何とかなるんじゃないか…?
なんかやる出てきたわ! ここで一発優秀な成績出して神童なんて呼ばれたりしてな!わははははははは!!
まぁ、この考えは甘いとかそんなレベルではなかった訳なんだがな。 まじでこの1ヶ月はやばかった。よく考えたらそりゃそうだ。普通1年かけて勉強するところを1ヶ月でやるんだ。しかも内容は普通の勉強に加えて、魔術のことまでやるんだからそのキツさは想像を絶する。
まず、普通の勉強でもヤバイ。二次関数ってなんなんだあれ! なんか範囲が動きやがるし…aを使うんじゃねぇ! さらに三次関数とか四次関数とか増えやがる…それだけじゃない!国語も変なエッセイがあるし、世界の地理全部覚えられるか! 英語は呪文すぎて見たくもない…
しかし、さらにキツイのが魔術だった。やった後だから言えるが内容自体はそこまで難しくない…ただ如何せん今までオカルトだと思ってた内容なので馴染みが無さすぎで頭に全く入ってこない!
どうやれば使えるのかはわかっても、なんでそうなるかの原理が訳分からん。未だに謎は多い分野だから仕方ないとは言われたけど、最初期の内容ですらムズいんですけど…
さらにやばいのが実技。最初、
「普通の魔術は呪文的なもの要らないよ~」
って青木さんが言った時は、
「暗記しなくていいんだ!」
と喜んだけど、逆だ、まじで呪文欲しい。
呪文がない分、自分で想像してやらないといけないからすげぇ難しい! しかもこれに関しては感覚でしかないから説明をするのが難しくまじで何回も失敗した。起動ミスは当たり前、酷い時は爆発、誤発して何回か庭が無くなった。
こんな感じだから当然、勉強練習の時間は増やさないとやってられない。
まず、朝起きて外で魔術を撃ちまくって、
飯を食べながら暗記をする。
午前中は普通の科目の勉強、
午後からは魔術の勉強。
夕方には未来と父さんが帰ってくるからそこからまた魔術を撃ちまくる。
これを1ヶ月続ける。
誇るべきは今、五体満足で息をしていることだろう。
そして5月3日、試験日当日。
何となく察してるとは思うが、勉強に関しては全く間に合ってない。後半はもう魔術に関してがメインで殆どしていなかった。
なので島崎さんの手を借りることにした。
めちゃくちゃ嫌な顔されたけど…事情を話し、青木さんの泣き落としで何とか承諾を得た。しかし、島崎さんからは、
「協力はしますけど、ズルは許さないので」と言われた。
結果、本来は記憶操作してもらう予定が別の方法でしてもらうことになった。
どうやってるのかはさっぱりだけど、方法としては見たものの処理を記憶に補完されるまで何度も繰り返させるというものらしい。つまりは覚える努力を極短時間に縮小する感じ。
だから、めっちゃ疲れる…
参考書数ページ見るだけで頭痛がし、
速読なんてした時には気を失うかと思った。
とまぁ、そんなこんなで何とか試験日までに仕上げることには成功した。………あれ?これ使えるなら普通の大学で良かったんじゃ
とにかく勉強はもちろんバッチリ!
魔術に関してはある程度得意だったのか1度要領を得ると詰まることなくいくことができた。
あとは試験本番で実力を出すだけ!
以外にも何とかなった事で根拠ない自信が湧いてきた俺は、意気揚々と校門をくぐり抜ける。
城ヶ崎魔導教育高等専門学校。
通称、学院。魔道省が直接経営している魔術を専門的に学べる千葉地区唯一の学校。
全日制で寮なども完備されており、創立15年という超若手の学校。校舎や設備はとても綺麗で、最新鋭という感じがヒシヒシと伝わってくる。学院など直接見たことなどなかったので、都会に来た田舎人のようにキョロキョロしていると周りから視線を感じた。
「あれって誰? ここの子じゃないよね?」
「編入生じゃない?先生が言ってたよ」
「え、この時期に? 入学式は1ヶ月前にあったよね?」
「さぁ?」
ワイワイガヤガヤ………
周りには多くの学生さんがいた。そりゃ学校なんだら当たり前だ。皆、同じローブのような制服を来ている。それは少し前に見た魔道省の人たちが来ているものに酷似していた。緑や赤など、アクセントの色が違うので学年で色が少し変わるようだ。
さらにみな同様に俺を見ていた。
そりゃそうか…。俺だけ私服で、しかもさっきからキョロキョロとしてたし…居た堪れない、早く行こ。
周囲からの刺さる視線から逃げるように、事前に連絡されていたB棟に早足で向かう。
まじで迷った……。
広すぎるだろ、馬鹿なんじゃないか?
予想の数倍の敷地面積に10分遅れでB棟に到着する。
そこの入口には既に試験官らしき人が立っていた。
「編入試験そうそう遅刻とは、自信たっぷりで素晴らしいですね」
「す、すみません…広くて迷ってしまって」
「まぁ、確かにここは広いですからね。しかし、その点も事前に予測して行動を来て欲しいものですね、青葉京介さん?」
「はい、申し訳ないです…」
ご立腹で待っていたのは長髪の女性だった。
制服を着ているので、ここの生徒だろう。
しかも、この高圧的な態度から見るに自分よりも年上の高学年。
つり目でちょっと、いや結構怖い…
その長髪には所々、赤色のメッシュが入っている。見た目に依らず、結構遊ぶタイプなのだろうか。そんな事を考えていると、冷たい視線が京介を刺す。
「なんですか?何か不満でも? 」
「いえ、何でもないです」
この人やっぱり怖い…
踵を返し校舎内へ進む試験官様に、おずおずと着いていく。
校舎内に入ると、まずは持ち物検査をされた。
もちろん変なものは持ってきてはいないので問題はなかったが、
怖かったのは次の付与魔術のチェックだった。 先述の通り、俺はほぼクロなドーピングをしている。
未来いわく、
「島崎さんの魔術を感知できるような検査はないから大丈夫!」
との事だったが…この試験官相手ではそう高を括っていられなかった。何とかなって本当に良かった…
そのあと、時間が押しているということで試験はすぐに開始した。
最初は筆記試験。普通科目は正直余裕だった。寧ろ、カンニングを疑われないように点を調節するぐらいには簡単に感じた。
流石は島崎さんの魔術、効果はバッチリだ!
さらに魔術の方も以外にも解くことが出来た。もっと複雑なものを対策していたが、基礎のものが多くこちらもバッチリ。
試験官様は俺には全く期待していなかったのだろう、
解答用紙を見て「へぇ、意外と……」と声を漏らしていた。そして最後の実技もつつがなく終わり、結果の用紙をもらい帰宅した。
家にはリビングで戦々恐々に待つ未来と父さん、そして1人煎餅を食べる母さんがいる。そんな彼らに向けて、俺は結果を伝える。
「落ちました」
「「やっぱりかぁ……」」
予定調和という空気がリビングに流れる。
「筆記はほぼ完璧なんだけど、実技がやばかった」
そういいテーブルに置かれた用紙には、
青葉 京介
筆記 一般知識・計算 B
魔術理解 A
実技 魔術操作 E
術式構築 D
持久力 D
魔力許容量・変換効率 A
*評価はA~Eの5段階
「おぉ、こりゃ酷いな」
「土台はほぼ完璧なんだけどねぇ…実技の方が本当に…」
「ははは…はぁ、笑えないな」
綺麗に実技の、それの技術的な部分だけがボロボロ…
実際の試験でも火の初等魔術の術式すらまともに構築できず、
5回のチャンスの内、4回爆散。
残り1回もあらぬ方向に飛ばして失格。
技術はないくせに、魔力だけは無駄に優秀なために自爆しかけるし、地面はえぐれて修復の度に試験官に愚痴をいわれる始末。
これではどう転んでも合格の無理だった。
「家でも1度も綺麗に成功してなかったしねぇ、お煎餅食べる?」
煎餅頬張りながら母さんは心にぶっ刺さることを平然という。完全に終わった。これでは何回しても同じ結果だろう。唯一の進路先が頓挫し、頭を抱えていると1件の電話がかかる。