表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の箱庭  作者: 暁 栄二
プロローグ
5/13

第5話

島崎さんに色々と振り回された後、

俺はこれからどうすれば良いのか、

この20年間に何があったのかの説明を受けた。

なんでも、島崎さんの上官は俺の父さんなのだそうだ。しかも魔道省の最高責任者でもあるらしい。

最初聞いた時はここが未来だ、と言われた時以上に冗談かと思った。

なんせ、脳天気で計画性もなく、どうやって義務教育を突破したのか最大の謎なあの人が組織の上層部にいるとは、また1つ謎が増えてしまったが島崎さん曰く、結構真面目にしてると言うから驚きだ。

俺が入学式の日、突如として誘拐にあった後、父さんは必死に俺の事を探してくれた。しかし、当然見つからなかった。

俺は未来に連れていかれたのだから見つかる訳もないだろう。

もちろん警察も捜索を早々に諦め、打つ手も無くなり途方に暮れていた時、ある事件が起きた。

魔獣という化け物が現れた。最初は長野の山中で発生し、数ヶ月後には長野県そのものが化け物のテリトリーになってしまったらしい。 その後も戦いは続き、最終的に守りきれたのは土地にすると元々の2割程度。人的被害も当然あったが、俺は怖くて聞けなかった…

そんな一方的だった戦いに終止符を打ったのが()()だそうだ。

それは1人の研究員が土壇場で発表し、即座に全国へ伝えられそのおかげで戦いは終わったのだとか。

その時に父さんはすぐに魔術について調べ、自分で魔術について色々試した。その成果から魔道省のトップまで上り詰めた。

これがこの世界がこの時代に至った経緯だった。

正直まだまだ分からないことだらけだった。

結局父さんがそこまで頑張った理由は謎だし、

魔術が何なのかもさっぱり。

そもそも8割りの領土を失ってどうやって日本は今活動をしているのか。

っていうか俺を攫ったヤツらは誰なんだよ!

挙げていけばキリがない…

しかし、島崎さんから聞けたのはここまでだった。 詳しくは父さんから聞いてくれと言われた。 それにまた会うことになるだろうとも言われたんだが…俺、軍人になるつもりなんてサラサラないんだけど。

その後、時間も遅いということで一夜止まらせてもらい、今は青木さんと共に現在の青木家に向かっているところだった。魔道省と言うくらいだから、都心に近いところにあるのだと思っていたが外に出て最初に目にしたのは鬱蒼とした森だった。

「青木さん、なんでこんな山の中にあるんですか? もっと都市部に近い方が色々便利だと思うんですけど…」

結構な山道をくだりながら、愚痴るように疑問を問いかける。

「えぇと、色々理由はあるんだけど、特に大きいのはテロ対策かな?」

「はぁ? て、テロって…ここ日本ですよね?」

平和大国日本では、聞くことすら無い単語に俺は動揺する。

まさか芸能人の結婚で騒いでいた日本でテロなんてものが起こっているとは…

そんな日本の情勢に戦慄している俺とは対照的に、青木さんは何でもない様に返してくる。

「昔の日本じゃ、ありえないような状況だよね~」

「いや、笑い事じゃない気がするんですけど…」

「それが本当に笑っちゃうくらいに起きてたんだよ? 最近は落ち着いてきたけどね~、お兄ちゃんを襲ってきたあいつらも世間の波に飲まれた人達の一部だしね」

「そうなんですね…」

「なんせ魔術が基本的に誰にでも使えるものだからね、好奇心旺盛な若者たちが問題を起こしちゃうは仕方ないよ」

俺の時代でも、若者が起こした馬鹿な行動がニュースになっていたのを思い出し呆れ交じりに苦笑する。

結局、いつの時代も人間は変わらないみたいだ。

「まぁ、それらの問題も私達がいれば心配には及ばないよ!」

「俺攫われてきちゃってるですけど?」

「それは…結果オーライってことで!」

「全然オーライじゃないですよ…」

本当にこの人達で大丈夫なんだろうか? 俺以外にも攫われてたみたいだし、結構ボロボロの組織なんじゃ…全く冗談にもならない。

これからの生活が一気に暗くなるのを感じていると、森を抜けた先の都市的な風景が見えてきた。当たり前だが見覚えなどはなかった。 建物の見た目自体は昔とほとんど変わらない。しかし、京都のような風景保護の条例でもあるのか電柱などはなかった。商店街や学校のような身近なものもあり雰囲気はとても良かった。

真ん中に見えるものを除いて。

周りが謙虚にしている中でデカデカと建つそれは否が応でも目を引く。高さは100メートルはあるだろうか。色合いや建築模様は西洋の教会を思わせる。しかし、そのシルエットは教会とは似ても似つかない高層ビルのようなものだった。

「やっぱり気になるよね、あれ。一つだけ場違い感が凄いし」

「なんなんですか? あれ」

さすがの青木さんもあれの持つ違和感は感じているみたいだ。

「セントラルタワーだとか大聖堂とか色々呼び方はあるんだけど、正式には千葉地区中央管理センターって名前」

「へぇ、管理センターなんですね……え、千葉地区? この千葉なんですか?」

「そうだよ? ただ千葉地区とは言ってるけど範囲は南部がほとんどだけどね…」

青木家があったのは某遊園地の近く、つまり結構北の方にあった。

そして現在、()()管理センターが南部にあるってことは…そういうことなんだろう。

島崎さんの話から家族の無事は知っていた。それだけでも十分奇跡的なのだろう。しかし、数日前にいた家がもうないというのは、思ったよりも心に深く来るものがある。

暗くなるのも嫌だったので話を続ける。

「あそこでは何してるんですか?」

「教会みたいな使い方と、あとは他の地区との物資の移動だね」

「物資の移動? ヘリでも飛ばすんですか?」

「はっはっはっ! 魔術があるからね、物資だけなら転移魔術の方が早いよ!それにねぇ」

そりゃそうか…魔術があるんだもんな。それならヘリなんて飛ばしたら費用がー

「ヘリなんて飛ばしらすぐ落とされるからね!」

「……………あ、そうっすか」

俺、規則破ってでも過去に戻ろう

父さんに教えてもらって魔術で帰ろう

「建築センスはあれだけど、結構大事なやつなんだよね~って聞いてる?」

「青木さん、時空間を移動できる魔術って使えます…?」

「え、時間? 無理無理! 私にはあんな複雑怪奇なやつ原理の断片すら分からないから!てかそもそも起動段階すらいけた人いないし」

「え、そうなんですか?」

じゃあ、俺を攫ったやつはどうやって俺のいた時代に…

青木さんに質問しようとする、がそれは別の声に遮られる。

「みらい~、きょうすけ~」

「あ、お母さん!もう来てたんだね!」

砂利道を抜けた先の道路に停車する白い軽自動車からの声だった。

20年分、歳をとって多少シワが見えなくもないが、年齢が変わってないと言われても信じられるくらい若々しい女性だった。

声や雰囲気から幼さが感じられる、間違いなく俺の母の青木志遠(あおきしおん)だった。

「あら、きょうすけ?全く変わってないじゃない? しかも高校の制服なんて着て…コスプレ?」

「いや、本当の高校生だから…」

「お母さん! 言ったでしょ? お兄ちゃんは入学式のあの日からこの時代まで攫われたんだって」

やっぱりこの人はどこか抜けてる。20年間息子がいなかったんだから少しは動揺するものじゃないの?

「あぁ、なるほどねぇ。なら京介」

母さんは俺に助手席に来るように手を招く。

「母さん、何?」

扉を閉め、母さんに向き直ると正面から抱きしめられた。

「おかえり」

「………うん、ただいま…母さん」

昔と同じように声からは感情が読み取れない。表向きにはわかりにくい人だったから。

でも、少し震える体に強く抱きしめる腕から十分に俺は母さんを感じられた。

心配してくれたんだ…俺のこと

10秒ほどで母さんは俺を手放した。

「じゃあ、帰るわよ~」

「うん」

いつの間にか後部座席に青木さんも座っており顔は見てないが、

絶対ニヤニヤしていることだけはわかった。



ある程度で山道は終わり、市街地に入った。 山から見えた通り昔と大きく違う訳では無い。しかし、所々気になるものはあった。

街中にある電灯には配線がないのに光っているし、

水やりしてるおばぁさんの持つジョウロは先端の光る何かから水が出ていた。それに母さんの運転している車の速度メーターも空中に浮かび上がるように映し出されている。

これは科学技術の発展? やっぱり魔術的な何かなのだろうか?

そこら辺も父さんが説明してくれるんだろう。

周りの景色に注意を払っていると、車が停車する。

「私は停めてくるからあんた達は先に降りてなさい」

そう言われ車を出ると、そこにあったのは青木家だった。

表札がそうだったとかではなく、昔のままの青木家がそこには建っている。

「え、なんで…俺らの家は千葉の浦安に」

「お父さんがね、お兄ちゃんがいつ帰ってきてもいいようにって同じ家を建てたんだよ。 中の部屋割りまで全く同じ」

「父さんが?」

本当にあの父さんに何があったのか…ここまで洒落たことをする人ではなかったはずなんだけど。

俺は唖然としつつ青木さんの後に続く。

しかし、扉には鍵穴はなかった。困惑する俺に対して青木さんは流れるように扉に触れる。数コンマ後、扉にディスプレーが映る。

そして、顔認証を行い扉が開く。

「何それ!? え、なんでそんなハイテクになってるの!?」

「ん~、理由はあるけど…この機能自体はほとんどの家が持ってるからなぁ」

標準装備だと……! この20年で日本はボコボコにされたんじゃないのか? 技術革命なんて起こる余裕あったのか?

混乱した頭にさらに混乱する情報が続く。

あぁもう、考えるのはやめて、全部父さんから聞くことにしよう…

思考は一旦止めて、家へと入る。

青木さんが言うように中は本当に全く変わらなかった。

正面に階段があり、右にはリビングへの扉がある。

その逆側には俺の居た和室もちゃんとあった。

俺の部屋の中がどうなってるか気にはなったが、今はそれ以上に気になることがあるので大人しくリビングへ向かう。

「ただいま、お父さん……お父さん?あれ、今日は仕事はやめて帰って来るって」

リビングには誰もいなかった。青木さんの反応を見るに予定通りではないらしい。計画が崩れているのだろうが、俺は少し安堵する。

そうだよな!父さんがそう簡単に変わる訳がない…!

これは信頼なのか失望なのか…よく分からない評価を父さんへと送る。

「もぉ~予定は守るから意味があるのに! 」

怒りを表し嘆く青木さんとは裏腹に、車を駐車し帰ってきた母さんは落ち着いた様子で電話をかけている。

「あんた達、そこどいときなさい」

母さんは電話を切り開口一番よく分からないことを言った。

俺が頭に?を浮かべていると、青木さんは俺の手を引いて部屋の奥へと移動する。

「なになに? 何が始まるの? 父さんは探さなくていいの?」

「いいのいいの、予定通りにはなりそうだから」

「予定通り? だって父さんはいないんじゃ」

すると突然、風が吹く。風と呼ぶよりは空間そのものに押し出されるような感覚だった。その中心点は先程2人で立っていた場所。

そこの地面にまたも魔法陣が展開する。しかも今まで見たどれよりも大きく、そして複雑に図形同士が絡み合っている。

さらに強く押されるとそこから人が飛び出してきた。

飛び出してすぐ、魔法陣は縮小し消え、押されるような感覚もなくなる。

「ふぅー!!危ねぇ!!! 座標調整下にしすぎたわ!!!」

飛び出してきた男性は登場シートの雰囲気とは打って変わって、快活に笑っている。 その服装は島崎さんと同じローブを纏っている。黒が基調のその服装も相まってこの人の雰囲気はさらに異様なものになっている。ただ違和感だけはなかった。

「お父さん? 掃除と片付けは自分やってね?」

「おいおいおい!そりゃないぜ、志遠! 家事は家族全員で分担し協力する!それが家族円満の秘訣だぞ?」

「自分の後始末は自分でする、それが家族円満の秘訣?ってこの前言ってなかったっけ?」

「その通り! ならばこれは俺の仕事だな!! ハーハッハッハ!!!」

会話が成立してるようなしてないような…そんな掛け合いを見るとここが昔とは何も変わらないのだと安心する。

「お父さん! 時間はちゃんと守ってよ!私はちゃんと守ったのに!」

「何を言うんだ! しっかり帰ってきただろう?」

「転移魔術を使って帰宅なんてありえないから! 死にたいの!?」

「ハッハッハっ!!! 問題ない!!既にもう何度も失敗して、これ以上失敗する余地はないからな!」

「なんなのその理論!?」

もう分かると思うがこれが青木家の大黒柱の青木秋永(あおきあきなが)。俺の父親だ。

「おぉ!!京介!久しぶりだなぁー!! これでやっと俺の悲願は達成されたというわけだな!!」

「悲願? どういうこと?」

「なぁに!そこら辺も含めて今から話してやるよ!とにかくこれで!! 家族全員集合だな!!!」

呆れている青木さんも、母さんもそれだけには納得のようだ。

俺だけ置いていかれてるのだが、先程の2人の反応を思い出しここは黙って3回目の抱擁されることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ