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神様の箱庭  作者: 暁 栄二
プロローグ
3/13

第3話 「帰宅」

島崎からの尋問が終わり、拘束から開放された京介はこの時代における実家への帰路に着いていた。もちろん京介には場所など検討もつかないため、未来に案内してもらっている。兄妹水入らずの時間、雑談に花を咲かせ、和やかな雰囲気に包れる帰り道。

「「……………………………」」

しかし、現実は違った。身内の不幸でも聞かされた直後のような静寂が流れ、この上なく気まずい空気で満たされている。

(まずい、気まずいが過ぎる……突然この人が妹です、なんて言われてもすぐに馴染めるわけないだろ!こっちの未来に関する記憶、全部幼子の頃しかないんだぞ?)

(どうしようどうしよう、突然兄さんと再会することになるなんて……。何か話しないとなんだけど、兄さんとの記憶全くなくて話題がないよぉ…)

20年という時間のギャップに苦しめられ、お互いに話の切っ掛けすら見つけられずにいた。そんな中、なんとはなしに京介がポッケに手を突っ込むとそこには2枚の名刺が入っている。

(あ、そういえば結局聞けてなかったな)

「あ、あのっ」

「は、はいって!な、何かな!」

「今更にはなるんですけど……未来さん達が所属している魔導省っていうのは、何なんですか?」

京介は名刺を見せながら、氏名の上に書かれた所属を指差す。それを見て、未来も説明していなかったことを思い出したのか、「あっ」と声を漏らす。

「ごめんね!説明がまだ出来てなかったね」

「は、はい。島崎さんが魔術とか言ってて…」

「ははっ、兄さん視点だと冗談を言ってるようにしか見えないよね」

京介に寄り添う様に微笑む未来の姿は、歳下の子に語りかける大人そのもの。血縁上兄に当たる京介も、これには複雑な気持ちを抱いてしまう。

「まず前提として、この世界には魔力っていうものが存在してるの」

「魔力…ですか」

「そう。周囲にある空気の中や、私達の身体の中にも魔力はあるんだよ? この魔力を利用して色んな事ができるのが、魔術って感じかな」

「な、なるほど…」

「その魔術を扱う魔術師達が所属している組織が魔導省だね。やってる事は、治安維持や防衛、魔術の研究とかが中心かな」

「……ありがとう、ございます」

「あぁ、ごめん。また混乱させちゃったよね」

「いえ、整理はできたので助かりました。ただ、如何せん実感が湧いてなくて……」

「言葉だけだとね…。まぁ私も、年下の兄と突然再会で、全然受け止めきてれないんだけどね」

未来の言葉に同意だと、京介も苦笑して返す。多少気まずさを払拭できた2人が進んでいくと、木一色だった景色が少しづつ晴れていく。どうやら山道はそろそろ終わるようだ。

「住宅街に出たし、もう少しで家に着くよ」

「やっと森が終わった…」

森を抜けると、景色は一気に文明的な様相に変わる。住宅が所狭しと建て並ぶそれに安心感さえ感じる。

「20年後の日本の街へようこそ!どう?昔とは印象は違う?」

「知らない街なのでなんとも言えないですけど……、思ってたより昔と雰囲気は変わらないんですね」

「そうなんだ?でもまぁ、色々あったし変化が少ないのも仕方ないのかも…」

街の中に入っても、昔と景色は大きく変わることはなかった。よく見る住宅街の景色…しかし所々で京介に違和感を感じる。キョロキョロと周囲を見回し、間違い探しをする京介に1件の家が映り込む。知らない街の中で唯一京介の知るもの、それ故に何よりもそれは違和感を放っていた。

「………私の家だ」

「え?なんで分かったの?」

「だってこの家……」

そこにあったのは、()()()()()()()()実家だった。建物の外観は勿論、入口の門や庭まで全く同じ。知らない異世界の中、元の世界のものは明らかに浮いて見えた。

「引っ越したのに全く同じ家を建てた、のか?」

しかし、引っ越すにしても庭などまで再現するだろうか。家にそこまでの思い入れがある人がいたとも思えない。理由は全く不明、だが知らないことばかりで混乱するしかなかった京介には、慣れ親しんだこの家が何より嬉しく暖かかった。

「とにかく家に入ろ?それから色々確認したらいいよ」

未来と共に変わらぬ玄関をくぐる。外観だけでなく内装まで昔と同じだった。勿論細かい点を見れば違うところは見つかるが、建物の構造に関しては昔と瓜二つである。

「ただいま~!帰ったよぉ!」

「は~い、おかえり~」

奥から響いてくるのは、どこか抜けた緩い返事。

今まで何度も聴いた角の取れた優しい声音に、自然とリビングにへと足を進め扉を開く。

「今日は早かったのねぇ。帰りに買ってきて欲しいものがあったのに、ざんねん」

そこに居たのは、机で頬漬けをつきながら煎餅を食べる女性が一人いた。20年経っているのに、昔と然程変化を感じさせない姿に、美魔女ぶりは以前健在なようだ。

「あら? 隣のその子……京介、じゃない?」

「た、ただいま、母さん」

「あらあらあら~」

20年ぶりの実家への帰宅。だと言うのに、母である青木志遠(あおきしおん)はおっとりとした雰囲気は崩さず抑揚のない声のまま、言葉だけで驚いている。

そんな母に京介も苦笑していると、志遠は席から立ち上がり京介の前まで近づいてくる。

「ん? 母さん、どうかした?」

「ほら、少し小さくなりなさい」

「小さくって……これでいいの?」

志遠の目線に合わせるように、京介が屈む。

それと同時に志遠は、京介の身体を精一杯抱擁する。

実の母から突然の抱擁に、困惑半分恥ずかしさ半分で顔を赤くして振りほどこうとする。

「ちょっと!? 母さん!?」

「暴れないでよ~、久しぶりの息子を堪能してるんだから」

「うっ…だとしてもこれは恥ずかしいんだけど…!」

息子を自身の胸元に沈める母親

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