視聴覚室で映画を
視聴覚室のカーテンは締め切りにされていた。
白いスクリーンに映し出される映像は、一昔前にはやった恋愛ものの映画。
主人公の男は死んでしまう。男の死を嘆き悲しむ恋人のそばを離れることができず、死
んで尚、彼女を守ろうとしていた。
一番前の真ん中の席にミサは座っていた。手にはハンカチを持っている。映画が終わっ
ても、涙は止まらなかった。
「映画、どうだった?」
涙を拭いながら、ミサは尋ねた。
後ろから声がする。
「こんな映画でよく泣けるなぁ」
「あたしが一番好きな映画だもん」
ミサはハンカチを目に当てた。
晃久は恋愛ものの映画をバカにしている。どこが面白いのか、さっぱりわからないとい
うのだ。
そのくせ、付き合いはよくて、映画でもDVDでも、ミサが見たいと言えば、一緒に見
てくれる。
「まあ、男の気持ちはわかるかな」
「なによ、それ」
「自分が死んで、好きな人がいつまでも泣いていたら、悲しくなるだろ。泣き止んでくれ
るなら、オレのことなんて、忘れていいのにって思うな」
「好きな人のこと、忘れられるわけないじゃない」
「それは嬉しいけどね」
不意に温かい息が耳にかかる。
ミサはうつむいて、ハンカチを握り締めた。
「いつまでも悲しむなよ」
「バカ。あんたが死んだって悲しんだりしないんだから」
「そうそう。憎まれ口叩いているほうがミサらしい」
大きな手が、ミサの頭を軽く叩いた。
晃久のクセみたいなもの。
子供扱いするみたいにミサの頭をポンポンと叩く。やめてよというと、晃久はわざと叩
いた。
そうやって、二人でいると、いつもふざけてばかり。
いつから、晃久を好きになったのかもわからない。気がついたら、いつも一緒だった。
そばにいるのが当たり前になっていて、いつまでも一緒にいられるような気がしていた。
ミサは後ろを振り返る。
「晃久のバカッ」
そこには誰もいない。
視聴覚室にはミサしかいなかった。
学校の七不思議のひとつに『視聴覚室の幽霊』という話がある。死んでしまった人に会
えるという話だ。
視聴覚室でひとり、映画を見る。その映画は生前、好きだった映画。カーテンを締め切
りにして、一番前の真ん中の席に座る。
映画が終わったら、最初に言うことは決まっている。
「映画、どうだった?」
その問いかけに死んだ人が応えてくれるという。
ただし、振り返ってはいけない。相手の姿を見ることはできないのだ。
あなたも試してはいかがでしょう?
もしかしたら、会えるかもしれませんよ。
ただし、なくなった方が一番好きな映画を知っていれば、の話ですがね。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。