寒空の女騎士
女騎士が……好きです
「んほぉぉぉぉ!!!!」
今年もありえない程の大寒波がやってきた。
しかしその最中に置いても警備の仕事に休みは無い。
腰に下げた剣が凍り付き、鞘から抜けなくなる事は日常茶飯事。しかしそれでも居ないよりはましと言う事で、足が冷えようが頭に雪が積もろうが、女騎士達は警備の仕事をせざるを得なかった……。
「寒いぃぃぃぃ!!!!」
今日の貧乏くじを引いたのは女騎士歴5年。今年で三十路を迎える【ドーワ・ナニソレ・オイシーノ?】である。
ドーワは厚手の靴下にカシミア30%のマフラー、カイロのフル装備で王宮の前の警備に当たった。
──キャッ、キャッ!
子ども達が降り注ぐ雪の中雪遊びに興じている。ドーワは「ああ、若いなぁ……」と思いながら今夜の晩酌だけを夢見てポケットのカイロをニギニギと握り締めた。
「おねーさん、寒くないの?」
子どもの一人がドーワに話し掛ける。小さな雪だるまを抱えた子どもは顔を赤くしながらもとても楽しそうな笑顔をドーワに向けた。
「ぶっちゃけ寒い」
「ふーん……」
子どもは興味なさそうに雪だるまをドーワの隣に置いて他の子ども達の群れへと帰って行った。
ドーワは悴む手足を何とか擦り合わせその日の警備を耐えると、行きつけの居酒屋へと向かった。
「お! いらっしゃい!!」
「あー、暖かい! オッチャンいつものね……」
『いつもの』で通じる程に通い詰めた(と言うか同じ物しか頼んでない)ドーワ。熱燗と炙りイカでまずは乾杯。
「この寒い中警備も大変だね!」
「そう思うならオッチャン変わってよ!」
「やだね。俺は歳なんだから死んじまうよ」
「はは……」
他愛も無い会話を重ねながら、ドーワの燗が進んでゆく。
「オッチャン焼き鳥!! いつもの、ね!」
「はいよ。砂肝とねぎま以外だろ?」
「うぃ!」
燗が進み良い感じで酔ってきたドーワ。深酒をすると明日に響くのである程度で抑えるのが彼女に残されたポリシーである。
「オッチャン財布が凍っちまって開かないから、お金明日ね……」
「この野郎……忘れやがったな?」
「へへ、悪いね……」
フラフラと覚束無い足取りで雪道を歩くドーワ。カイロはもうその寿命を終え、冷え切って硬くなっていた。
「明日も王宮前か…………」
しんしんと降り積もる雪の中をドーワは静かに歩いて帰った…………。
――次の日――
この日もあり得ない程に寒い中、ドーワは王宮の前で一人佇んでいた。
「ひぎぃぃぃぃ!!!! 寒いぃぃぃぃ!!!!」
悴むドーワの傍を無邪気な子ども達が駆けてゆく。
「あ、おねーさんコレあげる!」
見れば昨日ドーワに話し掛けてきた子どもが、今日は手袋をドーワに差し出している。
不恰好な手編みの手袋。ドーワは子どもの純真なその姿に、今夜の晩酌だけを考えていた己を恥じた。
「ありがとう……暖かいよ」
ドーワは自らの仕事が子ども達の未来を守る事を再認識し、気合を入れ直し警備に当たった。
「オッチャンいつもの!」
しかしやはり晩酌は止められないし止まらない。
「へい! いつものお待ち!」
手渡される熱燗と炙りイカ。ドーワそれを口に含むと、生きている喜びを噛み締めた。
「オッチャン見てよ。この手袋子ども達に貰ったんだ」
「ほぉ、良いね。子ども達の為にしっかり働きなよ?」
「はいよ♪」
明日が休みな事もあり、その日ドーワは上機嫌で酒を飲んだ。
そして居酒屋に手袋を忘れた…………
読んで頂きましてありがとうございました!