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1-8, 死ぬなんて……言わないで

 もう少しで街というところで、スミさんが立ち止まり、私の方を向く。私は息が上がっており、クタクタだった。

「止まってください〜。あなたにこれを渡しておくのですよ~」

 大きな蓋つきのペンダント……いや、これは懐中時計か。蓋を開けてみると無骨な金属製の時計は、カッカッカッと時をんでいる。きれいな品ではあるが、高価なものではなさそうだ。

「これは……?」

「ふふっ。今日は大変そうですからね〜。死んだときのための備えです〜」

「死とは、どういうことですか?」

「あらあら〜。この3ヶ月間私がいろいろ教えてあげたのですから、少しは自分の頭で考えるのですよ〜。ウィリーの村で何か起こっているようです〜。ドラゴンと合わせて考えるととてもまずい状況ですね〜」

「村が?」

 慌てて前を見ると村から灰色の煙が上がっていた。村が燃えているの?

「スミさん、村から煙が……」

「遅いのですよ〜。10分前から見えていました〜」

 うーん、私は鈍いらしい。

「スミさん、どうしますか?」

「フェニカちゃん、お使いですよ〜。ドラゴンの目撃情報とウィリー村の襲撃情報、この二つをベンジントンの街に行って伝えてください〜。村の方は私がなんとかしておきます」

 スミさんの目は本気だった。

「そんな。私も村のために戦います」

 もう居場所を失うのは嫌だ、という気持ちが私を動かした。ここでスミさんを放って、街から逃げ出したら二度と帰って来られない気がした。

「フェニカちゃんじゃ、弱すぎて足手まといになるのですよ〜。とにかく〜、ドラゴンの目撃情報だけは絶対に、絶対に、絶対に、街に届けてくださいね〜。村が見えなくなるまでは、街道に沿って森の中を進んでください〜」

 スミさんにとっては、村のことよりもドラゴンの方が大事らしい。

「でも」

「ここで押し問答している間に村の状況が悪化するかもしれません。あなたは自分のすべきことをしなさい」

「はい」

 しぶしぶではあるが、私はベンジントンの街に向かうことを了承せざるをえない。

「偉いのですよ〜。何事も無ければまた一緒に生活しましょうね〜」

 スミさんはぽんと私の頭を撫でた。私はまた大切な人を失うのだろうか。そんな恐怖が私を襲う。

「大丈夫ですよ〜。私はそこらの野盗に負けないくらい強いんですから〜。じゃあ、よろしくお願いします〜」

 スミさんは、重荷になりそうなものを一式足元に投げ捨てると、驚くほどの速さで村へと走り出す。あんなに急いで移動しているスミさんは初めて見た。私は言われたとおり、ベンジントンの村へと歩く。懐中時計を覗くと、15時だった。


 ウィリー村からベンジントンの街までは、今の私の足だとおよそ5時間。最初の方で森の中を通ること、途中から夜になることを考えると街につくまでには6時間程。それから馬を飛ばして戻ってくるころには、村の異変は収束しているだろう。良い結末か悪い結末かはわからない、と言いたい。しかし、わからないといえば嘘になる。俺が転生してから1年が経っていない以上、ここで待っているのはきっと……。私は考えないことにする。


 私は村が見えなくなったところで街道に出る。通りには誰もいない。森の中を歩む間誰とも会うことはなかったし、これから街道の分岐点までも人はいないだろう。私はスミさんの懐中時計で時間を確認する。16時。おや、蓋の裏に何かが刻まれている。

「ソーサルの街へ行け スオウ・スミ」

 こんな文書があっただろうか。いや、なかった。離れたところに文字を見せる方法を私は一つしか教わっていない。隠蔽の魔法だ。

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 まだ雪が降っていた日のこと、私はいつものようにスミさんに魔法を習っていた。

「お次は、隠蔽魔法ですよ〜。とっても便利な魔法なのでぜひ覚えましょうね〜」

 隠蔽魔法の内容の大半は忘れてしまったが、印象的なエピソードがある。

「ちょっとした隠蔽魔法は使用する魔力が極めて少ないので隠し遺言に利用されることがあります〜。予め用意しておいた文字を隠してしまうのです〜」

 私はちっぽけな頭をフルに回転させて、説明を噛み砕いた。

「えーっと、魔法は使用者が止めるか、継続ができなくなるまでしか効果を発揮しないから。あ、そうか、死んだら隠蔽魔法が消えて文字が出てくるのですね」

「はい、その通りです〜。もちろん専門家から隠し通すのは難しいので個人的な遺言に使用されることが多いのですよ〜。使用者は死ぬまで文字を隠す魔力を使い続けますが、大した消費量じゃないので大丈夫なのです〜。もちろん、あんまり使いたい魔法ではありませんけどね〜」

 私だって人が死ぬのはゴメンだった。

「ねぇ」

 スミさんがいつもと違うトーンで呼びかけてきた。

「なんですか?」

 私は答える。

「私が死んだら……あなたは悲しんでくれる?」


 一瞬の間の後私は答える。私の頭の中で首を切られたフーリアが思い出された。

「スミさんが……、スミさんが死ぬわけがないでしょう?」

 私は回答をごまかしてしまった。

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 走りながら涙があふれる。様々な後悔を私はずっと忘れないだろう。

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