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1-3, 私の名前はフェニカ!この世界にあるワクワクを教えてもらいながら療養中!

 その夜。


 フーリアが用意してくれたご飯を食べながらこれまでのことを話した。

 パンの他はよくわからない料理だったがおいしかった。


「君……、えーとフィンの話だと名前がないんだっけ?」

「はい。名もなき女奴隷……それが私です」

 そう、私は名もなき女奴隷。私の運命。


「あの施設に入る前には何て呼ばれていたの?」

 フーリアはごく当然の質問を口にする。

「私……あそこに入る前の記憶がないんです」

「記憶が……ない?」

 ちょっと考え込むフーリア。

「はい」

 転生前の記憶がないのでこの世界での記憶は本当にない。転生のことは言わないほうがいいと、私は判断している。

「時期を考えれば昔の記憶があるはずだけど、なんでだろう……。薬に新たな副作用でも……。いったん記録して先に進めよう」

 フーリアは空中で手を動かしている。

 空中にある見えないキーボードを叩いているような動きだ。


「だとすると、名前がいるな。私から贈ってもいいけどどうしよう?自分でつける?」

 名前……。

 私のこの世界での名前か。

 この世界でどんな名前が自然なのかわからないし、フーリアの様子を伺おう。

「フーリアさんだったら……なんてつけます?」

「んーと、私ネーミングとか自信ないんだよねー。安直だけどフェニカとかどう?」

 フェニカ……。

 前世の記憶からするとちょっと不思議な響きだが、こっちではこういうものなのかもしれない。

「私は……フェニカ」

 ちょっと微笑んでしまった。

 名前があるってのはいいことだ。

「じゃあ、君の名前は今日からフェニカだ」

 再びフーリアは空中で手を動かす。


「あの……」

「なんだい?」

「その手の動きはなんですか?」


「ん?」

フーリアは掌をくるっと回して、掌をじっと見つめて少し考え込んだ。

「もしかして君、これ見えないの?」

フーリアは掌をこちらに向けて突き出した。


「掌?」


「あー、やっぱり見えないんだ。そうだよね、魔力0だもんね」

 見えない何かがあったらしい。

「これはパルムグリモワール。略してパルモワ。もともとは魔導書を共有するための魔法だったんだけど、最近は何でもできる。私には本のページみたいなのが見えてるんだ。」

 スマホみたいなものか。

 どこの世でも人がやることは変わらないのかも。


「……。魔力がないと生きるのはつらいですか?」

 私は魔法の使い方なんてわからない。

 そもそも魔力0だと魔法が使えないのかもしれないけど。


「あー、心配しなくていいよ。君はノマギ、えーと、生まれつき魔力がないわけじゃない。うちで治療していれば魔力も戻るから」

「君の低ステは全部薬のせいだからね。うまくいけば大体のステータスが元以上になる。しかもその美貌はなくならない。心配しなくていいよ」

 フーリアはちょっと目を細めてうっとりとした表情で私の顔を見つめた。


「あの……、この世界のこと、お聞きしてもいいですか? 私にとっては、あの劇場が世界のすべてでした」

「君は建物の外の記憶がないのか。なるほど。街中の様子は見てきた?」

「馬車の窓から……ちょっとだけ」

 私はまだ街中を歩いたことがない。

 外に何があるかを知らない。

 籠の中の鳥だ。

「うんうん。ちょっとずつ教えてあげるから、わからないことは何でもきいてね」


----------


 それからしばらくは、投薬と勉学の日々だった。

 まず私は文字を覚えることに専念した。幸いなことに音声が日本語と同じ言語なので、文字を覚えるのはそこまで難しくなかった。今私たちが話している言語は共通語というらしい。文字はたったの123個しかない。

 投薬はといえば……、こちらは地獄の苦しみがあった。過去の記憶がフラッシュバックするし、投薬中の私は見るに堪えないだろう。でも、フーリアは付き合ってくれた。


----------


 徐々に文字の読み方を覚えた私は、投薬のあとに自分のステータスを確認するのが楽しみになっていた。ステータスは、フーリアが用意してくれたパルモワを使うといつでも確認できる。

 一回目の投薬の直後、私の身体に魔力が宿ったのか、突如としていろいろなものが見えるようになった。パルモワもその一つだ。その時に、フーリアがお古のパルモワをくれた。左腕に腕輪をはめたらパルモワを取り出せるようになった。文字を学ぶのは基本的にパルモワを通して行う。


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名前:フェニカ

種族:人間

職業:なし

状態:猛毒


力:7

丈夫さ:7

器用さ:8

素早さ:6

知力:7

魔力:12

運:0

魅力:32


スキル:

定められた運命:運命は女神の掌の上に

魅了:私はとっても魅力的、でしょ?

パルモワ:いつでもパルモワを使える、便利!

識字:文字が読めれば世界が広がる

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「フーリアさん、またステータスが上がりました」

「うんうん、いいことだ。私の治療がうまくいってるようで私も一安心だよ~。君のステータスはいくつか気になるところがあるけど、もう少しで普通の人間レベルになるはずだ」

 普通の人間の数字は7から25くらいだと前に教えてもらった。

「気になるところ、ですか?」

「具体的に言うと、運と定められた運命、そして魅力と魅了。この4つだね~。特にこの『定められた運命』ってスキル、初めて目にしたけどなんなんだろう?」

 これはきっと、例の履歴書交換の産物だろう。一年間俺の運命を決定づける履歴書……。だが今は黙っておこう。

「あとねー。運の数字が何をやっても0のまま変動しないんだよね~。この数字は本当は毎日変動するものなんだ。その日の調子を反映してね。でも、0のまま固定。君って何かに呪われてる?」

 呪い……。きっとその言葉が正しいのだろう。私の人生は女神の掌の上、月島桜の決めたとおりに進行する。


----------


 私がフーリアのもとに来てから二週間ほど経った時、フーリアが私に魔法の基礎を教えてくれた。


「魔法の基本は3つ。『使用者』、『媒介』、『呪文』。

 ・魔法は、『使用者』が『媒介』を通して『呪文』を行使することで発動する」

 ・『使用者』は、必ず魔力を持つ生物でなければならない。『媒介』と『呪文』に見合うだけの魔力を『使用者』は消費する。

 ・『媒介』は、生物の魔力を魔法に変える変換機。媒介が良いものであればあるほど魔力の消費効率が良くなる。

 ・『呪文』は、魔法語の文章。適切な方法で発話した『呪文』は、使用者の魔力を使って実現する。

 こんな感じかな? ちょっと難しいかも」


 何となくわかったようなわからないような……。

 フーリアはコーヒーを飲んでほうっと息を吐き、クッキーをほおばりながら続けた。


「簡単に言っちゃえば、媒介をもって魔法語を口にすれば何でもかんでも魔法」

 シンプルだ。

「魔法に練習はいらないのですか?」

「使うだけなら……ね。でも、慣れで消費する魔力が変わってくる。魔法で本当に難しいのは、呪文を作るほうで、優秀な魔法使いってのは、人々の役に立つ呪文を作れる人のことを言うんだ」


 試してみたい。

 この世界にきて初めて目がキラキラしているかも。


「ワクワクしているね。でも、お姉さんからの注意!知らない呪文、信用できない呪文は絶対に唱えたらいけません」

「唱えただけで実現しちゃうからですか?」

「そうそう。『サブシスト』っていう中止の呪文を唱えない限り、唱えた呪文は命令を完遂するまであなたの魔力を消費します。魔力が足りなくなったら次は生命力を消費します。

 毎年、何人もの人が自分の唱えた魔法で亡くなっているの。子どもが多いけど、子どもだけじゃない。高名な魔法学者でさえ、ちょっとしたミスで亡くなった例があるわ

 ちなみに、パルモワも魔法なんだけど、消費魔力がものすごく低いから子どもでも使える」


「わかりました」

「あなたがもうちょっと回復したらちゃんとした魔法学の基礎を教えて上げるわ」


----------


 フーリアの家に来てから一か月。この世界にも慣れてきた。病人だから外出は許されなかったけど、多くを学んだ。この世界にはワクワクすることがいっぱいだ。

 今日もパルモワでこの生き物図鑑を見ていた。

 子ども向けの図鑑だけど実に面白い。

 私はまるで大きな子ども。

 世界に希望を抱いて将来を夢見る。


 カランコロン


 ドアの前に設置してあるベルが鳴った。

「はいはーい! 誰だろう、ちょっと行ってくるね」

 私にそう伝えるとフーリアはドアの方に行った。


 ガチャリ

 外に立っていたのは二人組の黒服だった。二人とも剣で武装している。ちょっと怖いな……と思う間もなく……。


 キンッ


 片方の黒服が剣を抜いた。


 すごい量の血を流しながら、ドサッと音を立ててフーリアが崩れ落ちる。私の方に転がってきたのはフーリアの頭だった。


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 私は思い出した。私にはワクワクなんてない。すべては決められた運命に従う。私の運命を決めたのは月島桜。私に幸せな人生など用意する気はないらしい。

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