1-2, 私は人類最弱の被験体……。人を信じるなんて馬鹿げている。でも、私は人を信じたかった
「うひょーーーーーー。その子が例の子?フィン、その子が例の子?例の子だよね?さすがベンジン家。財力違うー」
次の日私はベンジンに連れられてベンジンの友人のもとにきた。
随分とテンションの高い女性だった。モノクルに白衣……かっこいい。
「あなた、随分大人しいね。年頃らしくない。あーーあなたの体を弄って研究したい」
「フーリア、この子が怖がっているだろう。もう少し常識というものを」
「なーにいってるのかな?」
唐突に女性がまじめな顔になる。
「この子は男性を怖がってる。視線みればわかるでしょ」
一瞬の沈黙。
……
「ごめんなさい」私の謝罪でベンジンを傷つけてしまったかもしれない。
「……。いや大丈夫だ。君の境遇を考慮して、私が配慮すべきであった。こちらこそすまない。フーリア、あとはまかせた」
いうが早いがベンジンは出ていった。
部屋の中はいかにもマッドサイエンティストの巣という感じだ。わけのわからない、形容し難いものが所狭しと並んでいる。
「あの、ありがとうございます」
「ノンノン。そこでお礼を言っちゃうとフィンがかわいそう。まあ、君の境遇からしたら当然なんだけどね〜」
私の境遇……。どこまで知ってるんだろう。
「あ、あの」
「ん〜?」
「私をここに読んだのはどういう理由でしょうか?私……ただの奴隷の女の子なのに……」
女の子、そんな響きにももう慣れた。俺は女……認めてしまった。
「あ〜。フィンからはなにも聞いてないのか〜。あれ、言わないように口止めしたっけ?フィンってこんないたいけな少女に事実を伝える、みたいな重い仕事嫌だろうからな〜。逃げたな。そういうことにしよう」
「君がどこまで覚えているかはわからないけどね〜。どこまで覚えてる?」
いやなことを聞かれた。
「えっと……その……私……体を売っていました」
男だった俺が女として体を売っていた。
「とても幸せな時間でした」
そう言わなければ私は打たれる。私はしあわせでなければならない。
「ん〜。君幸せそうに見えないよ〜」
私は顔を真っ赤にしてうつむく。
「私、は、幸せ、です」
ぽん
フーリアが私の頭を撫でる。
「落ち着いて、ここには怖い人はいないよ。全く根が深いね〜」
「君にすべて伝えるのはやめたほうが良さそうだ。重要なことだけ教えておこう」
モノクル越しのフーリア目はキラキラしていた。
「君は人類最弱」
?突然どうしたのだろう?
私がキョトンとしているのをみて、フーリアがいぶかしんだ。
「あれ、昨日ステータス試験受けなかった?かなり極端な結果になっていたはずだけど」
私は昨日の試験を思い出した。
「あの……読めません……」
「あー、君文字読めないのか。教育も受けてないみたいだねー。
会話は結構できるみたいだけど……。
結果をかいつまんで話すと、アレね……。人類最弱。人類七種族の中で君より弱い人は存在しない。そのくらい低いステータタスだった。なんかね〜、女神とか悪魔とかその類に呪われてないとあのステは出ないはず」
「……」
転生したからだろうか……
「君、何かやった?」
正直話したくない。じっとフーリアさんと見つめ合う。
「ごめんごめん。実はね、原因はわかってるんだ。君が投与され続けた薬、わかる?」
「なんとなく……」なんとなくしか覚えてない。でもあの薬を投与されると私は……。
「あの薬は、強い性欲とともに投与された人のステータスを下げる猛毒さ。美しさ以外のすべてを使用者から奪う。美しさだけはどんどん磨かれるんだけどね」
フーリアはじっと私の目を見る。
「この薬ね。大本になったのが私の父の研究の副作用で……、私はその被害を最小限に抑えるべく活動しているの。あなたの他に12人の子がこの薬の犠牲になったけど、治る見込みがあったのはあなただけだった。他の子たちは悲惨な運命が待っているでしょうね」
フーリアは、ふーっと一息吐いた。
「もちろんあなたの運命がこれから良いものとは限らない。私があなたを買ったのは治る『可能性があったから』にすぎない」
治るわけない。私の運命は一年間月島桜の手のひらの中だ。どうせ失敗する。そう思う。
私、人生に投げやりになってる。
「簡単に言うと、あなたを治すために私はあなたを買ったの」
いいよ。どうせ私に拒否権はない。好きにしろよ。と言ってやりたい。
「あ、えっと」
「怖がることはないよ。私がついてる」
フーリアはにこっと笑う。
その日から私はフーリアの家で暮らすことになった。
ベンジンにはちゃんと挨拶した。
今更こんな異世界で人を信じるわけがない。人を信じるなんて馬鹿げている。でも、私は人を信じたかった。