1-23, 魂
「俺はな。ぴったり一年前に女神アールミーから神託を受けた」
イサの言葉に私はドキッとする。一年前……、私が転生し、私の運命が始まった日。私も転生のことを話す必要があるだろうか……。
「その時の俺はな、思い出したくはないが、実験動物扱いだった」
「実験動物?」
「ああ、実験動物さ。思い出したくないけど、話さないとな」
「イサ、こんなときにそんな話をしなくても……」私が止めようとすると、イサが答えた。
「アールミーの神託でな、今夜が明けるまでに身の上話を終わらせておけ、と。二人の信頼が得られれば為すべきことがわかるって話だ」
「実験体番号17-13。それが俺の名前だ。実験体にされる前に俺が何者だったのか、俺にはわからない。実験内容は、帝国が所有する神器にまつわるもの」
スイセンが驚いたように声を上げる。「帝国に神器があるのですか? 本当に神器なのですか?」その表情は怖い。
「やつらがそれを神器と呼んでいた。加えて、俺の体験はこの世の理を外れたものだ。外に出てからできる限り調べたがあれは神器のはずだ」
「神器っていったい何?」と私が尋ねる。まったくわからない
「フェニカは神器という言葉を知らないのか?」と驚くイサにスイセンが答える。「学がなければ知らないことも仕方ないでしょう。その方の出自はただの奴隷ですから」なんでそれをスイセンが知っているのか、と私が驚く前にイサが声を上げる。
「お前、フェニカのことを知っていたのか?」
スイセンは少々不機嫌そうな表情で「また王族をお前呼ばわりですか」と返す。「ああ、すまないな。俺も学がないものでな」あれ、この二人ひょっとしてさっきからずっとこの調子で喧嘩していたのかな? どんどん話題が脱線していく。視線で喧嘩している二人を諌めるように私が発言する。
「ちょっと待って。話を一つずつ確認しよう。まず、神器とは何者で、何ができるのか?」
「辞書的な意味では」とスイセンさん「神器とは、魔法でも科学でも他のいかなる理論でも説明のつかない、神のいたずらとしか思えない効果を持った道具です。歴史の表舞台で確認された神器は全部で6例。疑わしい例はもう少しあります。神器が確認されたすべての場合で、発見から数年以内に人が原因の大事件が起き、4例では発見した国か近隣国が滅びました」
イサが言葉をつなぐ。「神器の定義はそんな感じで、今回の神器の効果を話しておくと、身体から魂を抜いたり入れたりできる。神器の形は盃」
「魂?」
「魂なんて非科学的非魔法的なものを信じるか、ってのは昔から議論されていることだが、俺は男だったことも女だったこともあるし、半日ほどネズミにされた記憶もある。一番怖かったのは、隣の房に入っていたやつが、鎧に魂を移されたときだ。生き物じゃないのに30分くらいは動いていた。その後あいつの魂がどうなったのかはまったくわからない」
転生と同じようなことが起きたのだろうか、と思ったけれど、転生のことはまだ話さないでおこう。




