1-12, 初めての王城は手錠とともに
暗い部屋、小さな窓が一つ。5人の兵士に囲まれて、私は尋問を受けている。
「スオウ・スミの紹介とはどういうことだ?」
私は時計を取り出して蓋を開けた。
「ここに刻まれた文字、これが師の遺言です」
「改めさせてもらうぞ」
私の前で尋問している一番偉いっぽい兵士は、いかつい顔をしている。顔の作りはきれいだが、表情が怖い。他の4人の兵士も皆怖い顔をしている。兵士は慎重に懐中時計を調べる。近くにいる別の兵士を手ぶりで呼んで、ひそひそと相談している。
「この人物は常日頃からスオウ・スミと名乗っていたのか?」
「いいえ。普段はスミさんとだけ……。親が王様の名前をつけたと言っていたので、てっきりスミがファーストネームかと思っていました」
「お前とその人物はいつ、どこで知り合って、この時計はいつ渡されたものだ?」
「およそ5か月前の冬のウィリー村で知り合い、逃亡奴隷だった私をスミさんが育ててくれました」
兵士たちの表情が一瞬変化し、微妙に前のめりになった。
「先日のドラゴン襲撃の日に、異変に気づいたスミさんが隠蔽魔法を施したこの時計を渡してくれて、私がベンジントンに伝令に走っている間、おそらくスミさんが亡くなったときに文字が浮き出しました」
今回は泣いていない。
目の前の兵士は、机の上に手を組んだまま起き、目をつぶって考え込む。懐中時計のカッカッカッという音だけが部屋を占める。一瞬の間。そののち目の前の兵士が身じろぎして、姿勢を正してから口を開く。
「スオウ・スミという名前の人物が誰だか知っているのか?」
「私の師です」
兵士は顎を触りながら言う。
「そういう意味ではない」
どういう意味だろう?
私が黙っていると、兵士が補足する。
「この国において、スオウ・スミの名がどういう意味を持つかお前は知っているのか?」
私はなおのこと黙る。
「ならよい。真実だと思うか?」
今度は兵士の間でアイコンタクトが交わされる。何人かが頷いたところで、結論が出る。
「お前に対する判断は我々の手に余るので、城へと来てもらう。念の為に手錠を掛けるがよろしいかな?」
私は頷くしかない。
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街の中は興味深い。針葉樹林の近くにあるベンジントンとは違って、リーサルの街は港町。大量の魚を売っている店や、海の中にいると思われる見たことのない生物を扱う店がある。私は、城へ向かう馬車の中でその様子を眺めている。
馬車は今まで乗った中では一番快適だ。側面に小さめの窓が空いた箱型の馬車は、大した揺れもなく大きな道を進んでいる。私は目の前の兵士を気にせずに、窓の外を眺めたい。窓の外の人々は時々こちらを見る。スミさんと同じ金髪の比率が多いようだ。
堀を超えて私を乗せた馬車が止まると、兵士が扉をあけて手で指示を出す。降りろ、と言っているようだ。
人生初めての王城が手錠をはめて連行されるところだとはいつイメージしただろう。ちょっとだけ、自分の境遇に複雑な心境を覚えた。