クライマックス
事件の起きた洋館の一室、探偵役の男によって集められた関係者たち、身なりも、背丈も、性別も、年齢さえバラバラな彼らの輪の中から、探偵役の男は一人すっと前に進み出た。
一歩、二歩、カツーン、カツーンと建物中に探偵の革靴が響いた。探偵はそのままちょうど皆の中央まで進むとくるりと優雅に体をターンさせた。
そのまま流れるように腕をピッと伸ばし、さらに一本、指が一人の男の向けられた。探偵の視線と向けられた指先、男は一直線になるようにまっすぐ並んだ。
そこで、探偵は低く不思議と心地よ響くその声でハッキリと言い切った。
「犯人はあなたです」
その瞬間、私の周り、一同は息を飲んだ。
指差す探偵、向けられた男、穏やかな笑っているようにさえ見える顔と、突然のことに驚きの表情が張り付いた顔、無言であるのに、二人の間には不思議なほど様々な変化が見えた。
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。それは自分のものだったのだろう。緊張した私の感覚は普段意識しても聞こえないはずの音をあちらこちらから聞き取れるほど鋭敏に高ぶっていた。
指さされた男はしばらく無言であった。指先に、探偵に、男の目はじっとそれを見ていたが、次の瞬間、男は目をつぶった。
それは合図であった。
そこから始まる変化の急を予感して、ぞくりと寒気が走った。何かが、確実に何かがそこから変わったように思えた。
右隣に座る妻がそっと私の手を触れた。
久しく触れた記憶のない小さな手、ひんやりと冷たいその手にハッとした。男の発する圧に伸されてことに気づき、今度はこちらからかすかに震える妻の手をしっかりと握った。
「はぁあ? 刑事さん? いきなり、何を言っているんですか?」
一言目から指さされた男の言葉には不満の色があふれていた。
男は驚きの表情を不快なものと変え、続けて、口元に不敵な笑みを浮かべて、ゆっくりと軽口をたたくように探偵にそう切り返した。
「いきなり僕が犯人なんて、そんな笑えない冗談、」
「いいえ。私は冗談ではなく。あなたが犯人だと確信して、言っているんですよ」
探偵は男の態度、言葉に構わず、否定して再度、さきほど同じことを言い切った。
「何を証拠に、いい加減にしろよ? 冗談か? それとも、だれかに何か言われたのか?」
変わらない探偵の言葉に、不敵な笑みを浮かべた男は態度を一変させる。
彼はやおら立ち上がり、探偵に啖呵を切った後、集まった面々を指さし、自分を陥れるものこそ犯人だと言わんばかりの反応を見せた。
言葉の裏に隠しきれない強い怒気を添え、集められたほかの男女すべてがそれに慄いた。
言葉と態度だけで回りを威圧し、正面から向かい合う探偵が主役ではなく、自分こそが主役であると主張するように彼は堂々とふるまった。
「な!?」
「なんだと、俺たちがお前をはめたというのか!」
「ひぃ、」
「……」
「そんな、ひどい」
「……刑事さん、証拠があるんですよね? そんないきなり犯人だなんて言い切るからには?」
「ええ、ありますよ」
指さされた面々は思い思いの反応を示した。
口に手をあてるもの、ガタっと椅子を倒すような勢いで立ち上がり反論するもの、ただただ驚く様子を見せるもの、一切の動きを見せないもの、それぞれの動きは観測に値するが、ここで重要となるもの彼らではない。
中心的なものはたった二人であった。その他の様々な反応は無視され、向かい合った二人はまた無言でにらみ合った。
「では、事件を解いていきましょう」
探偵は男と向かい合ったままそういった。