アルシュタイン王国
アルシュタイン王国の防壁が見えてきました。そろそろ地上に降りないといけないですね。
「エミュさん、そろそろ地上に降りますよ?」
「はーい。やっぱり人に変化していると魔力が減るのが早いです。」
「やっぱり、飛ぶ時はドラゴンの姿がいいんじゃないですか?」
俺がそんなことを言うと、うーんと悩んでます。
ここはアルシュタイン王国の西の端、コルダヴァ伯爵が治める領地です。ドラゴニアの森と隣接している国境の都市コルダヴァですね。ちなみに、人族はこの森のことを『死の森』と呼びます。生きては帰ってこられない、恐ろしい森という認識が正しいらしい。まあ、ドラゴンがウジャウジャいますからね。
その死の森から2人の人間がやってきたものですから、コルダヴァの西門を警備する衛兵が、ちょっとしたパニックを起こしています。
今更ですが、どうやってエミュさんと一緒に門を通過するか考えないといけませんね。冒険者プレートを見せただけで通過できるとは思えませんし。だって、種族ドラゴンって書いちゃってるしね。
俺が頭を悩ませていると、門のところに衛兵が沢山集まってきました。早速、応援を呼んだらしいです。
「そこの人族に変化している2人、止まれ!!」
いや、俺は変化してないですし。。どうやら衛兵が勘違いしているようです。仕方がありません。
「すみません、俺は普通の人間ですよ? 怪しいものではありません。」
「ふざけんな!! 魔力が全く感じられない人間がいてたまるか!」
そうきましたか。。するとエミュさんが口を開きました。
「僕、悪いドラゴンじゃないよ!」
そう言ってニコッと笑った。
ドラゴンって、自分からばらしているし。まぁ、プレート見ると、どのみちばれてしまいますけどね。
「・・・」
兵士はエミュさんの方を見ます。反応に困っているように見えます。
「魔力の感じないお前何者だ!」
結局、俺に向き直りました。エミュさんには突っ込まないのです? 仕方がないので、なんとか冒険者プレートを見せて説得を試みます。
「ほら見てくださいよ、問題ないでしょう? 魔力だって、少なすぎて感知できないんですよ」
エミュさんが、物言いたげな顔でこっちを見ている。。
「うーむ、確かにプレートは本物のようだ。そっちの女のプレートも見せろ!」
エミュさんの冒険者プレートを見せます。
「種族ドラゴンになってるじゃねーか!?」
「僕、悪いドラゴンじゃないよ!」
エミュさんは、突っ込んで欲しそうにこっちを見ている。その台詞はスライムが言うからいいんだと思うぞ。。
「しかし、ドラゴニアのギルドでは問題無く登録できましたよ?」
「そんなことありえない。過去に従魔としての例はあるが
ドラゴン単独の登録など過去にも例がない。」
いや、現に登録されたプレートがあるのに・・・。従魔ならいいのか?
「ゆうじさんの従魔、いいかもしれません。。断れない命令で私にあんな事やこんな事・・・・きゃぁぁぁぁ!!」
駄目だこのドラゴン、妄想でクネクネしてる。エミュさんのイメージが嫌な方向に修正されていく。
「ゆうじさん! 私を従魔にしてください!!」
「エミュさん、解っていっているのですか? 従魔になるってことは、俺には絶対に逆らえなくなるのですよ?」
「でも、従魔なら街に入れるのでしょう? 私、ゆうじさんなら変な命令はしないって信じていますから。」
信じてくれるのは純粋に嬉しいけれど、いいのかなぁ。従魔にするのは確かテイマーの魔法でしたでしょうか? 調教師とか獣使いが使用する魔法だったはずです。仮の職業、炎魔術師の俺が使うのはマズくないですか? こんなことなら職業を獣使いにしておけばよかったです。
『スキルなんでもありが発動しました。
帝王学、心理学、詐術、駆け引きスキルを獲得しました。』
な!? 願ってもないのにスキル覚えました。必要だと心の中で無意識に思ってしまったのでしょうか。
「それでは、エミュさんを従魔にしますね。衛兵さんもよく見ていてください。」
俺は『テイム』を心の中で唱えると、心の中に音声が聞こえます。
【従魔にすることが可能な魔物がいます。従魔にしますか?】
はいと答える。するとエミュさんの体が光に包まれて、しばらくすると消えた。首筋には首輪ではなく、オシャレなネックレスが現れた。
「何!?何故炎魔術士がテイマーの魔法が使える?」
ここで使うべきだな。俺は覚えたばかりの、帝王学、心理学、詐術、駆け引きスキルを発動させる。
「このドラゴンはもともと従魔になることを容認していました。なので、適性がない俺でも簡単に従魔とすることができたのです。」
「なんだ、結構簡単なんだな。」
詐術スキルのおかげか、簡単に信用してくれました。
「これで何も問題はないですね?」
「ああ、問題を起こすんじゃないぞ? 行ってよし。」
よかった、なんとか無事に都市の中に入ることができた。
門を過ぎてすぐにエミュさんに呼び止められた。どうかしたのでしょうか?
「ゆう・・、あ、ご、ご主人様!」
「いや、ゆうじでいいですから。」
「私がご主人様と呼びたいのです!」
うーん、こんなことで命令する訳にもいかないしなぁ。好きに呼んでもらいましょう。
「それで、どうかしましたか?」
「それがですね、従魔になってから体が軽く感じるのと、力が湧き上がってくるのを感じるんです。」
「そんなはずないのですけど。。」
俺はエミュさんを数秒見つめると、エミュさんの鑑定結果がスクリーンに表示されます。それを見て俺は驚愕してしまいます。
なんですかこれは。。エミュさんの種族がドラゴンから『竜神』に変わっているし、職業が、『神の使徒の従者』になってます。。
「これはいったい・・・。」
どうやら、テイムすることで進化してしまったようです。
竜神族とは亜人族の一種で、通常は人の容姿をしていますが、ドラゴンに変化することができる種族だったはずです。ドラゴンの上位種が竜神族なのでしょうか? よくわかりません。
俺はエミュさんに種族が変わってしまったことをそのまま隠すことなく伝えました。
ショックを受けるかと思われたエミュさんですが。。
「それって、普段はずっと人の姿を維持できるのですよね? ご主人様の側でずっと人の姿でいられるってことですよね!」
エミュさんは大喜びです。俺は罵倒されることを覚悟していたというのに。
それから俺たちは今日の宿を探すことにしました。大きな都市なので、宿屋は沢山あります。その中でも、そこそこ宿代が高そうな所を選んで泊まることにします。
「えーと、部屋を2つ頼みたいのですが。」
「いいえ、部屋はひとつで大丈夫です。」
「エミュさん・・・。」
「駄目ですよ、無駄遣いは。」
エミュさん、目がギラギラしてますよ。怖いですよ。。
なんとか、ひと部屋ですがベットが二つあるところを押さえました。
「本当に同じ部屋でいいのですか?」
「今宵の夜伽相手は私におまかせくださいませませ。」
うふふふふっとエミュさんが笑います。
「疲れているので、一人で寝かせてください。」
「えー、そんなぁ。。」
年齢が200歳超えているのは理解しているのですが、外見が14歳くらいにしか見えませんから。。俺がもとの世界で26歳なので、さすがにこんな子供相手に性欲が暴走するなんてありませんよ。
まぁ、正直なところ経験が無くてちょっと怖いってのもあるんですけどね。。これは内緒です。だって、外見14歳の美少女に「早かったですね」とか、「下手くそ」とか言われたら死ねる。
お互い、順番に水浴びします。水浴びから戻ると、俺のベットでエミュさんが寝てます。
「エミュさんは向こうでしょ。。」
「えー、本当に別々のベットで寝るんですかぁ?」
無視して、俺は眠りにつきました。
数時間が経った頃、それは突然やってきました。
「ご主人様ー、今宵は私が夜伽のお相手を~!」
エミュさんが襲ってきました。マジか、このエロドラゴン。
ガシッ
俺は、エミュさんの頭に指をがっつりとはめ込みます。いわゆる、アイアンクローって奴ですね。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、いたいいたぁぁぁぁぁぁぁい」
「ご主人様、痛い、マジでいたい。頭が潰れますー。もうしません、もうしませんからぁ!!」
俺は、手を離しました。
「うう・・・、ご主人様は意地悪ですぅ。」
「疲れてますので、もう寝ましょうね。。」
俺たちはやっと眠りにつきました。。
朝起きたら、俺のベットで抱き合うようにエミュさんが寝てました。。
ガシッ
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、いたいいたいーー。」
「どうして俺のベットにいるんです?」
「だって、寂しかったんですもん。。」
仕方が無い人です。。
俺も駄目ですね。。安心しきっていて、エミュさんが潜り込んできたのに気がつかなかったなんて。。
さて、今日は何しましょうか。