建国祭典と、迷宮都市
今日はドラゴニュート王国の建国布告の日です。
都市にある大きな競技場で王国の建国を全世界に宣言します。同時に小規模な祭典を行う予定です。
細かい事は全てラプラスに任せて、俺は壇上に上がって建国を宣言するだけです。
「俺は今ここに、ドラゴニュート王国の建国を宣言する!」
俺の仕事はこれだけだった。上空には、ドラゴニアからやってきたドラゴン達が、大勢で祝福のドラゴンブレスを天に向かって放っています。それを見ていた各国の参列者は、皆、青い顔をしています。
最後に、ラプラスが閉会の挨拶をして無事に祭典が終わりました。
あとは、親書を持った特使が各国を回って挨拶をします。
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式典も終わり、俺達はのんびり過ごしています。
執務室の方は忙しそうですが、ラプラスに任せておけば大丈夫でしょう。
盗賊ドラゴンの遺体もラプラスに処理を任せています。利用用途としては、衛兵達の防具になる予定です。
勇者パーティーの皆さんは、屋敷内のメイド達の宿舎と、屋敷近くの空き家を借りて住んでもらっています。勇者しずくさんの仕事は、衛兵達の剣術指導です。戦士、魔法使い、弓使いさんは、屋敷の警備を頼んでいます。聖職者さんには都市の医療施設で働いてもらっています。
エミュさんは言います。
「ご主人様、何処かに遊びにいきませんか?」
「そうですね、やっとのんびりできるようになりましたから、出かけますか。」
そんな流れで向かったのが迷宮都市です。
迷宮都市はリューベン山脈の麓にあります。山の洞窟が魔力のたまり場となってダンジョンが生まれました。何故、遊びに行くのに迷宮都市なのかというと、俺が先日呼び出した妖刀の十束剣がうるさいからです。
「主よ、妾に血を吸わせてほしいのじゃ。」
毎日、こんな事を言います。魔力では駄目なのかと聞いてみると、それだけでは満足できないようです。血を吸うことによって、剣が成長するらしいのです。ちなみに、魔力が完全につきてしまうと深い眠りにつくそうです。
大黒天の大袋に収納しようとしても、生きていると判定されるのか、どうやっても収納できないのです。ついでに子供達のレベルも上げようと思っています。
ドラゴン姿のエミュさんに乗せてもらって半時間ほどで到着しました。もちろん、騒ぎにならないように都市の少し手前で降りました。
迷宮の入り口まで来ると、ここにも冒険者ギルドがありました。どうやら、迷宮に入るにはギルドに記録しないといけないようです。
「いらっしゃいませ。迷宮への入場にはこちらの魔道具にプレートをかざしていただきます。」
俺はプレートをかざして記録を済ませる。そして入ろうとすると、
「あれ、お客さんレベル35なのにランクEなのですか?」
レベルが低すぎると不審がられると思ったので、レベルは書き換えておきました。しかし、ランクはそのままなのでおかしいと思われたようです。
「あー、気にしないでください。忙しくてランク上げていないだけですから。」
適当にごまかします。子供達は荷物持ちだと言うと、そのまま通されました。
そういえば、そろそろ冒険者としての登録が抹消される期限が近づいています。ランクだけは早めに上げといた方がいいかもしれません。そもそも、国王になったのでプレートなんて必要ないのではないかとも思ったのですが、俺が国王だって誰も知らないし気がつきません。前世のように情報がすぐに伝わる世界でもないですしね。それに冒険者ギルドという組織は、何処の国にも所属していない中立組織なので、国王だからといって優遇されるわけでもないようです。
迷宮に入るとまずは下りの階段があります。降りて行くと、いかにもダンジョンという雰囲気になります。地面は石畳でできていて、天井も左右の壁も綺麗に石が積まれてできているようです。真っ暗というわけでもなく、足下には自ら光を放つ石が等間隔で置かれているようです。
パーティー構成は、俺、エミュさん、あんず、ソフィア、オリビアです。今回は、子供達のレベル上げが目的なので、子供達用に武器を出すことにします。
大黒天様の小槌に小型のナイフを二つと杖をお願いします。出現したナイフをあんずとソフィアに渡します。オリビアには小型の片手用杖を渡しました。
「ソフィアとおそろいなのです!」
「あんずと一緒なのにゃ!」
「えっと、ご主人様、奴隷に武器を持たせて良いのでしょうか?」
オリビアだけは不思議そうな顔をしています。
「いいからいいから。」
子供達のジョブ適性を見ていこうと思います。
あんずは、素早さと、力が強いので近接アタッカータイプですね。
ソフィアも素早さが高いですが、力は低く運が高いので、アタッカーと言うよりは盗賊のようなタイプですね。斥候とかよいかもしれません。
オリビアは知能が高く、エルフになってからは魔法適性が上がっているようです。遠距離型の魔法攻撃タイプですかね。
実際に戦闘をやってみましょう。全員に物理、魔法攻撃無効の結界を張ります。これで一撃で死んでしまうことは無いでしょう。何度か攻撃を受けると結界は破壊されてしまいますが。
それでは、俺が盾役となって攻撃を一手に引き受けて、子供達は後ろから攻撃してもらいましょう。エミュさんは、いざという時のために子供達の護衛をしてもらいます。
しばらく進むと、魔力感知が反応します。外と比べて、ダンジョン内では感知範囲が狭いようです。
少し広めの部屋に3体のオークがいます。レベルは15前後です。子供達には強すぎるでしょうか?子供達のレベルはあんずとソフィアがレベル2です。オリビアはレベル8ですね。
あ、オリビアは子供ではありませんでした。外見だけ見ると子供にしか見えません。
ついつい子供と同じ扱いをしてしまいます。
「ちょっとここで待っていてください。」
みんなにはここで待機してもらうように指示を出します。俺はひとりでオークの所まで行って、2体のオークを瞬殺します。
「うひゃひゃひゃひゃ、血だぁ、久しぶりの血なのじゃぁ。」
この剣うるさいです。刀身についた血を吸っているらしく、すぐに綺麗になります。そして、禍々しい紫の光であたりを染めます。
オークが一体だけになったところで、俺はみんなのところまで走って戻ります。オークが現れたと同時にオリビアの魔法が飛んでいきます。
「アイスアロー」
氷の矢の魔法ですね。
あとは、俺がしっかりと注意を引きつけて攻撃を引き受けます。オークの後ろから、あんずとソフィアで攻撃してもらいます。
あんずの攻撃は強くダメージを与えていますが、ソフィアはスピードはありますがあまりダメージは与えられていないようです。
「ソフィア、幸運をあげるスキルありましたよね?」
「うん、あるにゃ。」
「あれ使ってみてくれますか? どの程度変わるのか試してみたいです。」
「わかったにゃ。」
ソフィアは、右手を挙げて『にゃん♪』と鳴いた。
同じように、オークを連れてきてソフィアに攻撃させます。幸運が高くなると、何か良いことがあるのでしょうか?
ズバァ
ソフィアが一撃攻撃すると、オークが倒れてしまいました。
「え?」
何度か試してみた結果、ソフィアが幸運度を上げている間は、後方からの攻撃がすべてクリティカル判定で大ダメージになることがわかりました。
なんですかこれは。
それからは、イージーモードになりました。
レベルもガンガン上がります。
あんず達のレベルが12になったとき、もう子供達だけでオークを倒せるようになりました。
オリビアはあまり経験を稼げなかったらしく、レベルは14で止まっています。
「一撃で倒せるの、すごいのです。」
あんずも驚いているようです。
順調に奥の方まで歩いてきました。マップではこの先に大きな部屋があります。どうやら、ボス部屋のようですね。
部屋の前に立つと、大きな観音開きの扉がそびえ立っています。その扉をそっと押すと、ゆっくりと開いていきます。
奥には、大きなトカゲのような魔物が待ち構えていました。鑑定には、『アイアンリザード』と表示されています。名前の通り、このボスの体は鉄のように硬いのが特徴です。
同じように、俺が攻撃を引きつけて三人に倒させますか。