1/10
0.広すぎる世界
遠くからは、ラッパが奏でる壮大な行進曲が聞こえる。目の前には、さっきから全く動きのない灰色の石壁が広がっている。孤児院の皆は中央広場にパレードを見に行ったが、俺は強硬に反対して結局行かなかった。その代わりに何をするでもなく、ただのんびりと佇んでいるだけなのだ。
絶対王政が崩壊してから、今年でちょうど5年だという。大陸で初めての共和国が、諸外国の干渉を無視して強引に成立を宣言したのだそうだ。無論、俺にとっては関係のないこと――広すぎる世界だが。
ふと俺は、ここから出ることを思った。別に理由はない。しかしまあ、世界を見てくるということにすればそれでいいのだ。一瞬前には、無関係だと切り捨てた世界を。
笑えてきたが、それがいい。昔から、今というもの以外には興味がない……今を生きることしか考えていないのだから。
俺が身一つでふらりと孤児院から消えたのは、こういう軽い気持ちからだった。ここから俺の、周りの心配をとことん無視した旅が始まるなどとは、俺自身でさえ知る由もなかった。