春一番が吹いたら…
どうも初めましてyudyと申します。今回の作品が初投稿です。何とぞ宜しくお願いします。(_^^_)
――今日は春一番が吹き荒れるでしょう。
四月半ばの放課後。俺、五十嵐裕人(十六歳)は今朝の天気予報でそんな事を言っていたのを今頃思い出していた…
「あり得ねぇ…」
四階の窓から外を覗き、目に入ってきた光景に俺は思わずそう呟き、ため息を吐いた。
春一番という強い風は砂埃を撒き散らし、どこかの看板や瓦までもが飛んでいる……って、これは災害か。
「……」
――この中で帰るのは無理だよな……
そう思うと愕然とした気分になり、再びため息を吐いてしまう。
――と、その時。
ブルブルブルッ――
「……ん?」
俺の右ポケットにある携帯が震えだした。
――誰からだ?
そんな疑問を思いつつ、右ポケットから携帯を取り出し、操作する。
差出人は掃除当番(一人で音楽準備室の清掃)の俺を見捨て、先に帰って行きやがった友人からだった。
内容は以下の通り。
『今、強風で電車が止まってるって!!』
「……」
マジかよ……
俺は電車通学なので自動的に風がおさまるまで待機する事が決まってしまった……
「……とりあえず、教室に戻るか」
瞬間的にそう結論を出し、箒をロッカーにしまった所で、
――――ポロン♪
ふいにピアノの音が聴こえてきた……ような気がした。
空耳かと思ったのだが、しばらくしてどうもそうじゃない事に気付いた。
耳を澄ますと確かな旋律が聴こえてくる。どうやら隣の音楽室からのようだ。
うちの高校は何故か運動部以外の部活がない(理由は不明)。
現在の時刻は午後五時過ぎ、運動部以外の生徒はいないはずである。
よって……
――誰がピアノを弾いているんだ?
そんな疑問が浮かんでくる。
俺は気になって音楽室の扉の前まで行き、そっと扉を開けて、中を覗いてみる…が、ここからだと死角になっていて、中でピアノを弾いている人物の姿が見えなかった。
「……」
少し迷ったが、俺は音楽室に脚を踏み入れた。
ゆっくりと足音をたてないように歩き、ピアノに近付く。
人間であることを祈りながら、鍵盤側を覗き込んだ俺の目に入ってきたのは――
「……本山さん?」
――クラスメイトの本山恵さんだった。
黄昏の中、本山さんは真剣な表情…というより、楽しそうにピアノを弾いていた……いや、なんで本山さんがここに?
本山さんは癖のない黒髪を腰までのロングにしている。
運動はそれ程得意ではない代わりに頭がよく、清楚で家庭的な美少女。
中学一年の時に隣の席で、意外にも話や気が合い、何故か高校二年までの五年間ずっと同じクラスの大切な……(まだ)親友である。
ちなみに五年程の付き合いだが、校内で名前で呼び合うと周りからの視線(主に男子)が痛いため、校内では名字で呼び合う事にしている。
……まぁ、学園一のアイドル相手だからな…
演奏に集中しているのか、本山さんは俺に気付いていないようで、ただ一心不乱に鍵盤に指を踊らしている。
優雅でしなやかで柔らかい動き。まるでダンスを踊っているように見えるその姿に俺は思わず魅入ってしまった…
――やがて、時間にして五分位だろうか。
「ふぅ……」
ようやく曲が終わり、本山さんは息を吐いた。
「お疲れさま」
「えっ?」
俺が拍手をしながらそう言うと、本山さんは驚いた表情で俺を見た。
「えっ……な、なんで…五十嵐君がここに?」
まぁ、演奏終わったら粋なりいるはずがない俺が隣にいたら驚くよな。
俺はざっと事情(一人で音楽準備室の清掃)を説明すると本山さんは納得した顔をすると、
「あ、そうなんだ。それはお疲れ様でした」
にっこりと親しみを込めた笑顔を見せ、ねぎらいの言葉を掛けてくれた。それだけで先程までの疲労が癒されるような気がした。まるで癒しの天使のようだ…
「そ、それより本山さんこそ何でこんな時間までここにいるんだ?」
むしろそっちのほうがすげぇ気になった。時間が時間だけに。
「あ…え、えっと…それはね…」
すると、戸惑ったような顔になる本山さん。
……どうしたんだ?
どうやら話によると、図書室でレポートを書いていたら急にピアノが弾きたくなって、思い立ったが吉日の如くピアノを弾いていたら強風で帰れなくなった…ということらしい。
……まぁ、相変わらずしっかりしているように見えて、どこか抜けているだよな……って。
――――レポート?
「五十嵐君……レポート…明日までだよ?」
――――忘れてた。
「あ、あのさ…「何を条件に?」」
――――だよな。
「じゃ、じゃあ。三丁目のカフェのイチゴパフェは……?」
「やった♪じゃ、それで決定ね♪」
「……」
本山さんって普段はお嬢様って感じなのに甘いものには目がないんだよな……まぁ、そんなところも可愛らしいというか…
「ん?どうしたの?」
「いや…何でもない」
「?」
これは心の中にしまっておこう…
「な、なぁ…そろそろ帰ろうぜ?」
「えっ?」
「そろそろ六時だぞ。風もおさまってきたし、遅くなると色々やばいだろ?」
俺は話題を変えるように慌てて時計を見ながらそう言った。
そんな俺の慌てて考えた提案に対して、
「う、うん……そうだね……」
本山さんは少し戸惑いつつもそう呟き、少し首を縦に振ったのだった。
・・・・・・・・・・・
「……」
「……」
風もおさまり、静まった帰り道。俺達に会話は全くなかった……でも、気まずいとかそういう雰囲気ではなかった。
「ねぇ、裕人君?」
突然、本山さ…め、恵が横から俺の顔を覗き込み、話し掛けてくる。
あまりにも近い距離に思わずドキッと胸が高鳴った。
「な、何?」
思わずバッと後ろに下がって返事をしてしまう……頼むからそういう隙をみせるような行為はやめてほしい限りだ。
すると、恵は明後日の方向を向くと、
「えっと、あのね…さっきまで春一番を恨んでたけど…今はすごく感謝してるの」
「は?」
そんな突然の方向からの突然のわけわからん言葉に俺はまぬけな声がでた。
「な、なんで?」
戸惑いつつも聞き返すと、恵は俺の方に振り向き直して、
「教えてほしい?」
含みのある笑いを浮かべながらそう言った。
……どんな大それた理由なのか、めっちゃくちゃ気になる。というか、気にならない方がおかしいだろう。
俺は首を縦に振る。
「じゃあ……耳打ちするから…目をとじて、耳を貸して?」
「は?なんで?」
「いいから」
「?」
恵の指示に疑問に思いつつも指示通りに目をとじ、耳を貸す。
「こ、こうでいいか?」
「うん、そのままで……じゃあ、いくよ?」
「お、おう」
俺が返答をすると、恵はゆっくりと俺の横にくるのが解った。
何を言うんだろ…まさかそれは単なるフェイントで、実は耳に息を吹き掛けたりとか、横から膝カックンするとかじゃないだろうなぁ……
などとアホなことを思った次の瞬間――――
――――ちゅっ、と、
なにかとんでもなく滑らかで、なにかとんでもなく柔らかなものが、一瞬だけ右頬に触れたのを感じた――
「……」
――――って!!い、今のはもしや……
「え…いや…あの…」
「――――だよ…」
「えっ?」
「だから…これが春一番に感謝してる理由…なん…だよ?」
「……」
そう言うと、照れたようにモジモジと落ち着かなくなり、はにかんでいて、でも凄く嬉しそうな笑顔を見せる恵がなんだか眩しく見えた―――
春――――
出会いの季節――――
別れの季節――――
そして……新たなスタートの季節――――
そんな季節に――――
春一番が吹いたら…
―――fin
どうも他の執筆者の皆様、ただぶらっと足を運んでくださった御観覧の皆様、初めましてyudyと申します
m(_ _)m
えー、今回の作品は去年の夏頃。某有名な小説サイトの大会に出させていただいた時に「夏だけど春の話を書きたい!!」といった想いで書いていた……のですが、交通事故にあったり病院に入院したり(携帯、パソコン使用不可)と色々あって退院する時には投稿終了一時間をきっていたので、急遽五分の一の千五百字という超短編で投稿せざるを得なかった……といった思い入れのある作品です。
……でも、今はあなたもこの作品を一目見た時からあなたの心に残るはずなんです。脳にじゃないです。『心』にです。
心に残るものは良いもの悪いもの大体全てが残ります。それらはいくら忘れようにも忘れられないです。思い出として残っていくんです。
そういった作品であってほしいと心の奥底から願っております。
(*^_^*)(照れ)
……では、最後に。
このわけわからん言葉並べを最後まで見守ってくださった皆様、ホントーーーーーにありがとうございます!!
そして、僕を執筆者として登録してくださった管理人を含めた皆様、ホントーーーーーにありがとうございます!!
これからも精進して執筆活動していくので、どうか宜しくお願いします!!(_^^_)
テキューロ♪(最近の一番のお気に入り)