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ワンピースと尻尾事情

 ひとしきり泣いて笑った後。ステラは私から離れてベッドから立ち上がった。

 ステラが離れると私はシーツをかき集めて体を隠す。さっきのステラの言葉で、エンジの視線を妙に意識する様になってしまった。


「先生は見た目通りムッツリだからこのままじゃ危ない! 私が服取ってきてあげる!」

「さっきから僕の扱い酷くない?」

 へこんでいるエンジを無視して、ステラは颯爽とこの部屋から去っていった。


「色々あって疲れたろう。僕は温かい飲み物でも入れてこよう」

 ステラがいなくなって静かになった室内。そんな沈黙に耐えられなくなったのか、エンジがそそくさと出て行ってしまった。

 一人残された私は枕に頭を埋める。




 ――気づいたら寝ていた様だ。物音を聞いて目が覚めた。

 上半身を起こすと、大きな机の上に置かれた物を片づけている子供の姿があった。彼の着ている衣類が看護師さんの着ている様な白い作業着なので、エンジの元で働いているのかな等と考えながらぼーっと彼の作業を見学する。


「おう、目が覚めたかバカ猫。起きたのならさっさと帰ってくれ、お前がいると部屋が余計に散らかるんだ」

 作業の手を止めずに彼は私を罵った。初対面の人に悪口を言われるのは結構辛い。

「いやぁ、えっと、そのぉ……」

 自分が悪口を言われる正当な理由が見つからない。部屋が汚れるから? でも私は部屋の物を何も触ってない。


「お前ひょっとして――」

 オドオドとしている私を見て彼は何か言おうとしたが、またも勢いよくドアが大きい音と共に開けられステラが戻ってきた。何やら白い服らしき物を手に抱えている。

「あっー!! ミーシャのこと虐めたでしょ!!」

 目尻に涙を溜め、泣きそうになっている私を見たステラは少年に詰め寄る。手にしていた服らしき物は大きな机の上に投げかけ、皺にならないようにしていた。


「悪かったな、やっぱりコイツとは別人だったか。同じ外見だからややこしいんだよ」

 ステラの口撃こうげきをスルーして私に謝罪をしてきた。でも最終的には私が悪いみたいになってない? あんまり悪びれた様子がないような気さえする。


「だー、はいはい出てきますよ。出てきゃいいんだろ」

 ステラにグイグイ押されてそのまま部屋の外に追い出された少年。強い力でドアを閉めたステラは、一仕事終えた感じで腕で額を拭うと、私の近くに服らしき物を持ってやってきた。

「私のお下がりだけど、良かったらどうぞ!」

 ステラは服を広げて私に見せてくる。白いワンピースだ。

 何も着ていない状態よりかはマシだろうと考え、ベッドから立ち上がりお礼を言ってからワンピースを受け取って着てみる。


「うーん……」

 尻尾の付け根らへんに裾が引っかかる。尻尾にかからないように着ると見栄えが悪くなる。

 尻尾がしおれてくれれば多少は見栄えがよくなるだろうが、自分の意志で動かすことができない。


 ステラの方をチラッと見てみると、あちゃーと言いながら顔をしかめていた。

「私もそういうの着るとそうなっちゃうんだよね」

 なんで私に着せようと思ったのか。他のはないのかと訊ねようかと思ったが、人の親切を無下にするのは心苦しくて出来ない。


「でもミーシャなら似合うと思ったんだよなぁ」

 裾の納まりのいい位置を探してもじもじしている私を見て、ステラはそんな事を呟いた。ステラは見かけじゃなくてきちんと私を見てくれている。それが妙に嬉しく思えた。


「あの、ありがとう」

 もう一度。改めてお礼を言うとステラは眩しい笑顔を私に向けてくれた。


「コホン、ゴホン、んぅほん」

 室内の大きな机の前に設置された丸椅子に腰かけたエンジが、ワザとらしく咳払いをした。今まで存在に気付かなかった。いつの間に入ってきていたのか。


「いつの間に帰ってきたの!?」

 エンジに気づいた私はビクッと驚き、小さく後ろに跳んでしまった。

「ワンピース着たぐらいからかな。助手くんと入れ替わりで入ってきたのさ」

 第三者がいないと思ってステラにデレデレしていたのに。それが見られてただなんて……。これはかなり恥ずかしい。

 顔を両手で覆い、背中をエンジに向けてしゃがみ込む。

「後ろ、まくれてるよ」

 咄嗟に立ち上がって、恥ずかしさを誤魔化す為にエンジをどつこうとしたが、私より先にステラがエンジに拳を叩き込んでいた。


「先生セクハラだよセクハラ!!」

 呻くエンジを尻目に鼻息を荒くしている。やっぱり自分と同じ外見の人がそんな目で見られるのは、本人も嫌なんだろうか。

「待った待った。これで許してくれ」

 放っておけばもう一発ぶち込んできそうなステラに、エンジは大きな机の上に置かれた二つの白いマグカップを指さした。中には白い液体が入っている。匂い的にホットミルクだろう。

 ステラは二つ手に取り、片方を私に差し出した。お礼を言って受け取り、二人同時にマグカップに口を付ける。


「「あひゅぃ」

 口の中に入れたミルクをすぐマグカップにリリース。舌がヒリヒリと焼ける感じ。今までは猫舌ではなかったが、体質もステラと同じになっているのかもしれない。

 舌をベーと伸ばして冷まそうとするが、一向にヒリヒリとした感じが引かない。隣を見るとステラも私と同じことをしていた。ステラは元々自分が猫舌だって知っていたんじゃないのだろうか。そう疑問に思っても口にする余裕はなかった。



「さて、君にはこれからどうするかを考えてほしい」

 ホットミルクが普通に飲めるぐらいの温度になるころ、進路相談のようなことをエンジに言われた。

「そんなのここで暮らせばいいじゃん!」

 口からコップを離し、私の変わりに口周りを白く染め上げたステラが返事をした。

「彼女は君のペットではないのだよ。ずっとこの部屋に閉じ込めておくつもりですか?」

 そもそもこの場所はどこなのだろう。世界樹の近くではもうないのだろうなぁ。どこかの研究所っぽいし。それなら勝手がわからない人間にうろつかれては困るだろう。


「そういえばここって何処なんですか? 確か私は世界樹にいた覚えが……」

 おそるおそる片手をあげて話に切り込む。

「ん? ここは世界樹の中だよ!!」

 こんな人工物人工物しているところが? 樹の中?

「いい具合に混乱してるね。実際に見てもらった方が手っ取り早いけど……」

 エンジは顎に手を当てて考え込んでしまうが、ステラの方を見て決心したみたいだ。

「まぁステラが一緒にいれば大丈夫かな。一緒に見てくるといいよ」

 エンジが話し終わる前に、ステラは私の持っていたコップを奪い取ってエンジに押しつけた。

 そのまま私の手を取って扉の方へ歩いていく。


「それじゃ行ってくるね!

 空いた手を挙げてエンジに手を振るステラ。

 手を引かれ、体制を崩しながらも後ろを確認すると、片手をあげて小さく手を振り返しているエンジが見えた。


 扉の向こうは空洞であった。上下に続く空間。円柱をくりぬいた様な構造で、壁に階段が付いる。自分達が立っている場所も階段の上だが、一段一段が大きい。三人位は余裕で立てそうな感じがある。

 下を見下ろしてみるも、灯りが少ないせいか暗く先が見えない。

「うわ、こわ……」

 へっぴり腰になる私をよそにステラは前に、円柱の中心に向かって歩きだした。


「大丈夫!! いこういこう!」

 自信たっぷりなステラに制止する声をかける間もなく、体を浮遊感が襲う――。

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