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第十一話 北嶺の雪解け天然水 ~清冽なる雫~


 いやぁ、随分と楽しかったです。



 狭い隧道トンネルを水の流れに乗って、滑り落ちる遊びなんて初めてでした。

 結構な速度が出るんですね。


 薄暗い穴の中をあっちこっちに、引っ張りまわされる感覚はとても新鮮でした。

 機会があればもう一度、楽しんでみたいところですね。


 特に最後、山腹から勢い良く飛び出して、斜面を転がり落ちるなんて最高にいかしてましたよ。

 本当に面白かったなぁ。


 さて、雨もすっかり止んで美しい晴れ間が広がってます。

 そんな青一色の背景に、雄大な山並みが見事に映えますね。まるで一枚の絵画のようです。



 気分爽快になった私が、思わず口笛を吹いても仕方ありません。



 浮かれた足並みで山を降りてますと、鳥さんたちも可憐な羽ばたきで応えてくれました。

 とても美味しそうですね。じゅるり。

 

 おや、これはまあ、なんとも美しい池ですね。


 山を下った先に出会えたのは、澄んだ水を湛える静かな広がりでした。

 水面がきらきらと眩しく輝いています。


 ふむふむ、水面に周囲の光景が映っていますね。

 なるほど、光の反射が起こっているのか。


 角度によって、映像を結ぶ焦点が変わってくるようですね。

 より傾けたほうがクッキリしている……水面に当たる光の角度が関係しているようです。

 光の入射角によって、反射量に変化が起こると。それと屈折も関わりがあるのか。いやはや面白い。

 

 ところで先程から、この水面に映る人影。

 これはもしかして私?



 

 なんと言ったら良いのか……………………。



  

 こんなに可愛らしい見た目だったんですね、私。

 丸くてつぶらな瞳。

 ふさふさと豊かな髪と、スマートに尖った耳。

 微笑みがよく似合う大きな口。


 うーん、このゆるい感じが堪りませんね。

 照れ臭くて、ついついダンシングです。 


 とっとっと~♪

 とっとのとろ~る、とっとんとん♪


 私なりに愛らしさを目一杯、表現できたと思うのですがいかがでしょうか。

 ふぅ、踊りすぎて喉がカラカラです。

 そういえば辛い寝袋を食べてお水を頂いたんですが、一口も飲んでませんでしたね。 


 ここはグイッと頂きますか。



 プハァァァァアア、うんまぁぁあい。

 


 雪解け水なんでしょうか。

 歯の根がきりりと引き締まるほどの清涼感ながらも、喉越しが柔らかくいくらでも飲めますね。


 そうまるで、飲むだけで涙が止まらなくなるほどの美味しさといいますか。

 たっぷり熟睡して、目覚めたばかりのバッチシな気分を味わえるような素晴らしさを感じます。



 山々の絶景を楽しみながら喉を存分に潤すこの一杯――まさに上々の逸品です。


 

 あー美味しかった。

 少々、飲み過ぎた気もしますが。



 お腹いっぱい飲んだら、眠くなってきました。

 お日様を浴びながら眠るなんて、なんて贅沢な…………むにゃむにゃ。



   △▼△▼△



 化け物が油断しているうちに、その場から立ち去ろうとしていた村長だが、ふとおかしなことに気付く。


 聞こえてくる化け物のいびきに合わせて、同じような音が近くから聞こえてくるのだ。

 慌てて辺りを見渡した村長は、土砂の壁に埋もれていた大きな樽に目がとまる。


 いびきはその中からも鳴り響いていた。


 幸いにも蓋が緩んでいたので、取り外して中を覗き込む。


 むわっと広がる酒の臭気とともに現れたのは、樽の中で熟睡していた黒い肌の小男であった。


「ぶひ! あんた、大丈夫か?」

「ほわぁぁあ、よく寝たぜ。うん? ここはどこだ?」

「ここは北大峨の麓だよ。あんたもしかして黒小人ドヴェルグ)かい?」

「おうさ。黒小人族ドヴェルグ)の親方をやってるゴリドってもんだ。しかし、随分と流されちまったようだな」


 赤ら顔の男は、屈託のない笑みを浮かべてみせた。

 その途端、男の腹の虫がぐぅと音を立てる。


「ぶひぃ、腹が空いてるのか。良かったら村に来るかい? ちゃんと食える料理なんて、鍋くらいしかないが」

「そいつはありがてぇ! ついでに良かったら、ここから引き抜いてくれやしないか?」

「ああ、うっかりしてたよ。ほら、捕まんな」


 ゴリドのゴツゴツした手をがっしりと握った村長は、樽から抜け出す手助けをしてやる。


 

 この時交わされた握手こそが、後に黒鼻同盟と呼ばれ北嶺鉱山を長く牛耳る大勢力の始まりとなるのだが、二人がそのことに気付くのはもっと先のことである。



「助かったぜ。そういや恩人の名を聞いてなかったな」

「ぶひ。私は豚鼻族オークの奴隷収容村の村長を務めるゾルバッシュだ」


 勢いよく酒樽から飛び出たゴルドは、オークの村長ゾルバッシュを愉快そうに見上げる。

 だがゾルバッシュの視線は、ゴルドが抜け出た樽の方へと吸い寄せられていた。


「この樽なんだが、もう必要ないだろうか?」

「あん? 中身は全部飲んじまったしな。好きにしてくれていいぜ」

「それじゃ樽の底を抜いても構わないか?」

「底が抜きたいのか。それならお安い御用さ」


 ゴルドが腰のベルトから抜き去った金槌を、目にも留まらぬ速さで投げつける。

 鉄塊は風切り音を響かせて、鮮やかに樽の底をかち割った。



 次の瞬間、割れた底蓋を押し退けて大量の水が吹き出す。



 ゾルバッシュは慌てて黒小人ドヴェルグ)の男を抱えて飛び退いた。

 どうやら堰堤に埋まっていた樽は、水抜き穴にピッタリだったようだ。


 溜池から水が抜け川の流れが元に戻っていく様に、村長は安堵の息を漏らした。

 状況がわからず驚き顔のゴルドだったが、取り敢えずベルトの細工を弄って金槌の柄につけてある細い鎖を巻き戻す。


 金槌を回収し終えたゴリドに、ゾルバッシュは笑みを浮かべて頷いた。



「ぶひ! それでは村へ案内しますよ」

「おう、よろしく頼むぜ」



豚鼻族オーク

 森に暮らす心優しい部族。性格は穏やかで争い事を好まない。

 綺麗好きで、匂いにはかなり敏感である。

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