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石枕

作者: 一兎

 ある晩 黒猫をつかまえて鋏でしっぽを切るとパチン! と黄いろい煙になってしまった 頭の上でキャッ! という声がした 窓をあけると 尾のないホーキ星が逃げて行くのが見えた

―― 黒猫のしっぽを切った話


 神経質な音がする。神経質な音って何? 私が思うに連続する小刻みな音、丁寧に擦り洗うイメージから来ている。ストレスを感じたときに歯軋りや指の骨を鳴らす人がいるが、私は首に力をいれ左右に振る癖があり、小刻みな骨の音がする。

 六畳半、昼間の明かりは入らないくせに夜は外灯が過剰に注ぐ。大通りが近くにあって交通の便を謳うが、騒音がひどい上、駐車場付きではないし、駅は遠いし、しかも私はガソリンを払うお金がない以前に免許を持っていない。大学へは徒歩で通う。

 殺風景な部屋は万年床と手鍋、数冊の本と数枚のTシャツで構成されている。生活に対しての不満は睡眠不足だけであって、お金があればというような欲はあまりない。仕送りで飯を食い、バイトは生きてきた中で一度もしたことがない。私はあと二年もすれば社会に出るというのに。


 枕を買った。トルマリン製でマイナスイオンの他にも未知のエネルギー波や御利益を放ち、安眠快眠だけでなくお金持ちにもなれるという、ひんやりとした石の塊。

 石で出来ているため、非常に硬い。疲れて勢い良く布団に倒れこんだ際に眼鏡を損傷した。自分ですら眼鏡を外した自分の顔に違和感を覚えるときがある。眼鏡は顔の一部。眼鏡が壊れたときはヒステリーでアパートの壁に穴を開けた。

 穴を埋めるのに適当なものがなかったため、仕方なく文庫本の広告部分を破く。数ページ分を丸め、穴に詰めると、砂を撒いたときのような音とともに落下してしまった。本を置き、布団に入った。


 穴から風や虫や小動物が出入りする。汗と湿気で服が肌にはりつくから脱ぎ捨てる、暑さによる嘔吐感。骨の音がする。髪の毛と石が擦れる音が異常に神経質。窓から風が吹き込むたび、カーテンは揺れ、漏光、そうでなくても薄手のカーテンは光で透け、光は目の裏側の景色を赤くする。

 外灯が消え、車の音が少なくなる頃、わかりそうでわからない夢の中にいる。

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