ダブルデート~アクパニ~
けけけさんが書いたアクションパニック!の二次小説です。(著者様には許可済みです)
「フッフーン」
「今日はいつにも増して機嫌がいいな」
「だってー!シンジと久しぶりのデートなのだ!」
「はは、そうだな」
今日は妻、たま子と、近所のアウトレットに来ている。最近はお互い仕事も忙しく、なかなか出かけられなかった。だから、妻がこんな上機嫌で安心した。
例のプロポーズから一か月かけて結婚式の準備をして、それから三か月たった。二人で過ごす家庭にも、もうすぐ三人目が生まれるだろう。
「む?シンジ、ぼーっとしている!?さては浮気ッ!?」
「そんなわけないだろう」
「しってるー」
むにむに、と俺の頬をつまむ彼女。こちらもムニムニしかえす。
「ふみゅふみゅ」
決まってこれがかえってくる。
「リア充爆ぜろォ…」「バカップル発見」
…む?俺らのことだろうか。そういやこないだ、りょうにも…
「言い方悪いですけど、お二人、本当にバカップルですよね」
「バカップル?なんだそれは」
「…ァ、シラナクテケッコーデス」
…バカップルってなんだ?そしてなぜ誰も教えてくれない?そうだ、たま子にでも聞いてみ…
「たま子?」
たま子がいない。まったく。何か気になることがあるとすぐそれに飛びつくからな。一途で素敵だと思うが。とりあえず電話してみよう。
「ただいまおかけになった電話番号は…」
え?スマホの電源まで切っているのか?まァ…そのうちひょっこり現れるだろう。
さて、俺はどこをまわろうか。こうしてみるとアウトレットは赤色、緑色。
「クリスマス…か」
何かあいつにプレゼントでも買ったら「ありがとうなのだ!好きなのだー!」とか言って喜んでくれるだろうか。…といっても何を買えばいい?
「あっれシンジさん?」「シンジじゃないの!」
ふと聞きなれた声。でもたま子のものではない。
「りょうにはるのじゃないか。…ラブラブだな」
「ちょッ、べ、別にそんなじゃないわ!」
「あ!そんな急いで手、離さなくてもいいじゃないですか!」
「うるさい!寒くなんかないし!」
「そういうのツンデレって言うんですよ!狙ってるんですか!?」
「ばかッ、狙ってるわけないでしょばかッ」
…これはバカップル、と言えるのだろうか?
「あれ?たま子は?」
「ほんとだ、まさか一人ですか?」
「いいや、こちらもデートなんだが…どっか行ってしまった」
「のわりには冷静ですね。探してる風でもないし」
「そのうち見つかるさ。たま子は必ず俺のところに来るから」
「(うわァ…スゲェ…)…なるほど」
「なに悠長なこと言ってるのよ!りょう!私たちもシンジと探すわよ!」
「なんでェ!!」
「なんでも!!」
「それは申し訳ない。二人のデートを楽しんでくれ」
「うるさい!!」
「「はい…」」
× × ×
すっごいーい!!!
ショウウィンドウに飾られた、かっこいい白スーツ。
「王子様みたい…!…。…なのだ」
シンジが着てくれたらかっこいいんだろうな。結婚式は着物だったから、こういうのも着てほしいな。
「ねぇシン…あれれェ?」
シンジいないじゃん!むー!僕をほっぽっておくなんてひどいのだ!や、やっぱり浮気!?ウガー!
「ちょっとちょっとたま子ちゃん」
「誰なのだ!馴れ馴れしく我が名を呼び捨てにするなど」
「ちゃん付けしたわ!…ほら、覚えてなぁい?」
なんか頭がボンバー。…あ、知ってる。かつてクラスにいたのだ!
「ゆうこ!!!」
「誰よそれ!?!?」
「あれ、違った」
「メリ・ボンバーよ、メリ・ボンバー」
「あぁ!僕のことよく人質にとってくれた人!感謝なのだ!」
「感謝ァ?」
「君らのおかげで僕、シンジと結婚できたのだ」
「「えェー!?は?いつのまにー!?」」
あれ、なんか声がもう一人増えたのだ。
「ナイスハモリなのだ。えっと、メリ…」
「ハラミヤな!」
なんか話をしてるだけなのに二人はぜーぜー大変そう。
「で、何の用なのだ」
「(シンジで釣れなくなった…どうしよう)…姉貴?」
「…し、シンジをね、誘拐しちゃったのよあはん」
「「何!?!?」」
「(ちょっとハラミヤちゃんまで驚いたら嘘バレるでしょ!)…そ、そうよ、助けたければこっちに来ることよベイビー?」
「行くのだ!」
シンジが誘拐された?信じられない。けど、もし…
× × ×
「これ、三人で手分けしたほうがいいですって」
「あぁ、俺も同感だ。…はるの」
「うるさいッ!(ぼっちは嫌ぼっちは嫌ぼっちは嫌クリボッチなんてイヤー!)」
「でももう四時半…暗くなってきましたよ」
「…たま子」
どうも、りょうです。ナレーターはやっぱり自分の使命だと思っております。本家作者様にそう、教えられました。植えつけられました。洗脳されました。
それはさておき、はるのさんとクリスマスデートに来ていたんですが、たま子さんとはぐれたシンジさんに遭遇。たま子さんを探している。本当によく人を巻き込む人だ…。
「シンジさん…。ほんと、どうしたんでしょうね…」
「なーにあんたたち辛気臭い顔してんのよ!たま子だって大人なんだから」
「わかってますけど…」
「…なんで、電話もでない」
…こんなシンジさんの顔を、僕は初めて見た。いつも冷静なのに、こんな「焦り」「不安」が交じった表情。
「誘拐されたんじゃ」
「まさか、だってポテトは…」
「けど、そんな広くもないところだ。やっぱりおかしい。電話もラインも通じないのもおかしい。いつもなら既読は0.001秒でつくはずだ」
「はっや!仕事してんのたま子さん!?…って、それならますます心配…」
と言った瞬間。…真っ暗になった。
「…!?」
客は突然のことに「きゃー!」と悲鳴をあげて逃げ惑う。でも僕達はヒーロー。そんなことくらいで驚いたりはしない。
「まさかメリ・ボンバーの仕業じゃないわよね!?」
「あはん、物分かりがよくて助かるわん」
「「「!!!」」」
声のする方を見れば空中にボンバーさんが浮かんでいた。でもそっちよりも…
「ま、待ってくださいシンジさん!」
「たま子…!」
シンジさんが真っ先に飛ぶ。僕はシンジさんが強いことも、好きな人のために人は強くなれることも知ってる。だから。
「はるのさん!シンジさんの援護頼みます!」
「わかったわ!」
「みなさん!落ち着いて順に僕の後ついてきてください!」
出来るだけ、市民の被害を最小限におさえる。
× × ×
ここ、どこかなぁ…。真っ暗。あれ、私何してたんだっけ。そうだ。
シンジが誘拐されたってボンバーマンに言われて、のこのこついてきてみたのはいいんだけど…
そこで記憶が終わっちゃってる…。
んー…。怖いなぁ、寂しいな。ここの暗い空間ってたまに来るんだ。何もない。何も。壁とか床とかそんな概念もない、上も下も右も左もない。ただ暗い。どんなに歩いても何も変わらない。
けど。
いつもシンジの声が聞こえる。その声をたどって歩いていけばいつも目の前にシンジがいる。
でも。
今日は全然声がしない。
× × ×
「たま子!」
「あら?あなたちょっとみないうちに随分とアツい男になってるじゃないの。…愛?」
「たま子、もう大丈夫だぞ」
「ちょっと聞いてるの?」
「うるさいな。今はお前に構ってる暇はない」
ボンバーの腕の中には背中を丸くして膝の中に顔をうずめているたま子がいた。たぶん、泣いてるんだろうけど。
「これ、本当にたま子ちゃん?こんなたま子ちゃん見たことないのだけれど」
「たま子を堕としておいて何いってるんだ」
「堕とす…?」
「たま子、たま子。聞こえるか。俺だ、シンジだ。…ちょっとお前、どいてくれないか。たま子を抱けない」
ぽォっと一瞬ボンバーの顔が赤くなった気がするのは気のせいか。って今はそんなことはどうでもいい。いつも通り、たま子の介抱をしなければならない。闇に、病みに、堕ちたたま子を連れ戻すために。
「そ、そんなことはさせられないわん。なんのために誘拐したと思ってるのよ」
「知らん、お前の目的などどうでもいいことだ」
「ひどい!」
「俺はたま子が心配でそれどころではない」
「(世界平和より愛する一人の人間を選ぶ…!愛って素晴らしいわ…)わかったわ、はいどうぞ」
そういってボンバーはあっさりと感じれるほどだが、たま子を投げ返してくれた。
「たま子、もう大丈夫だぞ」
× × ×
シンジは絶対別れないみたいな、どこにもいかない、みたいな。そんなこといってたけど。そんなのわかんないじゃん。今までだって、そんなふうにいってきた奴ほどぱっぱと裏切ってどっかいっちゃうんだ。
それに、シンジはたまご戦隊にいるヒーロー。いつ死ぬかもわかんないじゃん。
そんなことたまに思って、不安で、怖くて、たまに、堕ちる。だいたい夜中。真夜中。
聞こえる自分の涙声と。シンジの呼ぶ声。
今日は全く、聞こえない。自分の声も。シンジの声も。
「…子、たま子」
あれぇ?シンジ?
「たま子、もう大丈夫だぞ」
大丈夫じゃないじゃん!さっきまでどこいってたのさ!誘拐されたとかいうから心配して、ボンバーについていったらシンジが殺される映像みさせられて…。そのあとの記憶ないのだ!
「俺はここにいる。早く帰っておいで」
まだ遠いのだ。こっちきてよ、シンジ。
「心配かけて悪かったな。俺は死んだりなんて絶対しない。もちろん浮気なんて絶対しないから」
わかってるって。
声のするほうへ、歩きだす。
「何度でもいうから」
いつもいつも、ごめんね。
「愛してる」
ああ、まぶしい。光のほうへ。飛び込む。
× × ×
「…シンジ」
「やっと帰ってきたか」
「ごめん…いつも」
「まさかベッド以外でもなるとは思わなかったから、ほんとに、心配した」
俺の呼びが届いたのだろうか。たま子はいつも通り帰ってきた。
まわりにはボンバーもいなくて、俺は下に戻る。客もいなくて、静かだ。りょうたちがうまく客を外に出したのだろう。
「誰もいないね」
「…貸し切ったのさ」
あれ、俺はこんな嘘つくような人間じゃないのだが。
「ほんと!?」
こんなぱっと喜ぶ妻をみれば、俺はもう十分だった。
「シンジさーーーん!」「たま子!シンジ!無事だったのね!」
遠くからりょうとはるのが走ってくる。
「ああ。ありがとな」
「いいえ…。たま子さん、おかえりなさい」
「たま子~!もうなんでいつもいつも人質になっちゃうのよ~!」
「うわあ!はるの!苦しいのだぁ!」
「僕のこと無視ですか!」
「地味男の分際で僕に反応してほしいだなんて出過ぎたこといってるんじゃないのだ」
…。本当に、よかった。
でも…。そんな定期的におとしてしまって、俺はなんて無力なんだろう。
必ず帰ってきてくれるけれど、ほんとはおとしたくなんてない。
そんなに俺はたま子にとって不安定要素でしかないのだろうか。
「シンジー!何ぼーっとしてるのだ!貸し切ってくれたんでしょ!?一緒にまわろう!…あれ!?店員もいないのだ!スり放題なのだ!」
「…!ぞんぶんにスればいいさ」
「いやダメでしょシンジさん!」
「ちゃんとあとで俺が払うからいいのさ」
「…なるほど(なんだよイケメンすぎか)」
ま、あとあと考えればいいか。俺の変わらない心を少しずつでもわかってもらえればいい。
「シンジー!こんなにいいものがたくさんあるのだ!」
「何その趣味悪い服に気色悪い鞄!?」
「地味男に聞いてないのだ!」
「いやあなたのセンスおかしいわよ!?」
「はるのにも聞いてないのだ!」
聞いてるのは、俺、か。
「…とても、いいと思うぞ」
「へへ、だよね!シンジにあげる!」
…。かわいいな。その笑顔、大好きだ。どうせ俺が買うことになるのだろうけど、その笑顔で負ける。
「はは、ありがとな」
あぁ、雪が降ってきた。ホワイトクリスマス…というらしい。
「ダブルデートしてやるのだ、地味男、はるの!」
「上からだなおい!?頼んでないし!?」
「いいわよノってやろうじゃない!」
「なんか戦いみたいになってる!?」
「いいじゃないか、楽しそうだ」
そうして人が全くいないアウトレットでぞんぶんにホワイトクリスマスを4人で過ごしたのだった。
後日、請求された額がゆうにたま子だけで30万超えていて彼の怒りのリミッターが一時的に外れたのはまた別の話。
けけけ様には感謝御礼申し上げます。楽しく書かせていただきました。