宣戦布告
マヤとホタルは校門をくぐり学園の敷地内に入っていた。
「やっぱ落ち着かないなーー」
「お兄様、初日から制服着崩すのはどうかと思いますけど」
「ん? ああ、そういえば兄妹設定だったな。ごめんごめん」
二人は今日この学園に編入する事になったのだ。普通なら緊張が高まる道のりのはずだが二人はまるで歩き慣れた道を歩くかのように堂々と歩く。
マヤとホタルはどちらも整った顔をしている。だから少なからず周りの視線を集めているのだが、二人は全く気にしない。
「それにしても広いなこの学校。無駄な金を使い過ぎだろう」
「そうですか……ボクは、この学園結構好きですよ。綺麗ですし」
「呑気だねぇ……ホタルは」
談笑しながら二人は歩いていると二人の後方から轟音が響いた。二人は気にせずに歩く。
「襲撃だ! 一般生徒は速やかに避難しろ!!」
教師のような男が叫ぶ。
「うるさいな……ミサオとゲンゴがもう始めたのか。それにしても、派手過ぎねぇか?」
教師の言葉にやっとマヤが顔を顰める。そのうちにも爆音は続けて鳴り響く。
「あの二人の戦闘は、いつも騒々しいですからね」
ホタルの声を掻き消すようにして、爆音は鳴り響く。その騒音にマヤは、顔をさらに顰めて呟く。
「やっぱ、うるせぇな……」
◇◇◇
六色学園正門。
この、学園に入学する者は、誰しもこの美しい門をくぐり、まだ見ぬ学園生活に夢を膨らませるだろう。
その、正門が跡形も無く破壊されていた。
そして、その正門の残骸を踏み躙る者がいる。
二人組のその男達は身体中を黒いローブで覆い、顔もフードでスッポリと隠している。正体不明の侵入者だ。
そして、その二人組を取り囲むようにして、十人程の男が立っている。老若男女様々のその集団は、この学園の教師だ。教師とはいえ、皆々熟練の魔術師だ。彼らは並のテロリストなら高速で捕縛することもできる。未来ある子ども達の命をそうやって守ってきた。
その集団がこの二人組には、まるで歯が立たない。
「ツマランナ」
小柄の男が手を振るう。その手から、ビー玉サイズの黒い球体が数個放たれる。
「マズイ! かわせ!」
教師達は素早い動きで散り散りに避ける。黒い球体が着弾すると爆発を起こす。
「逃ガサナイッ!」
再度手を振るい、球体を放つ。数人避けきれずに爆風に吹き飛ばされる。
戦況は圧倒的にローブ男達が有利だ。
「クソッ! 隙がない」
教師の一人が呟いた。
そう、魔法を発動するまでに先ほどの黒い球体型の爆弾で邪魔をされる。そして、あのような爆弾を扱う相手に接近戦などできるはずもない。大柄な男は戦闘に参加する様子もないが、その状況がいつまでも続くとは思えない。
「流石に時間をかけ過ぎだな……俺も戦闘に参加するぞ」
大柄の男の言葉に教師達が硬直する。大柄の男の実力は未知数だが、放たれる威圧感から小柄な男とほぼ同格と考えていいだろう。
(戦闘に参加されれば確実に負ける!)
そう、考えた教師達の行動は早かった。
不意をついて、一人の教師が魔法を詠唱し始める。
しかし、それを二人組は許すはずがない。爆弾で阻害される。
しかし、それは囮。
「封じろ流水棺桶!」
大柄な男を水が取り囲み、動きを封じる。これで、しばらくは行動できないだろう。
「ナニッ!?」
まさか、捨て身の特攻に出るとは予測していなかったのか、小柄の男に一瞬隙ができる。その隙を教師達は見逃さない。
「噛み砕け暗黒牙!」
トラばさみを連想させる巨大な黒い牙が出現し、小柄の男に襲いかかる。
「まだまだぁあ!! 火炎龍!」
「合わせますっ! 岩石龍!」
闇の牙の後を追うようにして、炎と岩で、できた龍が二人組に現れ襲いかかる。
凄まじい轟音を響かせ、襲いかかる魔法を二人組はただ見ているだけではなかった。
「オモシロイ……真っ向勝負ナノダ!」
小柄の男が黒い息のようなものを吐き出す。
黒い息が三つの魔法とぶつかると先の球体型爆弾のように、爆発を起こす。
双方の攻撃は激突し、拮抗する。
そして……
「グオオオオオオオオォォォオ!!」
とうとう、教師側が放った三つの魔法が、爆発を食い破る。
「フム……マダマダ調整ガ必要ダナ」
小柄の男は、ポツリと呟き魔法に呑み込まれた。