月光
五つの名家を六つの名家に変更。
月光真夜は、元々は黒月真夜と言う名前だった。
黒月家は六つの名家の一つで代々魔力が高く
魔法に長けた一族である。その為、優秀な魔術師などをたくさん輩出してきた。
そんな名家に産まれてしまったマヤは全くもって魔法の才能がなかった。その為真夜は誰にも愛情を注いでもらえず孤独に生きていた。両親は、魔法の才能があった双子の弟を愛し、真夜には厳しくあたった。それでもマヤは家族や友達に認めてもらえるように毎日、死に物狂いで魔法を鍛えた。そんな時にあの事件が起こった。
当時十歳の彼が通っていた学校で窃盗事件が起こったのだ。そして彼はその事件の犯人に仕立て上げられてしまったのだ。彼は必死に無実を主張したが誰も信じてもらえなかった。弟と幼馴染に蔑まれ、虐められた。両親は真夜に全く関わろうともしなくなった。
一年後彼は、家を追い出された。彼が出て行って喜んでいた者もいたそうだ。マヤは、理解した。この世は力が全てだ。そして彼は必ず強くなると決心した。
十二歳になった彼は日本を出た。強くなると決心しても日本は当時から平和だった。そんな場所では強くなれない。本当の戦場を経験しよう。平和も秩序もない場所で経験を積もうと考えたのだ。
外の世界は彼の想像以上に過酷だった。正義も悪もない場所。あるのは争いだけ。一瞬の気の迷い、油断が死に繋がる。
銃弾や魔法が飛び交う戦場で真夜は、人の醜悪さを見てきた。そして、自分自身もそこで勝ち続け全てを奪い醜くなっていった。いつしかマヤは、戦場で【黒い悪魔】と恐れられるようになった。
十四歳で帰国した真夜は、日本の様子に吐き気を覚えた。誰もが自分を偽り、決められた規則に従うだけの生活。力を持っているのに綺麗事を並べて自分の欲望を封じ込める。
この者達は生きていない。あの戦場で生きていた者達こそが本当に生きていたのだ。しかし、同時に日本は最早変われないものだというのも分かった。
ずっと前からある規則。今頃抗ってもどうにもならない。しかし、真夜は見てしまった。こんな世の中じゃ生きていけないと叫ぶ人間を、もっと自分のしたい事をしたいと願う人間を。
だから彼は創った。太陽の明るさが人間の欲望を隠すなら、人間の欲望を曝け出す月を。その日彼は、『黒月』を捨て『月光』になった。彼は自分と同じように名を捨て『月光』を背負ってくれた者たちと共に【月光ファミリー】を創り上げた。
◇◇◇
「ここまできた」
俺はポツリと呟いた。俺達のグループは犯罪組織としては人数が少なく全員で六人しかいない。しかし、一人一人が強かった。そして、創立二年で日本に【月光ファミリー】は世間に恐れられる大組織になった。そしてこれからも【月光ファミリー】は大きくなるだろう
「はあ……」
俺は今、任務を終えて隠れ家いる。その隠れ家だが部屋の数が多く、十分広さがある。お世辞でもいい家とは言えない程薄気味悪いが、いつもここに帰ってくると穏やか気分になる。
今はその家の一室で仲間を待っている。だが、明らかに遅い。何か遭ったのか。そんな事を考えた時だった。扉が乱暴に開き、一人の少女が駆け込んで来た。
「ゴメン! 遅くなったよ! マイダーリン!!」
年は俺と同じで今年で十六歳になる。赤く背中まで伸びた長い髪は艶があり。瞳も同じように赤くまるで宝石のようだがキリッと鋭く誰にも穢されない太陽を連想させる。顔立ちは目と同じよう美しいが、瞳にあった鋭さを消し去ってしまう程の包容力を感じさせる。体格もすらっとしていて長身。『姫騎士』そんな言葉が似合ってしまう少女だ。しかし、その容姿とは裏腹に性格は変態で常に馬鹿な事を言っている。
彼女も【月光ファミリー】のメンバーの一人。
『月光 緋奈』だ。
俺はこいつに報告があると言われて待っていたのだ。
「誰がダーリンだ!」
「うるさいです」
俺とホタルが言った。ついでにホタルは今、晩ご飯の準備をしている。
「そうだよね私は恋人なんかじゃないですよね……はっ! じゃあ私とマヤの関係は××××それもそれで……グフフフフ。ジュルリ」
なぜだろうヒナをメンバーに加えた事が不安になってくるが、彼女も実力はある。メンバーの中でも戦闘に特化していて、魔法の威力は目を見張るものがある。
「そんな事よりなんか用があったんじゃないのか?」
「そんな事ってなによー! 私とは遊びの関係だったのね……シクシク」
「うるさい!」
「はいゴメンね!」
とうとうホタルに怒られてしまった。ホタルとヒナは気が合わないのか常に喧嘩をしている。まあ大抵ヒナが謝って終わるのだが。
「うぅ…まあ、とりあえず報告しなきゃいけない事があったんだ」
「それを早く言えよ」
こんな性格だが、彼女も俺と考えが同じで殺人や窃盗、悪事ならなんでもこなす。
「ええっと。コウガちゃんが任務があるから至急……あれ? 忘れちゃった」
「おい! こら! どうすんだよ⁉」
「しょうがないじゃん! 私の記憶力は乏しいんだよ!!」
「忘れたってヒナーーー!!!」
「ひゃあーー!! ホタルちゃんお慈悲をお慈悲をーーー!!!」
とうとうホタルの雷が落ちた。避難しなければ。
「まあ、落ち着いて下さい」
そう言ってもう一人部屋に入って来た。
年齢は俺の一つ下で今年で十三歳。金髪碧眼で顔立ちはまだ幼く体格も少し小柄だが、あと三年もすれば完璧な美少年になるだろう。しかし、この少年も少し残念なところがある。
「なんだいたの? リュウセイ」
流星と呼ばれた少年は肩を落として、ため息を吐いた。
そう彼は美少年なのだがこのメンバーの中では地味なのだ。しかもメンバーで一番常識人でツッコミ役。それが影をさらに薄くしている。
「そりゃないっすよ……姐さん」
彼も【月光ファミリー】のメンバー。
『月光 流星』だ。
大抵ヒナとコンビで仕事をこなしている。
ヒナとは違い力や魔法が強いわけではないが、防御やサポートを完璧にこなす。冷静で頭の回転が早く、暴走する緋奈を上手くコントロールしている。しかし、振り回される事も多々ある。
同じサポートタイプのホタルを尊敬していて『姉さん』と呼んでいる。彼も戦闘や任務時には残虐になり目的の為ならどんな手段も使う。
「で、どうしたんだリュウセイ?」
「コウガさんが、いつもの場所に至急来て欲しいとのことです」
「要件は?」
「任務の事と聞いてますけど、詳しくは……」
「そっか。ありがと」
そう言うと彼はにっこりして、
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「んじゃ、出かけて来る。ホタル一緒に来てくれ」
「えぇー! 私じゃないのーー!」
ヒナがガックリとうなだれる。
「当たり前でしょ! ボクとマヤは最高のパートナーなんだから」
堂々と宣言するが顔がみるみる真っ赤になっている。その様子に思わず笑みが零れる。
そしてホタルは真っ赤な顔をこちらに向け突然俺の手を握ってきた。
「い、行くよ!」
そう言ってホタルは乱暴に俺の手を掴んだまま駆け出した。突然の行動にバランスを崩しそうになりながらもついて行く。
「ちょっ! 危ないって! あぁ、そうだ」
そして、二人は示し合わせたかのように同時に振り返る。
「「いってきます!」」
「いってらっしゃい。頑張って来てくださいね」
「いってらっしゃーーい!」
そして、俺とホタルは家から出た。