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『伝説の剣』Dragon Sword Saga 外伝1  作者: かがみ透
第七章 伝説の剣 Ⅴ 最後の戦い
18/21

決戦

改行、表現その他、読みやすく直しました。(2016.9.17)

「あそこに見えるのが、ローダンの山か」


 人ひとり通らない寂れた街道から、鬱蒼(うっそう)とした森の奥に(そび)え立つ山を見上げ、レオンが口を開いた。

 彼も、村の老魔道士から受け取った魔除けのペンダントを首から下げている。


「ウマは、どうやら、ここまでのようだな。ここからは、足で登って行った方がいいだろう」


 乗ってきたウマを、山の(ふもと)の、森の木につなぎ、レオンとケインは、ローダンの山へと、入っていった。

 進む度に、獣人を中心としたミドル・モンスターたちの襲撃に遭遇した二人だが、それも予想のうちと、次々と切り倒し、意気揚々と登っていく。


「もうすぐ頂上だよ、レオン」


 ケインがそう言って振り向いた時だった。

 それまで後ろに付いて来ていたはずのレオンの姿が、忽然(こつぜん)と消えていた。


「あのオヤジ! やっぱり迷ったな!」


 ケインは舌打ちすると、もと来た道を、レオンの名を呼びながら、戻っていった。


「どこだ、ここは?」


 登り坂はない。

 レオンは、しばらく首を傾げていた。

 辺りが突然暗くなり、獣の唸り声が聞こえ、二つの黒い影が、ふいにレオンの目の前に現れたのだった。


「よく来たな、レオン・ランドール」


 それが、一月前に村の空に浮かんでいた魔道士たちの実物だということは、レオンも承知していた。


 長身の痩せた方の男は、レオンと同じ位の背丈で、年齢も似たようなものか、もう少し上らしいと、彼は思った。

 もうひとりの、少し小柄な男は、三〇代半ばほどに見え、魔道士にしては、普通の青年らしさの方が強く現れている。


「どうやら、ここがローダンの頂上らしいな。これは、願ってもみないことだぜ」


 レオンが、にやっと笑った。

 彼は、ケインよりも、なんとか早く頂上に着いておきたかった。

 というのは、幸いにして、魔道士の二人は、レオンをマスター・ソードの持ち主だと思い込んでいる。

 魔道士たちがケインと接触する前に、自分が彼らを倒せればそれで良い。


 万が一、失敗に終わり、洗脳されそうになった場合は、老魔道士のくれた指輪を使うつもりでいた。彼が死んでも、バスター・ブレードは、巨人族が取り返しに来ることになっているため、悪用されずに済む。


 彼の中では、やはり、毒の仕込まれた指輪を、ケインに渡すことはおろか、ケインをそのような危険な目に合わせたくない、という想いが強かったのだった。


 ケインの剣の腕に、不安があるわけではない。むしろ、絶対の自信がある。

 自分がケインくらいの年齢だった頃を思い返せば、既に自分を超えているとさえ思うほどに、ケインの腕を見込んでいた。


 だが、それでも、魔道士との実戦は初めてのケインでは、上級魔道士の狡猾さには苦戦するだろうと、経験から、レオンには予想がついていた。


「マスター・ソードはどうした?」


 長身の魔道士は、無表情で問いかける。

 平坦な声に、沈んだ目と、その陰気な青白い(おもて)には、ただならぬ魔力を秘めているらしいことを、レオンの戦士としての勘が、瞬間的に見抜いた。


「こいつだよ」


 レオンは、左手で、背中のバスター・ブレードを抜いてみせた。


「随分、大きいんだな」


 小柄な方の魔道士が、思わず呟いた。


(やはりな。奴ら、剣をあまり知らねえな。それとも、マスター・ソードの姿形を、もともと知らなかったのかも知れん)


 レオンは、長身の魔道士に、再び視線を戻した。


「ザンドロスだっけ? あんた、『バール・ダハ』を呼び出そうなんて、バカなマネはやめねえか?」


 バスターブレードの峰で、肩を叩きながら、レオンは明るく言った。


「ほう。何もかもわかっていて、ここまで来たというのか。無謀な」


 ザンドロスは、口の端を少し上げ、続けた。


「ならば、話は早い。貴様ごと、その剣を頂こう!」


 ザンドロスが黒いマントを広げる。

 そこから吹き出した黒い奇妙な魔の生物たちが、一斉にレオン目がけて襲いかかった。

 レオンは戦い慣れた様子で、それらを次々と切り伏せていった。


「おお! なんという威力だ! ザンドロス様、あのように、いとも簡単に魔獣どもを切り裂いてしまうのでは、奴を手に入れるのは困難かと……」


 小柄な方の男が困惑して、長身の魔道士を見上げる。


「ふむ、確かに、凄まじい威力ではあるが、……あれは、本当に、マスター・ソードだろうか」


 レオンの戦う姿を見ながら、ザンドロスが、幾分怪訝そうな表情になる。


「私が大魔道士様からお聞きした限りでは、ただのロングソードと似たような形状をしている、ということであったが」


「しかし、あのように、魔物を切り刻んでおります」


「ふむ……」


 しばらく考え込んでいた魔道士は、突如、レオン目がけ、てのひらから炎の球を発射させた。

 勢いよく迫る火球に、はっと気付いたレオンは、バスター・ブレードで弾き返した。


「魔法も効かぬ。やはり、あれはマスター・ソードなのであろう」


 そう判断したザンドロスは、何もない空間から、突然黒い木の杖を、右手に浮かび上がらせた。


(来るか!)


 魔物を切り倒しながら、レオンは、ザンドロスへと、身体の向きを変える。


 魔道士が奇妙な言葉を唱え始めた。

 それが何かの呪文であるらしいことは、レオンにも察しがつく。


 途端に、レオンの周りに、地面まで覆う半円形の薄い膜が出来、彼とその周辺の黒い数匹の魔物たちは、閉じ込められた。


 更に、魔道士の呪文が続く。

 長めの呪文が終わると同時に、ザンドロスの右手の杖から、青い電光が走り、膜へ伝わった。

 膜の中では、あらゆる方向へ、稲光が発生する!


「なんだ、これは!?」


 レオンは、地面に膝をついた。

 身体に直接ダメージを与えるというより、脳に、精神に作用する魔法だと理解した。立ち上がろうと抗えば抗うほど、頭が割れるように痛み、身体全体の力が抜けていく。

 レオンの周りの魔物たちは、とうに消滅していた。


「ほう、まだ意識があるとは。並の人間の精神力を、とうに越えている。それだけ、貴様の精神は鍛えられてきたのだろうが、そうであればあるほど苦しまなくてはならないとは、皮肉なものだ」


 ザンドロスの目が鋭くなった。

 レオンを包んだ膜の中では、一層激しく稲妻が走る。

 とうとう、呻きながら、レオンは俯せに倒れた。


「ザンドロス様! まさか、奴は死んでしまったのでは……!?」


 小柄な魔道士が、動揺する。


「馬鹿者。洗脳しやすいように、意識を遠ざけただけだ。まったく、これだから、新米魔道士と一緒に行動するのは面倒なのだ。大魔道士様の命令でなければ、おぬしなど連れて来たくはなかった」


「す、すみません」


 ザンドロスににらまれ、小柄な魔道士は、余計に小さくなった。

 

「レオーン! どこだー?」


 突如、木々の間から現れた少年を、二人の魔道士は、見開いた目で追った。


「あっ、こんなところで、何寝てるんだよ。ほら、行くぞ」


 倒れているレオンに、ケインが近寄り、黒マント姿の魔道士たちに気が付くと、はっとした。


「誰だ、お前たちは!? そう言えば、ここは頂上じゃないか。……そうか、

お前たちだな、俺を洗脳しようとしてるやつらってのは!」


 ケインは、マスター・ソードを、すらっと抜き、構えた。


「誰が、貴様のような間抜けな小僧など洗脳するか! 邪魔をするなら、貴様も倒すまでだ! ザンドロス様、ここは、私めにお任せを」


 小柄な魔道士が進み出る。両手を丸く形を取り、呪文を唱え始めた。


 ケインが不審な顔になった。


「なんだ、それ? ……そうか、呪文だな!? それが、魔道士の使う呪文攻撃ってやつだな!? よーし、やってみろ! やってみろよ! 俺のマスター・ソードで、受けて立ってやるぜーーーっ!!」


「うるせーーーっ! 呪文を唱えるのに集中できないではないか! 少し黙ってろ、小僧!」


 小柄な魔道士は、もう一度、始めから呪文を唱えようとした。

 それを、ザンドロスが、手で制する。


「小僧、今、マスター・ソードと言ったな? お前のその剣が、マスター・ソードなのか?」


 魔道士の陰気な瞳は、ケインの剣に注がれた。


「そうだ! 俺が一五代目マスター・ソードの使い手、ケイン・ランドールだ!」


 レオンの作戦もむなしく、ケインが左手を腰に当て、右手の剣を二人に向けた。


「なんだって!? じゃあ、マスター・ソードは二つあるのか!?」


 小柄な魔道士が、悲鳴のような声を上げた。


「馬鹿者! そのようなことは、あるわけがない! どちらかが贋物(にせもの)だ!」


 ザンドロスが新米魔道士を叱りつける。


「それでは、わたくしが試してみましょう!」


 小柄な魔道士が、また別の長い呪文を唱える。

 ケインは、二人の魔道士に油断なく目を配る。


「ゆけ! デモン・ビースト!」


 青年魔道士の目の前には、全身を薄黒い緑色に染め、二本の角を頭の横に生やした、ヒトの二倍はある不気味な姿をした獣人が現れた。

 ケインは(ひる)むことなく見据え、剣を構える。

 獣人は牙を向き、ケインに躍りかかっていった。

 

 ケインを襲った鋭く尖った爪は、空しく空を切っていた。

 咄嗟に飛び退いたケインに、続けて獣人が突進していく。

 彼の剣は、次々繰り出される鋭い長い爪を防いでいく。


 デモン・ビーストの爪がマスター・ソードに接触する度に、バチバチと緑色の火花が散り、その度に獣人は退き、唸り声を上げ、警戒しながら別の方向からケインを襲おうと試みる。


 思うように獲物を捕らえられないと悟った獣人は、一旦、彼から離れると、雄叫びを上げた。

 デモン・ビーストの身体は、次第に薄黒い緑色から、完全な黒へと変色していき、巨大化していったのだった。


 更に巨大化した獣人は、現れた時の三倍となった。

 目一杯、開かれた牙だらけの口からは、炎の渦がいくつもの輪を描きながら、ケイン目指して発射された。


 巨大な炎の渦は、マスター・ソードに吸収され、消え去った。

 と、同時の、ケインの一薙(ひとな)ぎが、獣人を、一気に真っ二つにする!

 二人の魔道士は、目を見張った。


 グギャアアア!


 獣人の悲痛な叫びが終わらないうちに、ケインは高く飛び上がった。


「剣に()まいし

 黒い竜――ダーク・ドラゴン――よ

 今こそ目覚め、

 偉大なるその力を、

 貸し与えよ!」


 ドラゴン・マスター・ソードからは、黒い炎が噴出し、半透明の巨大な竜へと姿を変え、二つに裂けてなお動き回っている獣人を、巨大な口で一飲みした!


「あああ! なんてことだ!」


 小柄な魔道士の目には、その状況は、とうてい信じ難いものとして映っていた。


「思い知ったか! お前たち魔道士の使う黒魔法なんか、俺には効かない!」


 ケインが剣先を向けた。


「ザンドロス様!」


 新米魔道士は、長身の魔道士を振り返った。


「あれでは、奴を洗脳するなどは――!」

「案ずるな。所詮は、あやつも人間だ」


 ザンドロスは静かに目を閉じ、再び開いた時には、その目は、ぎらりと輝いた。


「奴は、既に、我が結界の中だ」


 ザンドロスが杖を振り上げると、ケインの知らない間に出来ていた周囲の薄い膜が地面から伸び上がり、ドーム型に彼を包み込むと、レオンの時と同じく、青い電光が走ったのだった。


「何だこれ!?」


 稲光の中で、ケインは頭を押さえ、膝をついた。


「き、汚いぞ! 人が戦ってる間に、変な仕掛けなんかしやがって――!」


 (わめ)くケインを冷ややかに見つめながら、上級魔道士が口を開く。


「精神攻撃だ。その剣を手放せ。そうすれば、苦しみから解放される」

「いやだ! 誰がそんなこと……!」


 彼はマスター・ソードを余計に強く握り締めるが、頭を締め付ける痛みは増すばかりだ。

 それでも、術に対抗しようと、剣を振るい続ける。


「ほう。貴様も、父親のように、並の精神力ではないらしい。さすがに、伝説の剣を手に入れただけある。だが、不死身というわけではあるまい。逆らわずに、剣を手放した方が、身のためだぞ」


(……父親……!?)


 苦しさの中で、開かれたケインの片方の瞳には、離れたところで倒れているレオンの姿が映った。


 ケインの身体は痺れ、言うことをきかない。

 とうとう、どさっと、俯せに倒れ込んだ彼の手からは、マスター・ソードがこぼれ落ちた。


 完全に、動かないと確信してから、ザンドロスがケインに近付き、剣を拾い上げる。


「これが、あの伝説のマスター・ソードか! ……ついに、我が手の内に……ふはははは!」


 それまで一度も笑うことのなかった、表情のない青白い顔には、大胆な笑いが浮かんでいた。

 仲間とはいえ、その異様さに、思わずビクッと強張(こわば)り、怯えたように見ている小柄な魔道士の姿も、そこにあった。


「さて、それでは、貴様の洗脳に取りかかるとしよう」


 長身の魔道士はしゃがみ込み、ケインの顔をぐいっと自分の方へ向けた。

 ケインが、苦しそうに片目を開く。


「悔しいか? 残念だったな、小僧」


 魔道士はマスター・ソードを小脇に抱えると、杖の先端についた緑色の宝玉を、ケインに翳した。

 緑の(もや)が、ケインの頭を覆い始めている。


「……誰が、……洗脳なんか……!」


「往生際の悪いやつだ。観念しろ。洗脳も精神攻撃のひとつだ。さっさと受け入れないと、また先程のように、苦しむことになるぞ」


 その時だった。


 笑っていたザンドロスの表情が、瞬時に苦痛に歪む。


「ぐわあああああ!」


 何かが魔道士の身体に重く食い込んでいた!


 ケインは、はっと起き上がった。もう彼を苦しめる術からは、解き放たれていた。

 そっくり返った魔道士の腕に突き刺さっていたのは、バスター・ブレードだった。


 ケインが振り返ると、倒れていたはずのレオンが、太った老人に抱えられ、立ち上がっていた。


「レオン! せんせい! いつの間に……!」


 老魔道士は、ケインを嬉しそうに見た。


「お前さんたちのいない間に、空間移動の術をマスターしたのじゃよ。もちろん、魔力を増強するアイテムに頼らなくてはならんかったがのう」


 改めてケインが老人の姿に目をやると、大きな数珠の連なった首飾りや、全ての指にはめられたいろいろな色の宝石のついた指輪、ブレスレットなど、彼の身なりは随分とごてごてとしていたのだった。


「おのれ、貴様ら!」


 小柄な魔道士が一瞬消えると、すぐに二人の前に姿を現し、短い呪文を唱えると、レオンと老魔道士に発動させた。

 その直前、彼らの周りには緑の薄い膜ができ、魔道士の炎や稲妻など、魔法攻撃を簡単に防いでいく。


「ほほほ、無駄じゃよ! これらのアイテムがあれば、ワシの魔力は、今や上級魔道士並じゃ! 貴様のような木っ端魔道士など、敵ではないわ!」


 老魔道士が、陽気に笑った。


「おのれ! この成金魔道士め!」


「成金のどこが悪い! これだけの力を得るのに、どんだけ金がかかったと思っておるのじゃ! 貴様らヤミ魔道士などは、『魔道士の塔』にも『魔道士協会』にも、一銭も払っとらんくせに!」


 結界を隔てて言い争う魔道士たちを置いて、レオンが叫んだ。


「ケイン、そのバスター・ブレードを使え! そいつで、ザンドロスを叩っ斬るんだ!」


 倒れている長身の魔道士の腕から、バスター・ブレードを抜き取ったケインは、即座に振り下ろした!


 が、魔道士の姿は既にそこにはなく、代わりに、割れた宝珠の破片が、地面に飛び散る。


「よくも、親子そろって、私の計画を邪魔してくれたな……!」


 ザンドロスは宙に浮いていた。青白いその顔は、怒りの形相へと変貌している。

 傷付いていない方の手には、マスター・ソードが握られている。


 ケインがバスター・ブレードを構える。


 魔道士の身体からは、奇妙な稲光が発している。

 始めは小さな風圧が、今では、二人を取り囲んだ竜巻のような暴風と化す。


「これで、貴様の逃げ場はなくなった。もう、助けも届かぬ」


 周りの景色がどうなっているのか、ケインには観察している余裕はない。

 吹きすさぶ暴風の中で見失うまいと、ザンドロスだけを目で追う。


「私には、この中のダーク・ドラゴンを操ることは出来なくとも、貴様ら生身の人間にとって、剣は脅威だろう。おのれの剣にかかって死ぬがよい!」


 魔力を最も引き出す宝玉を壊された今、魔道士が捨て身の一撃で来ることを、ケインは彼の気迫から読み取った。


 ザンドロスがマスター・ソードを突き出し、ケインへと襲いかかっていく!


 ケインがバスター・ブレードで受け止める。


 衝撃と共に、二つの剣は発光し、方々へ、閃光が走った。


「な……! どうしたというのだ、この力は!?」


 ザンドロスが怯えた声を出した。

 ケインにも剣を通して伝わる、ある強力な力が感じられる。


 同時に、閃光とともに、半透明の黒い西洋竜や白い東洋龍が、別々の方向へ、一瞬で飛び散っていくのも、二人には見えた。


 それに構うことなく、ケインが一気に踏み込み、マスター・ソードを払い()け、一気にザンドロスに斬りつけた!


 ザンドロスの身体は絶叫とともに、閃光の収まった闇の中へと散っていった。


 吹きすさんでいた暴風も収まると、ケインの足元には、マスター・ソードが、音を立てて転がった。


「……ザ、ザンドロス様が……! そ、そんな……! あの上級魔道士だったお方が……!」


 一人残った小柄な魔道士は、老魔道士たちへの攻撃の手を止め、顔面を蒼白にすると、慌てて空間の中に逃げ込んでいった。


「レオン! せんせい! 大丈夫か!?」


 マスター・ソードを拾ったケインは、結界の解かれた老魔道士とレオンへ駆け寄った。


「よくやった、ケイン! 見事、上級魔道士ザンドロスを倒したな! お前は、もう一人前の戦士だ!」


 レオンが満足そうにケインの頭を撫でる。

 ケインも、嬉しそうにレオンを見上げた。


「マスター・ソードの様子はどうじゃ? さっき、バスター・ブレードと刃を交えた時、ダーク・ドラゴンとホワイト・ドラゴンが見えたような気がしたのじゃが……?」


 老魔道士が、心配そうな顔で、マスター・ソードに視線を移した。


「ああ、やっぱり、いなくなってるみたいだ。三つの魔石の、どの力も感じられないや」


 ケインが、マスター・ソードを軽く翳してみてから、言った。


「伝説の剣同士で戦っちゃいけなかったのか?」


 少々動揺した様子のレオンが、答えを求めるようにケインを見た。


「マスター・ソードの正統な持ち主じゃないヤツが使ったからだと思う。あいつは自分の欲望のためにだったし、吸収したドラゴンたちを扱えるのは、俺にしか出来ないから。……あ~あ、また魔石をそろえなくちゃいけないのかなー」


 そう言いながら、伸びをしたケインの顔は、それほど落ち込んではいないようだった。


「村に帰ったら、ワシの水晶球で占ってみようかの?」


「多分、わからないと思う。魔石は、魔道士の魔力でも探し出すのは難しいらしいからね。といって、またあのマスターのところに行って、頭下げるのも、なんかやだしなー……。ま、いいや。そのうちなんとかするよ」


 あっさりとそう言ってのけたケインを、呆気に取られて見る二人であった。


「……お前、随分、楽観的だな」


 レオンが目を丸くしながら言う。


「そう? レオンに似たんだよ。実の親子なんだろ? 俺たち」


 レオンも老魔道士も、驚いてケインを見つめた。


「お前……! 気が付いてたのか?」


 レオンがうろたえる。


「えーっ!!」


 今度は、ケインがうろたえ出した。


「ほんとだったのかよ? ほんとに、レオンが、俺の親父だったのか!?」


「なにっ!? お前、わかってて言ったんじゃないのか!?」


「知らないよー! あいつが――ザンドロスが、俺たちのこと、親子だって言ってたから!」


「名字が同じだから、そう言っただけじゃないのか!?」


「なんだ! そうだったのかあ!」


 ケインが頭を抱え込む。

 レオンも頭を抱え込む。


「こういうことは、魔物にでも倒された時に、今際(いまわ)(きわ)に、カッコよく打ち明けようと思ってたのに! こんなことで、バレてしまうとは……不覚だ!」


「なにぃ!? すると、てめえは、死ぬまで、俺に父親だってこと隠してるつもりだったのか!?」


 焦ってレオンがそれに言い訳しようとしていると、


「とにかく、二人とも、……村へ帰らんかね? 話はその後でも遅くはないじゃろう」


 遠慮がちに、老魔道士が、切り出した。


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