俺、死ぬ!?
どうも、俺です。友成あきら。
呼びづらいなら友ちゃんでいい。
さて、前回どこまで話したっけ。
ああ、そうそう。
俺が、掘りごたつに落ちたとこから、話せばいいんだな?
よし、じゃあ始めようか。
一日目
「あああああああああ!?」
俺は落ちた。
暗い暗い穴の中を、一直線に落ちて行った。
「ぐはっ?!」
地面に叩きつけられる。
ようやく底に辿り着いたようだ。
強い衝撃の割りに、身体はあまり痛まなかった。
さてと、ここはどこだ?
てかなんだ?
なんで笹倉の家の地下にこんな不思議空間が広がってんだ!?
ーー辺りはなぜか明るい。
発光系のキノコでも生えているのだろうか。
そんなことを考えながら、ゆっくり立ち上がった。
「ううん、それにしても・・・」
広い。が、何もない。ただそれだけ。
広さで言うと、そうだな。
ちょうどウチの教室くらいの広さがある。
壁に触る。
なんとも無機質な手触り。
ひんやりして、気持ちいい。
「なんかの秘密基地か?」
まさか笹倉、地球防衛軍だったのか?
いやいやまさか。
そんなわけあるまい。
あの笹倉が地球防衛軍?ぬかせ
一人でため息をついた後、俺は叫んだ。
「・・・てか、マジでここどこだよ!」
「ふん、ガタガタと五月蝿いヤツだ。少し黙ったらどうだ、このキチガイめ」
「誰だ!?」
声がする方を見ればそこには一匹の猫。
・・・・・・ん?
「お前、吉次郎か!?」
「そうだ。久しぶりだなあきら。一年ぶりか?」
そこにいたのは一年前姿をくらました俺の飼い猫、吉次郎だった。
「吉次郎、ほんとにお前なのか!?てか今まで何処に行ってた!?なんでここにいる!?なんで喋れる!?」
一気にまくし立てる俺に、吉次郎が静止をかける。
「まったく、五月蝿い奴め。質問はひとつひとつ、ゆっくりと。こう見えても人間語は苦手なんだ」
「そ、そか・・・」
「まず第一に、ここはお前の世界ではない。ここは地球の裏側。故にあきら、お前の常識はここでは通用しない」
「なっ・・・地球の、裏側・・・?」
俺は絶句した。
そりゃそうだ。地球の裏側なんて、あるわけがない。
そんな話、常識的に考えたらあり得ない。
(お前の常識はここでは通用しない)
吉次郎の言葉が胸に突き刺さる。
そもそも、猫の吉次郎と会話している時点で、全然常識的じゃなかった。
「そういえばあきら。お前、どうしてここに来た。」
「俺か?そうだ、俺、笹倉の家の掘りごたつ!その掘りごたつからここまで落っこちたんだよ!」
ふむ、吉次郎がアゴに前足を当てる。
考える猫。
「笹倉か、そういえば、リストにそんな名前があったかもしれん」
?なんのこっちゃ・・・。
リストってあれか?赤点リストか。
そりゃ仕方ない。笹倉は赤点常習犯だ。
リストに載ってないほうがおかしいぜ。
吉次郎はふむぅと唸ってから、俺を見た。
さっきよりも鋭い目。
なんか真面目な話っぽいぞ?
「その笹倉、様子がおかしかったろ?」
「笹倉か?ああ、変だったぜ?こたつこたつーって連呼してた」
「やっぱりな」
吉次郎は尻尾をゆらり、と横に振った。
昔から、吉次郎は俺に用があると、きまって尻尾をゆらり、と横に振ったものだった。
腹が減ったとか、砂の取り替えしろだとか、そんな感じ。
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
そうか、と吉次郎は前置きしてから、こう言った。
「ーー笹倉は、死んだ」
「は?」
何言ってんだこいつ、そう思った。
誰が死んだ?笹倉が死んだ。
誰が死んだ?笹倉が。
え?死んだ?笹倉が?
おいおい待て待て、俺はそう思った。
なんで笹倉死んだの?ギャグなの?もしかしてドッキリ?
そうだ、そうだな。
猫が喋れるなんておかしいし、あの笹倉が死ぬわけない。
これは夢だ。幻だ。
千と千尋リスペクト!
夢なら早く覚めて欲しい。
「残念ながら嘘でも夢でも幻でもない。笹倉は死んだ。んでたぶんだがお前も死ぬ。てか死んでる」
はぁ!?待て待て待て待てちょっと待て!!
俺が死んでる?ふざけんな!
俺は生きてる!足がある!
死んだなんて、冗談はよせ!
「ここは地球の裏側、表はお前の世界。表のお前は裏には絶対に来られないのさ。生きてる限りな。まぁあきらはまだ生きてるみたいだけど。うん、やっぱそのうち死ぬな」
生きてる限り?
なんだよ、それ。
冗談よせって、俺はまだ17だぞ?
大学だってまだだし、彼女もまだだ。
まだ酒だって飲んでないし、煙草だって吸ってないんだぞ?
ふざけんな、ふざけんな、俺はまだ、人生を半分も楽しんでないんだ!
もうすぐ死ぬとか、軽々しく言うなよ!
「話を続けるか。あきら、裏の世界はな、人間の支配する世界じゃない。統治してんのは頭のイかれたバケモンさ。笹倉は、そのバケモンの餌に選ばれた。もう表には生きては戻れねえだろうな。」
なんだよ、それ。
黙って聞いてりゃ意味わからんことをベラベラと。
笹倉が餌?
生きて戻らない?
うっせえばーか。
んなもん知るか!
勝手におとぎ話語ってろ、この馬鹿猫め!
「表の人間を裏に連れてくるには条件がある。無気力な人間、なんかに絶望して、生きる事を見失ったヤツとかが最適だ。その人間を探して、引きずりこむ。掘りごたつからな」
生きる事を、見失った人間。
笹倉、お前ーー
バカやろー、推薦落ちたぐらいで、職務放棄とは何事だ!
学生の職務は勉強だろうが!
お前、また来年があるって、言ったじゃねぇかよ!
卒業する前に、勝手に消えてんじゃねぇよ!!
なんで、なんで・・・。
・・・いや、一番の原因は俺だ。
あの時、俺がもっと優しくしていれば笹倉は引きずりこまれなかったかもしれない。
「標的になった人間は、引きずりこまれる直前にある言葉を繰り返すんだ」
「それが、『こたつ』・・・」
バカだ、俺。
笹倉の異変を、無視した俺が悪いんだ。
腹がたった。
ーー裏だ?表だぁ?バケモンだぁ?
そんな事知るか!
俺はまた、笹倉にファミチキ奢ってもらうんだ!
死なせねえ!絶対死なせねえ!
笹倉!待ってろ!バケモン殺して、元の世界に帰ろう!
そんでファミチキ腹一杯食べて、一緒に受験勉強だ!
お前のためなら浪人なんて怖くねぇ!
必ず!必ずお前を連れ帰ってやる!
そうと決まれば話は早い!
「おい!吉次郎!武器を用意しろ!ありったけの弾薬を詰め込め!戦争だ!バケモン倒して、表に帰るぞ!」
俺は格好良く啖呵をきった。
目指すはバケモン討伐。
気分は勇者。
ヒロインが笹倉じゃあテンション下がるな。まあその辺の可愛い子をヒロインにすればいいや。
天空の城リスペクト!
「よし行くぞ!吉次郎、40秒で支度しな!」
「いやだからお前これから死ぬんだって」
は?
俺はあんぐりと口を開けた。
吉次郎が、あれ?忘れた?と小首をかしげる。
全然可愛くねぇ。
ーーと、突然目眩に襲われた俺は、無機質な床に突っ伏した。
意識が遠のく。
ちょっ、待っーー
最後に見たのは俺を哀れむ吉次郎の顔。
ーーなんで、こんな最後・・・、あっ床冷てぇ、ひんやりするーー
そこで俺の意識はフェードアウト。
続く?