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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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毒見役ですが、旦那様の私への中毒は防げなかったようです〜魔女の私が王子様と愛し合ってはいけませんか?〜

掲載日:2026/07/14

 『魔女』の私は今日も毒見をする。

 愛する旦那様のために。


 

 今日も、美味しい食事だった。毎日三食、卵や肉が食べられるなんて、なんて幸せなことだろう。

 私が全て食べ終わるのを見てから、王族の皆様が食事を始める。第一王子を毒殺されたこの家族は、食事に対する警戒がとても強い。

 私は淹れてもらった紅茶を飲む。


 口に含んだ途端、ぞくりと背中が震えた。

 紅茶に潜んでいた毒に反応して、口の中が熱くなる。


 唇の間で、白い花が咲いた。


 食卓が静まり返る。皆様が恐怖に染まった顔をしている中、旦那様だけは熱のある瞳で私を見ていた。まるで、溶け始めたろうそくのようで、私はぞくぞくしてしまう。


 昨夜のキスを思い出す。とろけるような甘い口づけ。


 今夜も、あんなキスをたくさんしたい。






「見て、あれでしょう? 第一王宮の毒見役って」

「あの黒い髪、不気味ねえ。目も黒いんでしょう?」


 くすくすと嘲る声の中を私は移動する。

 一人で城内を移動すると毎回これは起こる。


「毒見役って、なにかあったら死んじゃうのに。よく出来るわねえ」

「それしか出来る仕事がないのよ」


 城に使える侍女たちは皆、貴族だそうだ。

 爵位なんてない私は、同じ道を歩くことすら本来許されないのだとか。


 ――なんて思い上がった思考かしら。


 女たちとすれ違いざまに、私はふと手を伸ばした。

 女の髪の毛を掴む――のではなく、彼女の後ろを漂っていた死人の魂を指で思いっきり弾く。虚ろに彼女に取り付いていたそれは、突然の衝撃に暴れまわった。


 でも。その怒りが私に向くことはない。


「? なに?」


 女が振りむいて身をよじる。でももう遅い。


 長い回廊を私が渡りきる頃。


「きゃあああああああ」


 先ほどの女の叫び声が聞こえた。


 ――ほら、罰が当たった。


 思わず顔が笑ってしまう。


 ――私に嫌がらせなんて、百年早いのです。






「ただいま戻りました」


 執務室に戻ると、旦那様が顔を上げた。

 愛しい愛しい私の旦那様。この国の第二王子様で、お名前はノア・マグナリア。


 金髪に金の瞳を持つ旦那様は今日もお顔がとても綺麗。

 真面目で優しくて、でも玉座への執着を捨てられない困った人。

 最近は少しずつ私にも執着してくれているのが、とても可愛いらしい。


「小間使いの仕事をさせてしまってすまなかった。一人で出歩いて大丈夫だったか?」

「ええ。全く問題ありません。特に『誰にも』会いませんでした」


 笑ってみせると旦那様は安心したようだった。

 何も知らない旦那様は気づかない。私がこっそり悪いことをしていることに。


 旦那様が仕事に戻るのを見て、私も私の机に戻った。

 毒見としてここにいる私は、食事の時以外に仕事はない。暇つぶしの手仕事も、だんだん飽きてきてしまっていた。


 魔女なんて呼ばれていても、私にできることは少ない。ちょっと植物を育てて、毒を花として昇華させて、幽霊が見える。それだけ。


 ――人心を操れる、とか、できたらもっと面白かったのに。


 私は窓の外を見てたそがれる。夕食まで後は待ちの時間。


 ――なにか、できることはないかしら。


 考えて、思いついた。偵察なら私にも出来る。それに。

 第二王宮なら、死人が沢山彷徨っている。


 もう、この第一王宮は綺麗に『掃除』が済んでしまった。旦那様のためにはとてもいい状態だけれど、暇つぶしをするには退屈な場所。


 第二王宮は、旦那様の敵が住んでいるところだ。悪い人間には悪いものが集まるもので、あそこは死人がはびこっていた。


 ――あそこで、いくつか死人を食べてきましょう。食べれば死亡時の記憶が覗けるから、あの王宮の悪事を少し暴けるかもしれません。死人を食べても腹は膨れませんから、夕食の毒見にも影響はない。ん、名案です。


「旦那様、私、第二王宮の様子を見に行っても良いでしょうか?」


 思いつくままに尋ねたら、旦那様の動きが止まった。一心不乱に書類を書いていたら手が、ピタリと止まる。


「……何故?」


 その声は、怒気を孕んでいた。


「……情報集めです。今の私に出来ることを、と思ったのですけれど」


 怒らせた理由がわからなくて私は首を傾げていると、旦那様が席を立ってこちらに来た。椅子に座ったままな私は上から見おろされる。少し新鮮だった。


「貴女は、先日第二王宮で自分が何をされたか、忘れたのか」

「覚えてますわ。閉じ込められるなんて、初めての経験でしたから」

「ならば何故、またあの場に行こうとする」


 怒りの籠もった金の目で旦那様は私を見る。いつもの優しい目ではない。


「……旦那様のお役に立てるかと思ったのですが」


 旦那様を怒らせては意味がない。ため息をついたら、旦那様が手を伸ばしてきた。手を握られる。


「不自由をさせてすまないと思っている。だが、無茶はするな。貴女は、俺の要なんだ」


 それは、とても嬉しい言葉。


「旦那様」


 弾む心を抑えて、甘く呼びかける。

 旦那様の指に指を絡ませると、意図は伝わった。


 旦那様が何気ないふりをして後ろを確認する。いつも一緒の騎士様はとっくに部屋から出ていっていた。

 きっと、彼はもう気づいている。


 部屋に誰もいないことを確認すると、旦那様が身を屈めてきた。


「リュー」


 名前を呼ばれて、キスをされる。指が、絡み合った。

 誰もいない時だけ出来る、秘密の蜜事。

 触れ合うだけじゃ足りなくて、離れる唇を追いかけたら、逃げられた。


「ここでは、これだけだ」


 顔を背けた旦那様の耳が赤い。


 ――ああ、可愛らしい。この顔を知っているのは、きっと私だけ。なんて素敵なんでしょう。


 最初は嫌々されていたキスが、いつの間にか蜂蜜のように甘くなっていた。その甘さは体も脳もとろかしていく。


 ――もっともっと、私に溺れてくださいませ、旦那様。一緒に溶けて、離れられなくなるまでくっついてしまいましょう?





「殿下、すみません。先程、騎士仲間から聞いた話なのですが」


 夕食後、近衛騎士のクレスが旦那様に話しかけきました。


「……アーサー様が、魔女殿のことを探っているようです」


 それは、旦那様の異母弟の名前だった。

 そして数日前、私を第二王宮に閉じ込めた少年の名前。

 旦那様は、ワインを持ったまま答えない。


「一応、ご報告します」

「そうか、わかった」


 旦那様はワインを飲む。優雅に。でも私は知っている。


 ――あれは、怒っているお顔。





 旦那様の部屋の水差しを毒見すれば、私の一日の仕事は終わる。

 旦那様は、お部屋のソファーに座って難しい顔をしていた。私はそっと近寄る。


「寝室の水差しも大丈夫ですわ」

「……ああ」


 食事が終わってから、旦那様は喋らなくなった。

 少し悩んで、私は旦那様の隣に座った。両手を広げて見せる。


「どうぞ?」


 それだけ伝えた。

 旦那様には意図が伝わったようだ。しばらく考えるように動きを止めていた。そして、私から顔を反らした。

 拒絶されるとは思っていなかった私は目を丸くする。


 ――旦那様はお好きだと思っていたけれど、違ったかしら。


「……それで毎回、機嫌が治ると思うな」


 旦那様が呟くように言った。私は首を傾げる。


「余計なお節介だったでしょうか?」

「そうだな」

「それは、失礼いたしました」


 悲しい気持ちで、伸ばしていた手を引く。そこで、手を掴まれた。


「……いらないとは、言っていない」


 旦那様のお顔は真っ赤だ。

 くすりと笑ってもう一度手を広げると、旦那様が腕の中に入ってきた。私の胸に顔を埋めてくる。

 旦那様の頭を優しく抱きしめると、旦那様の手が背中に回った。少し、痛いくらいに抱きしめられる。

 大きなため息が聞こえた。


「あのガキ……調子にのりやがって」


 やっぱり、不機嫌の原因は異母弟のようだ。


「誰の女だと思っている……」


 小さい小さい声だった。

 可愛らしくてたまらない旦那様に、私は頬ずりをする。


 ――もう、なんて可愛らしいんでしょう。


「そんなに怒らないでくださいな。なにもされてないんですから」

「なにかされてからでは、遅いだろう」


 旦那様の声が低くなった。


 ――あら? 私、言葉を間違えたようです。


「監禁未遂は十分な罪だ。貴女だから未遂で終わったが、普通の令嬢ならとっくに襲われている」

「そう、なのですね……」

「危機感がないな」

「だって私、例え犯されたって旦那様一筋なのは変わりませんし……気にしませんよ?」

「俺『が』気にする」


 ――嗚呼、私、さらに間違えたようです。


 どんどん怒っていく旦那様を止められなくて、私は口を噤んだ。多分もう、何を言っても怒らせてしまう。

 旦那様は、また一つ大きなため息をついた。私の胸に顔を埋める。


「どうして俺は、こんな……」


 その後は聞こえなかった。


 ――なにを仰ったのかしら。変な旦那様。






 旦那様との逢引をたっぷり楽しんでから私は自室に下がった。

 侍女の皆様と交代でお湯を頂いて、私は今日もふわふわの布団に入る。

 今日の旦那様の可愛いお顔を思い出しながら眠りにつこうとして、目を開いた。


 なにか、嫌な気配がします。


 布団から起き上がる。消したランタンに再度火を灯し、寝間着姿のままそっと部屋を出た。

 感覚を研ぎ澄まして、嫌な気配を追っていく。それは、外から感じられた。


 エントランスに降りると、旦那様の騎士がいた。寝ずの番らしい。


「どうされました、魔女殿」

「外に出たいのですが」

「この扉は既に施錠されております。外に出られるなら、下働き用の通用口にご案内いたしますが」


 騎士様は、なんだか険しい顔をしている。


「但し、同行させてください。魔女殿がその恰好のまま一人で外に出ることは絶対にダメです」

「……? わかりました。では、同行してくださいな」


 彼の条件はよくわからなかったが、嫌だという理由もないので承諾した。

 騎士様の案内に従って屋敷の中を移動し、通用口から屋敷の裏手に出る。


「どちらへ向かわれるのですか?」

「嫌な気配がするのです」


 たどり着いたのは、ある窓の下。足元の地面に、掘り返した跡があった。掘り返せば、それはすぐに出てきた。


「……これは、良くないものですね」


 出て来たのは、布に包まれた何か。手の平に乗るぐらいのそれは中から獣の匂いがした。怨念と憎悪がまとわりついている。呪いの道具だとすぐにわかった。

 騎士様が窓を見上げて呟く。


「ここは、殿下の部屋の下ですね」


 ――旦那様を狙うなんて。


「騎士様。火を起こしてください。炎でこれを浄化します」


 炎は、通用口の前で焚かれた。獣が焼ける悪臭がしたが、炎による浄化は成功した。


「……魔女殿、お部屋に戻るならお送りいたします」


 騎士様の申し出は正直必要なかった。家の中でも護衛されなければいけない程、私は華奢な娘ではない。それでも、騎士様はやけにしつこかった。とにかく行きましょうと、強引に連れていかれる。


 彼が立ち止まったのは、女性用の使用人棟の入口に立った時。


「魔女殿。不躾なのですが、今夜は殿下の部屋にいてもらえませんか」


 予想外のお願いに、私は首を傾げる。


「それは、どうして?」

「仕掛けられていたのが、殿下のお部屋の真下だったのが気になっております。正確に部屋構造を把握している……内部に、仕掛けた犯人がいるかもしれません」


 その考えはなかった。気が抜けていた体に緊張が走った。


「殿下のお部屋の確認を、お願いします。出来れば、今夜は殿下の傍にいていただけると私が見回りに集中できます」


 騎士様たちはこれから敷地の見回りをし直すのだという。

 断る理由は、何もなかった。




 騎士様に扉を開けていただいて、私は旦那様の部屋に入る。


「では、お任せします」


 その言葉と共に、扉が閉められた。真っ暗な部屋の中で持っているランタンだけが足元を照らしている。深夜に男性の部屋を訪ねるなんて、なんだかとてもいけないことをしてる気分。

 ゆっくりと寝室の扉を開けると、静かな寝息が聞こえた。


 旦那様の部屋は、特に変わった様子はなかった。

 起こさないようにそっと近づく。柔らかな光に照らされる旦那様の寝顔はとても綺麗だった。


 ――寝顔を見るのは、初めてですわね。


 膝枕は何度もしているけれど、完全に寝ている姿を見るのは初めてだった。


 ――本当に、可愛らしい方。


 金色の前髪に、長い金色のまつ毛。薄い唇はわずかに開いていて、鼻は高く通っている。

 いつまでも見ていられるお顔だった。




 明日も、私は毒を呑む。

 愛する旦那様のため。

 じわりと侵食していく毒を、ゆっくりと味わう。


 旦那様が、(わたし)に堕ちてくれるまで。




 ***




 目を開けると、朝だった。

 一切夢を見なかったことに疑問を持ちながら、そんな日もあるのか、と俺は身じろぎする。

 何かが、布団の中で体に当たった。


 反射的に布団を翻した。


 布団の下にあったのは、寝間着姿の女の体。


「……は!?」


 穏やかに眠る魔女がそこにいた。横向きに眠る体は、肩がわずかに上下している。

 目の前の光景が信じられず、俺は何度も瞬きをする。何度見ても、それは(リュー)だった。

 昨夜、確かに密会を楽しんだ。豊満な胸の感触に溺れた。だが、寝台にまで連れ込んだ覚えはなかった。


「おい」


 ひとまず起こそうとして、気づく。彼女は、襟ぐりが大きく空いた寝間着を着ていた。

 腕と腕の隙間から、圧迫されて盛り上がった胸が見える。


 ――見るな。


 そう思うのに、視線が囚われる。それはとても白くて、弾力がありそうだった。手の中で簡単に形を変えそうで、指が、埋まりそう、で。

 手で顔を覆うことで、無理やり視線を外した。


「ふしだらな……」


 忌々しく呟いても、怒りをぶつける相手はいない。

 (リュー)は良く寝ていた。長い黒髪が白いシーツの上で綺麗な川を作っている。その手触りを俺は知っている。指通りの良さも、光を受けて変わる色彩も。


 肉付きの良い体は、寝間着に覆われていてもその曲線美をよく映していた。

 紅い唇は無防備に小さく開いている。その奥に潜む、もっと柔らかくて熱いもの。


 ――寝込みを、襲うなどと。そんな野蛮なこと、俺は。


 意思に反して思考は止まらない。

 寝間着一枚退ければ、焦がれる肢体がそこにある。意識のない身体は、どんな反応をするんだろうか。きっと、彼女は怒らない。だが、存分に味わうには時間が足りない。


 ――もっと、日が昇る前に起きていれば。


 今更どうしようもないことを考える。


「……んぅ」


 (リュー)が、寝返りをうった。その胸が無防備に晒される。艶めかしい声は俺の全身を撫でていった。

 もう、胸から視線を外せなかった。白い肌は昇ってきた朝日を受けて輝いている。


 勝手に、体が引き寄せられていく。

 自分がこんなに欲望に弱い人間だと、俺は知らなかった。

 知りたくは、なかった。




 兄が毒殺された。次は自分の番だと悟った。

 抵抗するため、魔女を招いてから全てが狂ってきた。


 噛み合わない会話、狂った倫理、毒を呑んだら口に咲く花。

 最初は忌避感を感じていたはずだったのに。


 今は、もう。花を吐くその姿すら、愛おしい。


不気味かわいい魔女と堕ちていく第二王子のお話でした。

黒髪グラマラスヒロインが性癖です。


ノア視点でのホラーロマンスを連載しております。

最初は抵抗していたノアが堕ちていく様を、よろしければご覧ください。

※この話は20.5話に当たります。


毒を喰らわば、みどりまで〜花吐く魔女は旦那様を逃さない〜

https://ncode.syosetu.com/n4473mi/


よろしければ★を一つでもいいのでいただけるとがんばれます。

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― 新着の感想 ―
エッロ……
耽美で背徳的で叡智な展開で最高です。 文体も相変わらず美しすぎるうえ、緑とノアの気持ち両方に共感できて引き込まれます。 正直、これ以上ない完璧な短編、本編への導入だと思います。 ご馳走様でした。
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