プロローグ
光の瞬き、イルミネーションの点滅。
光と影、生と死。
生まれくる者、死にゆく者。
生の輝き、死の影。
死の影はその魔の手を広げ、暗闇の中に光を覆い尽くす。
淡い光は闇の手から逃惑い、その光を消さんと、身を奮立つ。
赤と青、黄と緑、そして白と黒 …。
暗闇の中で生き延びんと、もがき苦しむ光芒。明滅しつつ、移ろい行く生命。
儚い翡翠の様な命の輝き。光達の連なり。
そこに広がる夜景は素晴らしく、それらは私にとって大切な、心の中の思い出の宝石でもある。
その家は、小さな盆地の西の縁、山際の高台にあった。
眼下には、遥かに広がる盆地を一望に見渡すことができる。
また、晴れた日には、遠く東に連なる山並みの向こうに、赤紫色に輝く富士の頂きを望み視ることもできた。
それは季節ごとに違った貌を見せ、私の心を時めかせた。
朝に夕にと色は刻々と移ろい、空に懸かる雲は様々にその姿を変える。時には笠雲がその富士の頂きを取り巻き、一時として同じ表情を見せることはなかった。
オレンジ、レッド。イエロー、ホワイト、そしてブルー …。夜景の中の、色取り取りな家々の灯火の瞬き。それらは宇宙に広がる星々の様に輝き、一つの大きな【銀河】を地上に形作っている。
今そこに生き、生を繋ぐために喘ぐ者達の息遣いと、その営みを秘めながら。
移ろい行く人生の儚さと脆さ。そしてこの全てが、一時の夢であるがごとくに。
私は、その景色を心から愛していた。それらが儚く刹那い幻であり、また孤独な脆い宝石であることも解っていた。
風が吹き、天空の闇の中を黒く淡いシルエットとなった巻雲が、静かに、そしてゆっくりと東へと流れている。
遠く広がり見える夜景の底からは、微かに夜の響きの音が聞こえてくる。
地上の銀河を映すかの様な、夜空に煌めく星々は天空に眩く光り輝き、死に逝く下弦の月は赤黒く東の山並みの上に昇り、風の中にただ震えながら懸っている。
北の空高く、『死』を司る北斗七星が、その鎌首を大きく擡げている。この小さな世界のどこかで、この瞬間も懸命に生きようともがき続ける者達の、尊い犠牲となる生贄としての獲物を求めるかのように。
孤独な、人々の生への営み。
死の影に怯えつつも、明日という刹那に生への希望を見出し、そして夢見ながら。
蠍座のS字のカーブが南天に懸かり、その心臓で、アンタレスの赤い目がこちらを窺い見ている。私の心の中を、見透かそうとしているかのように。
頭上には天の川が、南天の蠍座の尾の先に始まり、北の空に向かって続き流れている。色取り取りに輝き、煌めく星々に彩られながら。
それはまさに、死せる者達の、魂の光に照らされ輝いているかのように。
明日という希望を夢見る、人々の儚い願い。まるで、それが永遠に続くかのごとくに。
地上に形作られている銀河。
そこには、点滅する灯や消えゆく灯、そして移ろい行く様々な灯火の明かりが星となり、煌めき瞬きながら輝いている。
恰も、天空の夜空に高く懸かる星々が形作る銀河に呼応し、またそれらに対峙しようとするかのように。




